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窓越しの世界・総集編 2016年8月の世界

8/1【ですら】
携帯の電源が切れた後、もしくは無くした時などは、特に気分がいい。何に縛られているわけでもないが、ささやかな自由を手にした気がするのだ。

誰からのメールにも気がつかず、返信を怠っていても罪悪感など生まれない。

それでも結局PCを開き、必要事項のメールなどを。

スーパーマーケットの駐車場ですら。

8/2【夕焼けが始まるまで】
音の視覚的なものといえば、譜面。私のメロディーを目で追うと、歌っている感覚とちがう事に気がつく。そして視覚に導かれた音というのは、道しるべとなって私の歌に新しい方向性を示してくれる。

息抜きに、コンビニでアイスを買い、読みかけの本を抱え、風に当りに出かける。

吹きさらしの滑走路の向こうで静かに夕焼けが始まるまで、一休み。

8/3【夏だなぁ】
気がつくと14時を回っている。喫茶室の高い窓の向こうには入道雲。外の気温はまだまだたいした事は無いが、もうすっかり夏。

そろそろ筆を置き、というかPCを閉じて、ギターとペンに持ち替えようと店を出る。

扉を開けると、想像以上に重い空気が体にまとわりついてくる。

思わずこぼれる、「夏だなぁ」

8/4【列車の旅】
車窓のどこを切り取っても夏。

大宮から二時間余り、東北新幹線に揺られて仙台を目指す。

夏休みの家族連れで賑やかな車内だが、高原の駅でごっそり人が降りたあとは静かなもの。車窓から見える田舎の風景は、青空に浮かぶ入道雲と静かに佇んでいるが、向こうからしてみれば猛スピードの私たちは只只けたたましいばかりなのであろう。

久しぶりの列車の旅。反射的に買ってしまった車内販売のアイスコーヒーがもっと旨ければ、完璧だった。

8/5【おかしな気分】
陽が傾くに連れ、浴衣姿に街が染められていく。日が暮れると爆発音がして、ようやく今日が仙台の花火大会である事に気がつく。

東北最大の都市は東京の西の方なんかよりも、よっぽど都会で活気に溢れている。
塩竈に向かう夜の仙石線は、中央線にでも揺られているような、おかしな気がした。

8/6【隔たり】
外海に出ると波の様子が変わる。穏やかだった船首が上下に激しくなり、水しぶきを上げた。遠くに新しい防潮堤が見える。

幾つも島が連なるこの海域でも津波の被害は明暗を分けた。さっき出会った島のおばあちゃんは高台の自宅からの景色を語り、自宅を流された船頭さんは危機一髪で一命をとりとめたという話をする。

同じ地域でも、大きな隔たりがある。私には、とても向き合えそうもない。

8/7【夏の塩竈】
塩竈神社の石畳の階段をゆっくりと上がる。木陰に蝉時雨が降り注ぐ夏の印象深い光景だが、昨晩の深酒が私の体力を容赦なく奪ってゆく。

頂上の神社からの景色は素晴らしいものであったが、夜までの行程を考えると目がくらむ。帰り道は、山で影になった道を選んだのだが、沿って流れているはずの干上がった水路を見ていると、行き場の無い何かを感じてくらくらした。

大講堂にやさしく流れる音楽で涼をとり、教室のようなカフェでアイスコーヒーを飲んでいると、やっと我に返る心地がした。

8/8【いかにも夏の夜】
目覚めると夕方。蝉の音が穏やかになるとヒグラシが鳴いて、夕暮れが始まる。くたびれた私たちを労うという意味で、旨い酒を呑みに出かける。

東京も東北も夏に変わりはないが、こっちの方が空気が重たく体に湿気がまとわりつく気がする。夜風も生暖かく重たいが、いかにも夏の夜という感じで悪くない。

8/9【どうにもならない事】
アメリカの次期大統領を占う類いの本を昨晩から読んでいる。この国の舵取りにも大きく影響を及ぼすため、とても気になる。

約束の時間までは10分ほどだからと、また本を開く。

私たちの目や耳にするものに隠れているものの正体を知ったところでどうにもならないのだが。

8/10【私のマネージャー気質】
今朝は久しぶりのコーヒースタンド。予定時刻を1時間程遅れるらしいバンドメンバーを乗せた車の到着を待っている。予定外の時間が生まれ、ゆっくりと珈琲タイムを満喫していたが、さらに30分遅れるとの連絡がある。

いよいよ昼食予定のうどん屋が閉店間際になるので、先に店へ行きオーダー。バンドマンの到着と共にうどんも出来上がる。

私は意外とマネージャー気質も兼ね備えているが、気まぐれなので続かないと思う。

8/11【バックヤード】
ヴァカントのキッチン。

勝手口からは裏原のそのまた裏腹な景色。表通りからは決して見えない景色。決して都会な雰囲気ではない。2Fからはバンドの低音が心地よく聴こえてくる。

私はそのステージにも立つが、裏方のバックヤードも好きだ。

8/12【久しぶりの腰痛】
そもそも腰痛持ちであるが、ここ暫くは影を潜めていた。午後に向かって、さらに痛み出してくる腰。立ち上がる度に悪化して行くそれは、もう止められない。

夜になると、いよいよ立ち上がる事も難しい。久しぶりの状況。何も出来る状態ではなくなってくるのだが、水割りだけはグイグイと進む。

8/13【続、腰痛】
吉祥寺の良心とも言うべき店がある。ビルに囲まれた木造二階建てのお好み焼き屋だ。

扇風機の風と、開け放たれた窓から入ってくる風とに挟まれながらビールを傾ける。気分は最高なのだが、腰の状態はそうではない。
映画館の椅子は座り心地がよく立ち上がる際にも問題は無かったのだが、座敷はさすがに辛い。

8/14【懐かしい響き】
夜になると少し雨がぱらつき、涼しい風が窓から入ってくる。幼い頃に建てられた川向こうの工場の低音が夜も響いている。通りを大きな車が走ると、この家も少し揺れたりするのだが、どちらの騒音もずっと昔から変わらない懐かしい響き。よく眠れる。

ここ数日は富士山が見えていない。と母。

8/15【田舎町の映画館】
この町の商店を食いつぶした大型ショッピングモールに併設されている映画館。

普段は客足もまばらだがお盆という事で大混雑。時間をずらし夕方の回でシンゴジラ。最近の映画は予告が長く、我が家では上映時間になってから出かけても本編に間に合ってしまう程なのだ。

降ったり止んだり。富士山は文字通りの雲隠れ。

8/16【蒼蒼とした富士山】
早朝。朝焼けと朝露の匂いが、これからラジオ体操にでも行かなければという気もちにさせてくれる。
帰省ラッシュの大渋滞を避けるため少し眠るつもりだったのだが、結局朝になってしまったのだ。朝食を済ませ、送り火を焚いた。

車を走らせると、陸橋の上からは裾の方からてっぺんまでありありと、そして蒼蒼とした富士山が見えた。

8/17【初めての海】
台風一過の青空が広がる。ここからも今日は富士山がよく見える。

むやみに車を走らせて海を目指した。一度も行った事の無い海を。

帰り道も、いつもと違う道を通って、いつもの場所に戻ってきた。

8/18【夏の雨】
徒歩では厳しくなってしまった赤提灯の四川料理屋まで車を出す。パーキングに停めて車を降りると、また降り出してきた雨。

食事を済ませて外へ出ると、いつかの帰り道よりも、なんだか未来の景色が限定されている気がした。雨脚がさっきよりも強くなって、街灯の下を小走りでゆく。

少し雨の吹き込む軒先で、線香花火に火をつける。夏の雨。

8/19【低い空】
図書館で本を借りて、郵便局へ。そこからなんとなく吉祥寺へ行くことにした。空は夏真っ盛りだが、熱ければ熱い程に終わりの気配を纏い始める。実際、遠くには秋のような雲。

よく、秋の空は高いと言われる。しかし、私にはとても低く見えたりする。

夏の入道雲の方がよっぽど奥行きがあり、手が届きそうも無い現実離れした得体の知れない雰囲気。それに比べたら、秋の天はやさしく、ホッとする。だから私にとって、秋の空は近く低く感じる。

「こんなに空が低いから、夏も終わるな」とは、昔書いた曲の一節。

8/20【読書の森】
目まぐるしく変わる天候は、迫り来る三つの台風の影響。西から変わる空模様も、今日に限っては東から雨が流れてくる。

読書の森へ辿り着くと快晴。標高も高いので涼しく、蝉の音も風情として感じられる。

暫くするとまた翳り雨が降り出すが、この場所にいるとすべてが演出のような効果で時間が彩られて行く。

8/21【望郷感】
導かれるような時間の流れは、導かれている時には気がつかない。

最終的な結果を受けて、やっと導かれていたことに気がつくもの。

上田は坂の街。坂の街で生まれ育った私だから、妙な望郷感も感じる。

8/22【門前の刻々】
NHKが報じる台風の状況。友人達とのグループメールもその話題だ。ふとテレビ画面には入間市の河川崩落が映し出される。guzuriの隣のハウスは浸水したとのこと。

長野市の天気は台風の影響を受けた曇り空だが、風も穏やか。東京へ帰れない旅人も、私のコンサートの一員になった。

善光寺の門前に流れる刻々に浸る。

8/23【高岡のみんなのこと】
もっと時間が経ったような、そうでもないような。どちらとも言える。私もいろいろあったし、きっと皆もそうだろう。

変わったような、変わらないような、二年半。

あまりにも変わってしまう前に、もう一度ここに来れてよかった。

もちろん、そんな心配はいらないのだろうけれど。

8/24【記憶のチグハグ】
開演前に21世紀美術館まで歩くのはいつものこと。真っ白い回廊をゆっくりと歩きながら、何を考えるともなくぶらぶらする。もうすぐ7時だが、随分と日が短くなった。街灯が静かに灯り、夜が始まって行く。

何度目かのこの町の同じ道だけれど、ちょっとずつ私を取り巻く時の流れが違うので、記憶のチグハグに戸惑ってしまう。

8/25【清々しい朝】
昨晩は思ったより距離を走れなかったので、これからロングドライブ。朝焼けと共に一日が始まる。 

高台にそびえるパーキングエリアに降り立つと、とてつもなく澄んだ空気が鼻筋を通って私の中に入り込んで来た。雲海に浮かぶ山村は日本の原風景のようだ。

この旅はとても順調にいっている。トラブルもあるけれど、楽しめている。

8/26【もういちど】
見えなくなるまで、見送られることがたまにある。

今夜は、そんな風に見送られた。

私もかつてそうしていたし、そうしていたかった。

もういちど、そんな風でありたい。 

8/27【OUR HOUSE】
二匹の猫。猫は二匹いるといい。なんとなくそう思っている。

リビングにはハト時計があるといい。なんとなくそう思っている。

二匹の猫も飼っていないし、リビングにはハト時計もないけれど、いつか両方揃ったら、もう一度聴きたい音楽がある。

8/28【三度目の松本】
この町へ来て、白線流しの川沿いを歩かないことはない。

どうしたって、その通りへ出てしまう。

松本と私は音で繋がっている。

一度目は、ローラ・ギブソン。二度目は、ジェイムス・テイラー。今回は三度目の松本。

8/29【雨宿り】
雲行きが怪しい。カウンター席でお茶を頂いていると、やっぱり雨が降って来た。店を後にして家路につくが、小さな折り畳み傘なので雨が吹き込んでくる。

不意に目にとまった焼き鳥やへ吸い込まれた私たちは、以外と奥行きのある店内に促され、こじんまりと落ち着いた座敷に腰をおろした。

瓶ビールを分け合い、モツ煮と焼き鳥が運ばれて来る。九日間の旅を終えて日常へ回帰していくもりでいたが、よく知った街の初めての店だし、それなりに風情があるので、引き続き旅気分。

雨宿り。

8/30【追いつかない】
台風が何となく去ってゆき、湿った夜。長く伸びた雑草も、山積みの書類にも目をつぶりギターを手に取った。

久しぶりのボルボは、ワイパーが動かない。ブレーキランプが一つ切れているのと、マフラーがガタついている。

するべきことを箇条書きにしてみたが、追いつかない。

8/31【ひまわり畑の中で】
人の手が行き届いた畑の美しさ。太陽と、輪郭のはっきりしない夏雲。

溜め息をついてみて気がついた実は意味の無い憂鬱を、八月最後の青空が吸い込んでいった。

私の歌はもう一寸、誰かの日々に寄り添うことが出来るのではないか。

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