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若年層の棄権傾向にどう向かい合うべきなのか(後編)-若年棄権層に関する考察⑧-


はじめに

 若年層における棄権の背景には何があるのかについて、8回に渡り考察します。今回は8回目です。
 1回目から6回目まで、20代の若年層の棄権について、政治不信によるものか(「特定世代若年層棄権継続説」)、それとも年代を重ねることで政治を意識するようになって投票するようになるのか(「若年棄権層政治意識変動説」)について考察をしてまいりました。結果、若年層の棄権は、政治を意識していないために起きる現象であり、年代を重ね社会に参加することによって政治を意識するようになることで投票に赴くようになる「若年棄権層政治意識変動説」と考えるに至りました。
 前回と今回は、2回に渡って、前々回までの考察、検証(1回目2回目3回目4回目5回目6回目)を踏まえ、若年層の棄権についてどのように私たちが向き合うべきかについて、考察するものです。

若年層の政治的関心の向上に何が必要か

生徒による自治活動という実践としての政治教育

 中高生への政治教育の必要性が主張されているが、その実践の場として、生徒会などの生徒による活動、学校行事、日常生活において生徒の意見をどのように反映させるかという生徒自治のあり方も問われるべきであろう。(※1)生徒会をはじめとした活動は、単なる雑用としてのイメージが強く、生徒会自体も教員の指導の下にある教育活動の一環という位置づけのため権限が弱い。そのため、生徒会をはじめとした生徒による自治活動への関心は一般生徒の間では低く、また生徒による自治活動が政治教育の実践の場であるという意識は教育者、生徒ともほぼないと言っていいだろう。

 だが、校則のあり方、文化祭、体育祭などの行事、部活動、各種委員会をはじめ、学校の日常生活のあり方など、学校にまつわる課題は多い。これらの課題に対し、生徒側からは様々な意見や要望が出されるのは自然なことであるし、学校生活の活性化という点でも望ましい。また、生徒個々人が学校生活のあり方に意見を表明するといった環境が整わない現状において、いきなり社会に出て政治や社会の問題について、自分の身近な問題として関心を示すということは難しい。生徒の自治活動が政治教育実践の場であるという考えを広く社会が共有することが必要であり、そのための仕組みを整えることが必要であると考える。

 東京新聞で連載された「まちかどの民主主義」では足利清風高校の校則改正における事例が取り上げられていた。そこでは、校則改正を求める生徒の集まりである「ルールメイキング委員会」が、どのようにして生徒の理解を得て校則改正への道筋をつけたかについて紹介されている。当初、ルールメイキング委員会は、地元企業などに足を運び身だしなみの許容範囲などの聞き取りを踏まえて、頭髪規定、制服規定の改正案を職員会議に提言したが、教員側の反対で挫折した。その際に彼らは生徒、教員、保護者との説明、対話が不足をしていたとして、生徒総会での説明、承認や教員、保護者との意見交換を行うようになったという。そこで初めて、実践としての政治を学ぶ意義を「ルールメイキング委員会」や生徒はもちろん、教員、保護者も互いに理解している状況にあると言えよう。(※2)だが、現実は足利清風高校のような事例ばかりではない。

生徒・未成年の自主性、意見が軽んじられている現実

 私は何度かnote記事で部活動における顧問による暴力、威嚇の問題や部活における上下関係の問題を取り上げてきた。(※3)私は、これらの現象が起きた理由としては、部活動が顧問、上級生による力関係、立場を利用した運営がなされていたこと、保護者自身も結果を優先することで顧問などによる恣意的な運営や暴力、威嚇を容認したことにあったと考えている。このような非民主的かつ生徒による自主性、主体性が無視されている状況が相次いでいることは、生徒による自治活動という理念が学校現場において軽視されていることの表れであるが、状況が改善される状況にあるかは予断を許さない。

 また、市区町村の選挙においては、しばしば学校給食の無償化、学校における冷暖房の空調装置取り付けの実施を公約に掲げる候補者がみられる。場合によっては住民投票が行われたケースもある。所沢市でクーラー設置に関する住民投票が行われたのは、(※4)学校における空調装置設置の是非に対する関心が高いことの表れであろう。ただ、これも本来であれば、学校での環境をどのように整えるかについての議論である。その意味では当事者である中高生から、声を上げて然るべき問題であり、最低でも住民投票においては中高生も対象にするべきだったのではなかっただろうか。 

若年層に政治を理解するための機会、場の提供を

 このように考えてみると、若者が政治と無関係ということはあり得ないことに気づかされる。生徒会の自治活動や学校生活における生徒の意見が積極的に展開され、反映される仕組みを整えることはもちろん、若年層が政治に意見を求め、それを政治に反映させるため、若年層を中心とした有権者が政治と接する機会や、政治を語る場を提供するイベントや企画などを通じて、若年層が政治を自身の身近な問題として認識できるような政治環境を整えることが必要であろう。

 若年層が年を重ねて、社会経験を積んだときに政治にもっと関心を持っていればと後悔することがあるかもしれない。そのような状況を作らないことが政治に求められるべきことではないか。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

脚注

(※1) 生徒会活動に関する過去の記事はこちらを参照のこと

私の「政治」観-生徒会・自治活動について-|宴は終わったが (note.com)

(※2) 2023年1月7日 東京新聞 朝刊 P1,P2

(※3)

教育関係記事|宴は終わったが|note

(※4)

所沢市の住民投票、小中学校への「エアコン設置」が賛成多数 投票率は条件に届かず | ハフポスト NEWS (huffingtonpost.jp)

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