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-能登半島地震に臨むこと(中編)-能登半島地震での志賀原子力発電所被災状況について-

 能登半島地震が起きたことを踏まえた考察を3週に渡って考察して参ります。前編では能登半島地震に対して臨むべきことについて考察しました。中編の今回は能登半島地震での志賀原子力発電所(以下「志賀原発」)を巡る状況についてどう受け止めるべきかについて読者の皆様と一緒に考察して参りたいと思います。(当初、予定の「災害という現実を受け止めること」については次週後編で行うこととさせていただきます。ご了承ください。


志賀原発を巡る状況

事故をめぐる状況

 志賀原発が能登半島地震が起きたとき問題がないのかと気にかけていたところ、使用済み核燃料の冷却用プール(以下「使用済み核燃プール」)を冷却するのに必要な外部電源の一部が使用できなくなっていること(※1)、冷却水を供給するためのポンプが一時的に使えなくなった(※2)との報道がありました。その後北陸電力の記者会見では、外部電源を受けるための油圧系変圧器について、2号機の主変圧器が破壊され、予備の変圧器で対応をしていること、(※3)1号機の起動変圧器、2号機の主変圧器で配管の破壊により、使用済み核燃プール用の油が漏れたこと、(※4)1号機、2号機の使用済み核燃プールがそれぞれ95リットル、326リットル床面にあふれたこと(※5)が発表されました。

 北陸電力は、今回の事故による安全上問題となる被害はなく、外部への放射能漏れはないとしています。また、外部電源について別系統の予備電源による外部電源で使用済み核燃プールを冷却しており、予備のディーゼル電源を7日分確保し、使用済み核燃プールの蒸発温度までには1号機で17日間、2号機で29日間かかるとしています。その上で、北陸電力は志賀原発は現在稼働中ではなく、使用済み燃料プールの冷却に必要な外部からの電気を受ける系統は1系統あれば保安上問題はないとする姿勢を採っています。ただし、メディアからは事故に関する情報公開、事故の調査が必要との意見があるほか(※6)、外部電源の送電網復旧まで約半年かかるとのことであり、その間通常時よりもリスクが高い状況にあることは変わりありません。(※7)

 以上を考えると、志賀原発は現在稼働停止中の原子力発電所であるにもかかわらず、震災などによる事故が起きたときにおけるリスクが決して低くはないことがわかります。また、政府の側も「原子力規制委員会・内閣府原子力事故合同警戒本部」を一時的に設定しており(※8)、原発を巡る問題に真摯に取り組む姿勢かどうかはともかく、地震における原発のリスクがあるという現実を軽んじられない状況であることもわかります。

危機管理状況への疑問

 しかし、それ以上に深刻なのは、北陸電力が志賀原発のリスクを軽んじている姿勢や危機管理意識の低さにあります。1号機、2号機の主水槽について当初有意な変動がないとされていたものが、後に3メートルの変動があったこと、(※9)使用済み核燃プール用の変圧器の破壊によって漏れた油の量が当初3500リットルであったと発表したものが、実際は5.5倍19800リットルであったと後に訂正したことなど、(※10)発表内容が二転三転しています。また、志賀原発での地震の揺れが北陸電力の想定を上回っていたにもかかわらず、原子力規制庁に報告しただけで関係自治体にも知らせていなかったといいます。(※11)

 2011年の福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」)における事故は多くの被災者に犠牲を強いることとなり、未だに具体的な復興の見通しが不透明な状況にあることは読者の皆様もご承知かと存じます。原発については、福島第一原発の事故直後はいろいろな議論がなされたものの、今はほとんど忘れ去られたかのようになっています。今回の大震災によって発生した志賀原発での事故は、原発に伴うリスクを軽んじることはできないという現実とリスクについてどのように対処すべきかという点でも課題があると言えるでしょう。原発のあり方、電力の供給のあり方を含めて再検証を行うことが必要であると考えます。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

(※1) 志賀原発 電気受ける1系統使えず 使用済み燃料冷却問題なし|NHK 石川県のニュース

(※2) 志賀原発 外部電源1系統使えず 重要機器の電源は確保|NHK 石川県のニュース

(※3) 志賀原発 外部電源一部使えず 安全上重要な機器の電源は確保 | NHK | 令和6年能登半島地震

令和6年能登半島地震による志賀原子力発電所の影響について(2024年1月2日 北陸電力株式会社 News Release)

プレスリリース 北陸電力株式会社 (rikuden.co.jp)

(※4) (※3)同

(※5) (※3)同

(※6) 2024年1月3日朝日新聞社説 「震度7 能登半島地震 人命救助と支援に全力を」:朝日新聞デジタル (asahi.com)

2024年1月3日東京新聞社説 「能登半島で震度7  命守る行動を最優先に」:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

(※7) 志賀原発、外部電源の復旧に半年 施設に影響なし、部品調達に時間:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

志賀原発、復旧に「最低半年」=部品調達に時間要す―北陸電・能登地震 | 時事通信ニュース (jiji.com)

志賀原発の送電網5系統、完全復旧まで「最低でも半年ほど」…北陸電力が見通し : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

(※8) 原子力規制委員会・内閣府原子力事故合同警戒本部 「石川県能登地方を震源とする地震による被害情報について」第3報:令和6年1月1日20時30分現在)

原発への地震と津波による影響確認されず 原子力規制庁|NHK 石川県のニュース

(※9) 志賀原発「異常なし」から考えた 運転中だったら?「珠洲原発」だったら? 震度7の地震は想定内なのか:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

東京新聞 2023年1月5日 朝刊P14,P15

(※10) 志賀原発 外部電源一部トラブル 漏出の油量は当初発表の5倍超 | NHK | 令和6年能登半島地震

令和6年能登半島地震による志賀原子力発電所の影響について(第5報)(2024年1月5日 北陸電力株式会社 News Release)

プレスリリース 原子力 北陸電力株式会社 (rikuden.co.jp)

(※11) 志賀原発で一部想定上回る揺れ 規制庁に報告も公表せず―北陸電:時事ドットコム (jiji.com)

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