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日本社会党とは何だったのか -存亡の危機にある社民党から考える-

第49回衆議院選挙の社民党候補についての考察

 今回の総選挙で立憲民主党、日本共産党の惨敗の裏で社会民主党も沖縄2区での当選を除き、小選挙区はもちろん比例区でも議席を獲得できないという党の存続自体が危ぶまれる結果に終わった。衆議院の比例区で全滅したのは今回が初めてのことであり、自治労13県本部から見放されたこと、支持者の高齢化、組織力の衰退を改めて感じさせられた。

 比例区においては2019年参議院選挙の1,046,011票(有権者105,886,064人・絶対得票率:0.98%)を下回り1,018,588票(有権者数105,622,758・絶対得票率:0.96%)であった。前回2017年衆議院選挙の得票数が941,324票(有権者数106,091,229人・絶対得票率:0.89%)であったため、前回衆議院選挙と比較すると盛り返した形にはなるが、ジリ貧傾向であることは否めない。

 その象徴が大阪9区から立候補した社民党幹事長大椿裕子の敗北であろう。前回衆議院選挙で社民党から立候補した服部良一の絶対得票率が9.84%なのに対し、今回の大椿の絶対得票率は9.24%と減少している。(※1)他の選挙区も沖縄2区を除くと熊本3区馬場功世の12.00%、鹿児島4区米永淳子の15.07%を除くと10%を切っている。また、どちらも前回と比較すると減少している。(※2)2003年の総選挙で前回2000年に獲得した19議席から6議席と大幅に下回る惨敗を喫したのだが、今回は社民党についてコメントをしたメディア、識者はほとんど見られず、もはや存在自体が忘れ去られているかのようであった。

日本社会党・社民党の「失敗」とは

 かくして旧日本社会党・社民党は衰退への道を辿っているが、なぜこのようなことになったのだろうか。日本社会党の「失敗」については多くの識者や当時の日本社会党関係者が党の政治上のイデオロギー、組織論、人材や資金面の問題など様々な観点から論じている。おそらくどれも間違いではないのだが、私は腑に落ちないものを感じていた。

 そんな中で石川真澄・山口二郎編「日本社会党」(日本経済評論社)の村上信一郎論文「日本社会党とイタリア社会党」を読み返した。その中で村上は、自民党の知識人抱き込み戦略において社会党に近い知識人がそれに対抗するだけの力を持てなかったことや、自民党政治に対する公明党の姿勢、日本共産党、民社党、新左翼といった勢力を踏まえた左翼論、自民党の長期政権における読売、産経、文芸春秋、新潮といったメディアの政治的役割などを考慮するべきと論じている。その上でこれらの事実や現象にアカデミックな関心を示すことなく、日本政治に特有の「病理」を解明することはできないと評した。また村上はヨーロッパ諸国の社会主義・社会民主主義政党との比較においてのみ日本社会党の是非を論じ、その問題点を指摘しても、日本の政治、日本の社会における特徴、問題を意識し、分析しない限り、日本社会党を正しく分析できないとも述べている。(※3)

 以上を考慮すると、日本の政治状況は深刻であると言わざるを得ない。日本社会党を支援しようとした知識人の問題ということは、知識人が日本社会党のみならず、日本社会党を巡る周りの政治、社会のあり方を正しく理解していないために、日本社会党の支援にはもちろん日本の政治に対する改善に対して何も役に立ってこなかったことを意味するからだ。

 だとすれば、日本社会党に近い知識人がサジを投げる形で日本社会党を見限り、それに代わる形で民主党系政党(民主党→民進党→立憲民主党・国民民主党)を支援したとしても、おそらくこれらの政党も日本社会党と同じ道をたどる可能性が高い。日本の政治において何が問題であり、それへの対処自体を理解しないで自民党に代わる新たな政治勢力を目指しても、有権者は野党を自民党のアンチテーゼとしか認識せず、(※4)現状維持を前提とした政治を選択をするしかないと判断するからだ。

 そもそも論として、日本社会党に関する研究自体が少ないため、文献が日本社会党イデオロギーの可否を前提にした文献や、日本社会党に携わっていた人たちの体験談の域を超えていないものが大半を占めていることからしても、客観的に学問的な研究として日本社会党自体の功罪を正確に議論できる状況にはない。

 以上の経緯から、私は日本社会党の「失敗」について結論を出すにはまだ早いのではないかと考えるようになった。村上が指摘したように、日本社会党の「失敗」が外的要因にもあるとすれば、日本社会党のみならず、現在の野党第1党である立憲民主党も日本社会党同様に政権を獲得することなく、衰退するという「失敗」をする可能性もある。その意味では日本社会党の「失敗」は単に日本社会党の「失敗」ではなく、自民党対抗勢力の「失敗」の一つとして考察、分析していくことが求められよう。

皆が集まっているイラスト1

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(※1)

大阪9区

大阪9区(2021総選挙・2017総選挙絶対得票率比較)

(※2) なお、熊本3区、鹿児島4区、沖縄2区以外の情勢は「2021年社民党候補擁立区の絶対得票率」を参照のこと

熊本3区

熊本3区(2021総選挙・2017総選挙絶対得票率)

鹿児島4区

鹿児島4区(2021総選挙・2017総選挙絶対得票率比較)

沖縄2区

沖縄2区(2021総選挙・2017総選挙絶対得票率)

(※3) 石川真澄・山口二郎編「日本社会党」(日本経済評論社)
村上信一郎著「日本社会党とイタリア社会党」P171~P179

(※4) 立民よ、恒星となれ 伊藤惇夫さんが語る低迷打開策 西日本新聞 2021/2/7 6:00 (2021/2/7 14:26 更新)

 立民党の姿勢が自民党へのアンチテーゼという批判だが、これは有権者も同じように考えている可能性が高い。

参考 2021年社民党候補擁立区の絶対得票率 (※1)、(※2)を除く

東京24区

東京24区(2021総選挙・2017総選挙絶対得票率)

神奈川15区

神奈川15区(2021総選挙・2017総選挙絶対得票率)

広島1区

広島1区(2021総選挙・2017総選挙絶対得票率)

福岡4区

福岡4区(2021総選挙・2017総選挙絶対得票率)

福岡11区

福岡11区(2021総選挙・2017総選挙絶対得票率)


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