目からビーム。 鼻から歌。 第3回「犬と猫」(2006年)

 フェレットの意外な長さにはおどろいたのだった。

 今やすっかり日本でもペットの定番として定着しているのだろうし、フェレットと聞けば大体の人がその姿かたちを想像出来るだろうと思う。犬や猫などの愛玩動物を飼ったことのない、どちらかというと「ペット」というものに興味がないと言えるかもしれない私にだって、おおまかな姿かたちは想像出来ていた。が、友人の飼っているフェレットの実物を見たとき、自分のあいまいな想像図よりはるかに大きく、そして長い胴の独特のシェイプに思わず「ヒイ」と声を上げた。

 私の頭の中でフェレットは「犬猫よりも小さいが、ハムスターよりは大きい」というもので定着しており、それは犬猫に比べれば、やはりハムスターに近い生き物なんじゃないか、というかたちに自然とスライドし、固定された観念はすっかり強固なものになっていた。それはおそらく大きく間違えているものではないと思う。が、実際に動くフェレットを見た時、何か異様な、「思ったよりもデカい」と感じさせた原因はそのスラリと長い胴体だろうか。いつの間にか「ハムスター寄りのもの」に設定していたせいもあり、もう冗談のように長く見える開。ずんぐりとしたハムスターの体型とは当然だがずいぶん違う。

「思っていたものと違う」が人間に与える恐怖心は侮りがたいものであり、私は足下をすばしっこく歩き回るフェレットを避けるようにソファの上に体育座りでしばらく様子を見ていた。勝手な予測が違っていたからと怯えられては当のフェレットにすればはた迷惑な話だが、友人はだめを押すように言うのだった。

「割と、噛むから」

 聞けば飼い主である友人のことも平気で噛むのだそうだ。先程インターネットで少し調べたところ「一般的に猫よりも人間になつき、飼い主との遊びを好む」とあったが、まあ猫や犬だって噛むのだし、狩猟用に飼育されていたという歴史も関係あるのだろうか。穴蔵を好むフェレットは、しばらく動き回ったのち、私のバッグの中に腰を落ち着けて動かなくなった。

 先に「ペットに興味ないほう」と書いたが、私も以前、友人宅の猫をしばらく預かったことがあった。飼育経験のない中おっかなびっくりで世話しているうち情が沸き、そのうち向こうにもこちらの気持ちが届いたのか、次第に無防備に甘えてくるようになった。いざ飼い主の元に帰してあげる日には「もうこのままふたりで逃げてしまおうか」とすら考えた。動物を「ひとり、ふたり」で数え始めたらすでに「ペット好き」と言えると思う。が、いざ飼い主の手に戻ると私のことなど1秒で忘れてしまったかのようなそぶりを見せるその黒猫の態度に、当時この言葉が流用していたら私はきっとこう叫んでいたに違いない。これがツンデレか!

 先日、そのことを思い出しながらコンビニで何気なく欄を眺めていてはたと気がついた。人間は大きく2種類に分けられる。ペットフードを購入したことのある者と、そうでない者とだ。大概の人に等しく馴染みのあるであろうコンビニの中に、これまでまるで意識したことのなかった空間が突如目の前に現れ、しばらく呆然としてしまった。 私はペットフードを手に取ったことのない人間だった。なんとなくそれを手に取り私は、ほんの数日間だけ、確かに「私のもの」であった黒猫のことを思い出した。飼い主の友人とはしばらく会っていない。友人は、黒猫は、元気に暮らしているだろうか。ふと手元のキャットフードのパッケージに目をやると、そこにはこう書いてあるのだった。

「7歳以上用」

 7歳以下の子猫がこれを食べると、いったいどうなってしまうのか。ペットフードを購入したことのない者は、その意味が理解出来ない。なにか恐ろしい考えが頭をよぎり、私は慌ててコンビニをあとにしたのだった。タイトルを先に考え、つらつらとここまで書いたが、最後まで犬の出てくるエピソードが浮かばなかった。犬に申し訳ない。

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