はじめに

 はじめに
 
 歌い続けて20年。 

 いつの時代も自分の歌声に対して「何かが違う」そう思っていました。でもそれは「生まれ持った声なのだからどうしようもないこと」そう思い、歌いたい響きで歌えていない自分の無念さに蓋をし続けてきました。

 レコーディングでは、それこそ何十テイクも歌を取り、納得のいく響きを追求しました。その中で最良のものを選び作品にしてきたのですが、納得いくテイクは本当にわずかでした。そんな自分の状況が本当に情けなかった。
 良い時の歌声が、なぜ良いのか? 単純に「音程が良い」とかだけではない「何か」がそこにはあってその「何か」を、気持ちとか、神テイクとか、そんな風にしか捉えることができなかった。

 ただ、そこから抜け出したいという気持ちで、常に試せることは試していたし、少しずつでしかないけれど、理想に近づいている実感がないわけではありませんでした。

 そんな、もがくような日々が、かれこれ20年続いていますが、最近あるきっかけに出会いました。

 2019年のグラミー賞を受賞した、ケイシー・マスグレイブスの歌声を聞いた瞬間のことです。それとは似ても似つかない、敬愛するジェイムス・テイラーの歌声と何かが一緒で、その共通点は何か、しばらく考え込みました。
 また、これまで好きで聞いていたボーカルの幾つかを聴き比べてみたりもすると、やっぱり同じ共通点を見つけることができたのです。
 なんとなく、その感覚と何か似たような経験があった気がして、頭の中を検索すると、ひとつだけ心当たりがありました。
 それは、「ホーミー」でした。モンゴルの歌唱法のホーミーを聞いた時の感覚に類似していると思ったのです。ホーミーは声帯で鳴っている実音とは異なる音を操る歌唱方法です。
 ホーミーを始めて聞いた時、その実音とは異なる音を聞き取るまで少し時間がかかりました。唸るような声の奥に、美しいメロディーを見たときの感動はいつまでも忘れることは無いでしょう。
 そう、僕が魅了されてきた人たちの歌声の奥にも、実音の奥に潜む音の存在を確かに感じたのです。
 ホーミーについて考えると、倍音や周波数の存在にフォーカスせざるを得なくなります。


 アナライザーという周波数を図れるアプリを持っていたので、周波数の波を見ながら自分の声を出してみました。これまでに試した様々な歌い方を駆使し、倍音周波数の出る歌い方に合わせて声を録音してみると、なんと、僕が理想としていた声の響きの片鱗を確かに感じとれたのです。
 まさに、レコーディングのOKテイクに宿る、何かの正体だと思いました。 
 「あぁ、これからが本番だ。やっとスタートラインだ。」心の底からそう思いました。

 例えばラの440Hzの声を出した時に、周波数の特性として倍の880Hzその倍の1.76kHzというふうに波が存在します。聞こえるはずのない音の正体「倍音」です。
 理想の声色を出すには、実音にフォーカスするのではなく、実音から生まれる周波数の波の存在を「感じ、捉えて」コントロールすることが必要だということがわかったんです。

 果たして、その考察は正しいのか、それとも、、。

 ここには、そんな理想の声色を目指す奮闘記、そして歌に関する様々を記していこうと思っています。

 どうぞよろしくお願いいたします。

 笹倉慎介

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