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離散時間システムの有限時間安定性のはなし

Introduction

河野氏の博士論文[K]に倣い、自励的な離散時間システムの有限時間安定性について
・線形システムの場合
・多項式システムの場合
のそれぞれに関して必要十分条件を紹介します。ここで、自励的な離散時間システムとはx[t+1] = f(x[t]), x[0]=x0のことです。また、自励的な離散時間システムの有限時間安定性とは、ある正の整数Nが存在して任意の状態xに対してf^N(x)=0を満たすこととします。

なお、このノートは制御工学 Advent Calendar 2018 24日目の記事です。作成者の@nnn_anokenさんに感謝申し上げます。なお、投稿が遅れたことをお詫び申し上げます。

線形システムの場合

線形システムとは、f(x) = Ax(Aはn次正方行列)で与えられるようなシステムのことです。線形システムの有限時間安定性の必要十分条件は、次のように与えられます。

定理:状態x[t]がn次のベクトルであるとする。このとき、線形システムが有限時間安定性を持つこととA^nが零行列であることは必要十分である。

A^nが零行列という条件の十分性は有限時間安定性の定義から直ちに従いますから、ここではその必要性について説明しましょう。

有限時間安定性をもつ線形システムは、少なくともある正の整数NによってA^Nが零行列になるようなn次正方行列Aによって定義されています。ここで次の昇鎖列を考えます。

{0} ⊆ ker A^1 ⊆ ker A^2 ⊆ ... ⊆ ker A^N = R^n

これは、有限時間安定性をもつシステムが時間の進みにつれて状態0に収束していく様子に対応しています。

ここで、ker A^{i-1} = ker A^i がいずれかの正の整数 i ≤ N で成立したとしましょう。このとき、任意の0でないIm A^{i-1}のベクトルxに対して A^{i-1}x ≠ 0 が成り立ちます。Im A^{i-1} ⊇ Im A^i に注意すれば、行列AのIm A^{i-1}に対する制限は自己同型を与え、特に Im A^{i-1} = Im A^i が成り立っていることがわかります。

要するに、一度 ker A^{i-1} = ker A^i が成り立てば、必ず ker A^{i-1} = ker A^i = ... = ker A^N = R^n が成り立つので、Nを狭義の不等号が成り立ち続ける最大のべき乗数に取り替えることが出来て、その次元に注目すれば

0 < rank A^1 < rank A^2 < ... < rank A^N = n

を得ることができます。この昇鎖列からNは少なくともn以下に取れることがわかり、特にA^n=0を示すことができました。

多項式システムの場合

多項式システムとは、f(x)が多項式で与えられるシステムのことです。今回は、f(0) = 0を満たす多項式について考察する対象とします。上の線形システムにおける有限時間安定性の必要十分条件と証明は、河野氏によって多項式システムに自然に拡張できることが示されています。

定理:状態x[t]がn次のベクトルであるとする。このとき、多項式システムが有限時間安定性を持つこととf^nが恒等的に0であることは必要十分である。

線形システムのときと同様に、f^nが恒等的に0という条件の十分性は有限時間安定性の定義から直ちに従いますから、ここではその必要性について説明しましょう。

有限時間安定性をもつ多項式システムは、少なくともある正の整数Nによってf^Nが恒等的に0になるような多項式fによって定義されています。多項式写像fはZariski位相で連続なので、以下のようなaffine代数多様体の降鎖列を得ることができます。(ここで、cl(A)は集合Aの閉包です。)

R^n ⊇ cl(f(R^n)) ⊇ cl(f^2(R^n)) ⊇ ... ⊇ cl(f^N(R^n)) = {0}

上の降鎖列を得るにあたって、cl(f(cl(f^i(R^n)))) = cl(f^{i+1}(R^n)) を用いたことに注意しましょう。

ここで、cl(f^{i-1}(R^n)) = cl(f^i(R^n)) がいずれかの正の整数 i ≤ N で成立したとしましょう。V := cl(f^{i-1}(R^n)) とおくと、V = cl(f(V)) が成り立ったことになり、V = cl(f(V)) = cl(f(cl(f(V))) = ... となることから定数i以降での降鎖列では全て等号が成立することになる。要するに、Nを狭義の包含列が成り立ち続ける最大の正の整数に取り替えることが出来て、特にその次元をとれば

n > dim cl(f(R^n)) > dim cl(f^2(R^n)) > ... > dim cl(f^N(R^n)) = 0

を得ることができます。この降鎖列からNは少なくともn以下に取れることがわかり、特にf^n=0を示すことができました。

おわりに

本当は例まで有限時間安定性をもつ多項式システムの例まで構成するつもりだったのですが、急用が入ってしまったため一旦公開して、あとで書き足すことにしました。制御工学と数学の関わりは個人的にとても面白いと感じているので、それが少しでも伝われば幸いです。

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