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窓越しの世界・総集編 2018年5月の世界

5/1【休足】
逆方向へ足を向けた僕らはバスへ乗って隣町まで出かけた。そして、レコーディング続きの耳を休ませるという名目で、昼間から呑み始めた。

こんなに気持ちの良い陽気の日々が続いてしまうと、ただ毎日を平穏に生きられるだけで満たされるはずの自分のことを、否応なしに見つけてしまい、日々の時間や、すべきことに追われる生活が、果たして本当に望んでいることなのか疑わしくさえも思える。

うだるような暑さが訪れる頃、きっと僕は、また違う気持ちでいるに違いないのだけれど。

5/2【やめること】
慣れた手つきで車とトレーラーをドッキングさせて、当たり前のようにハンドルを切って走る。

できなかっこと、知らなかったこと、そんなものが次から次へ当たり前になっていく。

手探りの頃の気持ちが恋しい時もあって、かといってまた同じことをしてみたいとは思わないから、また僕は何かを始めるのだろうか。

少し前から、やめることを始めているけれど、これがまたなかなか手強い。

5/3【何かが生まれる時】
午後からは次第にひんやりとした風。

次の季節よりも、過ぎ去った季節のことを思う時。

何かが生まれる時。

5/4【ギリギリまで】
明日からのコーラス録音のための仮録音をする。

結局ギリギリまで手をつけなかった。

他の楽器が入り、イメージが湧くところまで進んでからと思っていたのだけれど、実際の所、もう少し早く手をつけていても変わらなかった気がした。

音楽に限らず、それと似たことが沢山あるけれど、きっとギリギリまで手をつけないだろう。
 
5/5【本能】
お土産を口からぶら下げたトトが帰ってくる。

お土産を取り上げて、外に放り投げる。

それを、何度も繰り返す。

本能というものは、どうしようもなく、清々しい。


5/6【うなぎの骨】
うなぎの骨が奥歯の歯茎に刺さる。暫くすると取れた感触もなく、骨はどこかへ消えた。

こんなふうに、心の奥の痛みも、いつのまにかどこかへ消えてしまうのだろうか。

今夜は夜風が冷たく、強い。

5/7【カレーパンの後で】
小さな苗を買うか、実の成っている苗を買うか。

本を買うか、図書館で借りるか。

スーパーマーケットの片隅にある休憩スペースで、カレーパンを食べたあとで。


5/8【雨の朝】
雨の朝は車のエンジンがかかりにくい。

十分に温まれば、何事もなかったかの様に快調に走るから、あまり心配していない。

午前、市役所から電話が入り。今週のどこかで公園の芝を刈る、とこのこと。

芝刈りは騒音が出るので、こちらのレコーディング状況を配慮してくれている。

ありがたい。


5/9【活力】
昨日にも増して寒い。

夕方になって、たまらずエアコンを入れる。

時計の針がてっぺんを回る頃、頂いた芋焼酎のお湯割をこしらえてもう一仕事の活力にする。

かなり夜も更けてきているが、結局無理をしたところで、明日に皺寄せがいくはず。

5/10【星が見たい】
朝の本降りから午後になっても天気雨と往生際の悪い雨雲の後は、澄んだ空気で午後の西日がきらめいていた。

19時を回ってもまだ薄明るい空に、久しぶりに星を見た気がした。

星空が見たい。

そんな気もちになって、夜の暗闇が待ち遠しかった。

5/11【車の底】
車の底に水が溜まっていることに気がついたのは、トトの足が濡れていたから。

はじめは、ついにオシッコしてしまったのかと、落胆したけれどそうでは無かった。

車にガタがきていることよりも、トトがおしっこをしたのではない、ということで逆に嬉しい気持ち。

5/12【めにみえない みみにしたい】
心が震えるときというのは、なんて尊いのだろうか。

いつも通りの時間に戻ってしまえば、そんな時間が在ったことも薄れて、流れてゆく。

ひたむきであること。それは、どうしようもなく美しい。
 
5/13【気持ちの問題】
雨の日曜日。

作り上げた音が、僕の手元から離れてゆく感覚が重なって、作品になった。

正解などは無く、気持ちの問題。

5/14【吉祥寺】
結局のところ、最後まで細かい修正をした。

入間のスタジオから、夜は吉祥寺にいた僕は、この二つの街で繰り広げられた10年について思わずにはいられなかった。

入間の街よりも愛着があるのは、ここでの思い出のせいだろうな。今あるものよりも、失われたものの方に、どうしたって引っ張られるのは、僕の性だろう。

でもたまに、今が素晴らしい過去に変わる実感があって、そんな時、新しい曲が生まれたりもする。

5/15【軽くなりたい】
いわしコロッケを2つ注文。

最近は横目に通り過ぎるだけの店に、今日は迷わず入った。ビールを傾けながら思うことは山ほどある。何から話し始めたら良いのかなかなか定まらないまま時間が過ぎていったけれど、それでよかった気がしている。

今回のリリースも、背中を押してもらった。音楽を続けたり作曲をすることと、作品を発表することは全然ちがう力が必要だから。
 
この半年で思ったのは、そうだな、

軽くなりたい。

5/16【指が痛い】
久しぶりに腰を据えてギターを弾いた。

鉄の弦と指の摩擦が数時間も続くと、久しぶりに運動した時のように筋肉が痛む。

制作の苦しみから、表現するためのそれへと移行していく。

5/17【この場所】
この場所へ来れば、どこへにも逃げられない。

ギターを弾き始めると、そんな気持ちになった。歌い始めたら、身を任せるしかなく、今年初めての長丁場が始まった。

とにかく静かで、演奏すればするほど、静まり返って、その静けさに少しずつなれて、心地よくなるころ、ライブは終わった。

また、この場所へ帰って来た。

5/18【何度でも書くこう】
外堀通りを走る。

飯田橋を過ぎたところで思い出すのはあの日のことだ。

長い人の列は果てしなく続き、道路という道路には車が溢れていた。

御茶ノ水の自転車店では、高級自転車が飛ぶように売れて、吉野家の肉も底が尽きていた。

誰もが、大切な人と繋がりたくって、いつ通じるかも知れない電話のリダイヤルを繰り返した夜。

僕は確かに、ここにいたのだ。
 
なんどか書いた事だけれど、何度でも書こう。

5/19【そういう目】
駅の南口。自動ドアの開閉のたびに、パチンコ屋の喧騒が大きくなったり小さくなったりする。

落ち合うのと同時に、席が空くのを待っていた焼き鳥屋からちょうど電話が鳴った。

煙の中で働く従業員は、明らかにここではないどこかを見ている目をしている。

僕もかつての居酒屋で、珈琲店で、きっとそういう目をしていたのだと思う。
 

5/20【人のための】
森の中はじっとしていると肌寒く、わずかに射す木漏れ日の場所を選んで歩いた。

僕は自然が好きだけれど、それは人の手の入った自然。

人が人のために整えた自然。

整備された川沿いの道だから、せせらぎにも、安心して耳をすませていられる。


5/21【共同体の存続】
思い通りにいかないことを楽しむこと。

小さな共同体の存続は、それができるか否か。

そんな風にも思える。
 
5/22【誰かのための場所】
ひさしぶりにguzuriを整えると、やっぱりこの場所はいいな、そう思った。

誰かのための顔をしているこの場所が、僕は好きだ。

ここはやっぱり、ここを目指してきた人のための場所だ。

5/23【すこしの外出】
そとへ出て、雨が降っていることに気がつく。傘はさしてもささなくても、いい程度。

地下パーキングから駅ビルの売り場へ出ると、予期せぬデパ地下の雰囲気に面をくらいながらも、すこしウキウキしてきた。

割れた爪をリペアして、上機嫌でたい焼きを買った。

トトが興味を持ったので差し出すとぺろぺろ舐めるのだった。

5/24【塗り替えたい】
雲が変わった広い空を、ベランダから数分間だけ眺めていた。

ちょっと疲れていること、自分のことをそんなに好きになれないこととか、いろいろな不安をかかえていることも、

忘れているときはあるけれど、消すことはできないから、早くこの気持ちを塗り替えたい。

5/25【親しんだ味】
スーパーマーケットのお惣菜コーナーに運ばれてきた揚げたてのアジフライ。思わず手にとってしまったのは、子供の頃に親しんだ味を想像してしまったから。

ついでに買った巻き寿司と、フライの組み合わせは、想像通りの組み合わせ。

かつての土曜日の午後は、この味のあとで、野球チームの練習に出かけた。あの頃、巻き寿司の酢が強めに感じたのは、僕の舌が子供だったからに違い無い。

5/26【海沿いの街】
この街での生活を想像した。ここへ来るのならば、心配事を全て精算してからにしたい。

夕闇の後に灯るキャンドルが、微かな潮騒と共に波打つ。

海にまつわる幾つかの歌が、意味を持ち始めている気がする。

5/27【連なり】
想像よりも肌寒い。

夜の街を歩きながら、なにか羽織ってくればよかったと思ったけれど、そのまま歩き続けた。

最近できたばかりの店も、もう数閏年も続くような店も、気持ちよく連なっている。

今夜の話も、そんな連なり。

5/28【他人事のように】
あの街のことばかり考えた。時折リアルに想像をして、今の生活との解離に少し寂しくもなった。

夕闇の潮騒とキャンドルの灯りが、胸に焼きついていて離れない。

すぐにでは無いけれど、僕のことだからなんとかしてしてしまうのではと、他人事のように自分に期待してみる。
 
数年ぶりに髪を短くした。

5/29【目に触れること】
野菜コーナーにある麻婆茄子の素が目に入る。今夜の献立が決まって、売り場を練り歩く。

目に触れること。

とにかく、目に触れなければ、なにも始まらないことばかりだろう。

僕らは目に映るものからしか、選ぶことはできない。

5/30【普遍的な哲学】
普遍的な哲学は、知的で、幼く、優しい。

子供の頃の気持ちを紐解くようなこの歌が、たくさんの人の耳に届く頃を想像してみる。

博愛であり、その中にはもちろん自分自身も含まれるはずだから、自己満足も肯定できよう。
 
5/31【慣れ親しんだ効果】
湿った夜風を感じながら走る5月最後の日。自転車で隣町まで。

随分久しぶりの店内は相変わらずだけれど、メニューをめくると馴染みの無い、が、どれも舌鼓が期待できるものばかり。
狭いわりに高い天井、字幕放送のテレビ、水槽の熱帯魚は倍くらいの大きさになっている。そして、この店にも僕なりの時代が確かに染み付いてしまっていることが嬉しくてたまらなかった。

帰り道の方があっという間なのは、楽しみを待つまでとその後の、慣れ親しんだ効果。

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