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窓越しの世界 2022.9.30~11.5

9/30【意識に酔う】
夕方のベランダに出ると、井草八幡宮から大太鼓の音が街にこだましている。

三日月が沈むほどに大きく、オレンジ色に姿を変えてゆく。

3年間待ち侘びていた大祭だったけれど、酒の類は一切無し。
それでも暗闇に浮かぶ出店の灯りがこの季節の到来した実感を与えてくれた。

人混みを飛び交う意識に酔う。

10/1【移り変わる】
気分転換に景色を変える。

家、スタジオ、喫茶店、夜は再び祭りをうろうろする。

何をするべきかが移り変わる。ダウンロード、トトブラッシング、ウッドストック。

10/2【ハモニカ美舟】
リッキーと千葉くんと録音が終わり、吉祥寺の美舟へ繰り出す。

2階の座敷に腰を下し、お品書きで余白のない壁の中からとりあえず肉芽。

窓からは異国情緒漂うハモニカ横丁の奥行き。この街にしては薄ら淋しい気配が日曜日の晩の顔をしていた。

僕は「家を建てたいんだ」と話していた。

10/3【受動的な時間に移行】
家に帰るとまずスターウォーズを壁に投影する。 

トトを抱き上げると、ちょっと太ったなと思う。

能動的な自分はスタジオに置いてきて、受動的な時間に移行する。

10/4【今日の日を】
風の強い朝で、スタジオのビルの窓が隙間風で唸りを上げている。

制作中の曲とその音が混ざるのが心地よくて、扉を開けてマイクを立てた。

今日の日を、いつでも思い出すだろう。

10/5【その気持ちが】
轟音を録音した。リバーブとシンセとディストーションのメモリは特に触らず、今存在するそのもので良いと思った。

一度目の気持ちにはもうなれないので、そのままOKテイクにした。

その気持ちが、作品には必要。

10/6【雨も止んで】
モニターシステムにマスキングタープを貼り、今日の録音回線の下ごしらえ。

このスタジオで録音できる音はいつの間にかイメージできるようになった。

雨も止んで、準備万端。

10/7【着る物に迷う】
セーターを着て、脱いで、Tシャツの上にフリースにした。

厚手のフリースは毛布を着ているみたいで、ちょうど良かった。

外へ出ると、袖から紛れ込む冷たい風と、服の中の暖かさがちょうど良いバランスだった。

10/8【パチンと】
パチンと世界の終わる音がした。

秋晴れの朝を自転車で走りながら、そんな冒頭ではじまりそうな映画を想像していた。

パチンと、いつか終わるのだ。

10/9【ずっと繰り返してきたけれど】
弾き語りを録音すると、今がどんな自分かわかる。

ずっと繰り返してきたけれど、今が一番好きだ。

10/10【いきさつ】
ジョンちゃんのフィドルを作品に招き入れる。

SASAKLA&JohnJohn Festivalの2012年から10年が経ち、レコーディングを一緒にするのも10年ぶり。

お互いに変わったそれぞれと、この曲はふさわしいのだった。

10/11【創造を支える構造的なもの】
朝サウナの予定が、急に押し寄せてきた事務対応で午後になる。
サウナの朝割は諦め、結局一日をかけて対応することに。

創造を支える構造を養う時間だと思うしかない。

10/12【Our House】
この家の今を録音した。

今日にしか歌えない歌が、多分、録音されていて、それは大切なことだ

録音を終え、渋谷へ向かう井の頭線の中でも、帰りの中央線でも、繰り返し聞いた。

10/13【すみません】
雨が止むのを高架下で待つ夜。レーダーの雨雲は30分後。

マクドナルドで時間を潰すことにして入ると、想像以上に一人席の幅が狭い。

宛先も定まらないまま、すみません、そう思う。
家畜のゲートを想像したからだ。

10/14【未知の領域で】
谷ぴょんのピアノを再び録音。

世もふけて、シンセサイザーの新しい試み。

自分のギターのフレーズをそのままなぞるコンピューター。

パンドラの箱を開けたような、禁断の果実を口にしてしまったような、未知の領域で舞い上がる二人がいた。

10/15【動けばいい】
時間と運。

それが重なった時は、身を委ねるだけ。

言い訳とは言わず、動けばいい。

10/16【いよいよこれからだ】
Little Bugのミックス、爆音ギター、ベースを録音。

それだけで一日が暮れて、それでもまた違う発見をして練り直す。

音構築のDIYが疲労の領域にくると、大工仕事のそれと同じ高揚がやってきて、いよいよこれからだと思う。

10/17【夜は早めに】
Stay Morningのコーラス、ミックス。
やっぱり歌はこのままで良いと思った。

Little Bugのエレキギターを再録音していると増村から注文通りのフロアタムが届き完成の雰囲気が出てくる。
新しいコーラスラインが聞こえてきて録音。

夜は早めに切り上げ焼肉で鋭気を養う。

10/18【その30分】
僕の電話が目覚ましになった。電話の向こうの声に、いつかの僕をみた。

生まれた30分で、トトと遊んだり、家事をこなした。

その30分、僕は生きている間で、30分長く家族と過ごせたのだ。

10/19【家に帰るのは】
スタジオと自宅を往復の毎日。

夜が次第に長くなり、西日がスピーカーにまで差し込む角度になった。

食事を摂ると眠くなるので、間食程度で済ませる日々。
家に帰るのは限界になってから。

10/20【一つの音の説得力】
宮下君が録音に来る。

指びきでベンドしないペダルスチールの音。

今日の日が無ければアルバムは完成しなかったかもしれない。

一つの音の説得力。

綺麗だったみたい、夕焼けが。

10/21【日々勉強】
てつさんのキック録音。

バスドラムを解体して、やすりをかけるところからレコーディングが始まる。

チューニングとマイキング、日々勉強。

go to Ukraineのピアノと歌はその後で録音。

10/22【また戻って、力尽きて】
夕方に終わったスタジオワーク。まだ少し明るいから外へ出た。

割と遠くまで。

また戻って、力尽きて、真夜中のスーパーマーケットで即席鍋を買って帰る。

10/23【たくさんの人の言葉が回想されて】
一日中、ドラムのキックの音を編集。

ビートはテンポでけではなく、強弱にも宿ることを思い出して救われる。

たくさんの人の言葉が回想されて、音が形作られていく。

10/24【夜もふけて】
夜もふけて、小腹が減ってコンビニへ出た。

アルバムを聴きながら夜道を歩く。

家を通り過ぎて町内を一周する。go to Ukraineとこの季節の仄暗い街灯に、なんとも言えない気持ち。

Ikisatsuを聴きながら、アニー君の入る音を想像していると家に着いた。

10/25【旋風】
小さな旋風が落ち葉と遊んでいる。

僕のその中に飛び込んでみる。

お邪魔だったようで、風は止み、落ち葉も離れていった。

10/26【耳】
人も耳もそれぞれで、それを尊重できるだけ色々な耳と出会ってきた。

感じる耳、迷う耳、判断という耳。

どの耳も、ただの耳。されど耳。

10/27【人と人を繋ぐ音】
数日前にアニー君に電話した。

最後の最後に、家族同士で食卓を囲める友達が来てくれた。

午後の陽だまりの中で、人と人を繋ぐ音がしていた。

10/28【秋のよき日】
公園の池のほとりのベンチで、4枚目のアルバムのフィナーレを迎えた。

水面に映るのは、紅葉の始まった木々の鮮やかさ。水面に浮かぶ冬支度に向かうカルガモの群れ。

藪蚊がまだ飛べるくらいの、秋のよき日。

焼肉へ行こうと、誘いのメールが来てベンチを立った。
完璧な午後。

10/29【冒険成功】
予約したけれど、テレビの見えない入り口の席。そうか、今日は土曜日。

耳に入ってくるニュースやバラエティー番組の音が心地よい。

よく来る店の初めてのメニュー。きのこあんかけ炒め、お焦げご飯付き。

冒険成功。

10/30【フォークアンビエント】
ハロウィンで賑わう渋谷の裏路地は、仮装した若者たちの休憩所だった。

さっき言われて、僕の中の何かに終止符が打たれた。

フォークアンビエント。

10/31【異国にいる気になって】
経堂の住宅街を歩くと、西荻とは違う。もっと古い東京の香りがした。

路地の狭さ、まっすぐではない道、道。

韓国調理と韓国語のラジオを聴いていると異国にいる気になって嬉しい。

11/1【まぐるしく】
電話、連絡、電話。目まぐるしく事態が動き、気がつくと池袋にいた。

昔の職場があった町は様変わりして、ソウルとか、どこかアジアの繁華街にいるような気にさえなる。

夜は夜で、車を飛ばして故郷へ。雨がぱらつく東名高速道路を走る。

11/2【跡地にて】
紅葉の始まった街路樹の下でお茶をしながら母を待つ。

富士山を眺めながら、久しぶりに日常を離れた時間。

大昔の市民プールの跡地にて。

11/3【東京に戻る】
秋のいちじくを収穫。花びらに触れる。

故郷の祭りを遠目に歩く。

休日の渋滞。

東京に戻る。都会の匂い。

トトの耳たぶに触れる。

11/4【それでも】
放置していた、せざるを得なかった事務作業。

夕方から秩父へ日帰り温泉でも行こうと思っていたのだが、失敗。

それでも、ここ最近の日々にしては早い帰宅。

11/5【強制と矯正】
朝。久しぶりにジムへ。

体を動かすためにお金を払う。思ってもいなかったことが現実になっている。

強制的な運動で、錆び付いていく体を矯正する。

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