LOVE ボカロのある人生。

いちいちはライトな散文ですが、束にしたら、わりと長文になっちゃいました。自称ボカロリスナーのutakikiのお届けする、2018年のボカロ曲5選(+1曲)です。さっそく音楽を聴きながら。気のむくままに、まいりましょう。

さらっと選曲だけ見たければ、マイリスを見てね。

1.Puhyuneco「恋バナ」

投稿はXKa9Mv6NbmDPAF0G名義だが、Puhyunecoと言ったほうが通りがいいだろう。マイナーボカロでは、カルト的な人気を誇ることで知られたボカロPだ。正直にいって、なぜ彼がこんなにも信奉されているのか。いまだに僕は理解していない。でも「恋バナ」は好きですよ。nagomix渋谷でDJてむらが、最初のDJプレイの最後にかけた曲ですし。そのとき僕は不覚にも、聴き覚えはあったのに、誰の曲だか分からなかったんだよな。

「生えた自我殺して ベランダにそっと飾って 死んだら もっと笑って 君の頬で泣くよ」

「自意識」とは、どこから生まれてくるのだろう。しかも「自意識」とはいいながら、他者との関係性に大きく依存しているという。皮肉なものだ。もし恋人との関係がゆがんでしまったら、それを自明の前提として築かれてきた自意識もまた、あっさりと動揺してしまう。大きくなる振幅とともに、いままでの自分が過去のものになってゆく。この楽曲は、その有りさまを描ききっている。圧巻でした。

この楽曲をリピートしていたら、とりとめもなく、過去の墓標となった3月11日を思いだした。いろいろなものがあそこで変わってしまった。無意識に見ていなかったことが、はっきり見えてしまった。あんな感覚といえば、伝わるだろうか。あのとき、東京もけっこう揺れたんですよ。

そういえば先日、僕の思いつきに答えてDan Shimizuさんが、Puhyunecoオールタイム10選を作ってくれた。あまり聴き込めてないので、若干だが申し訳なく感じている。やはり彼の音楽は、僕には尖りすぎているようだ。

2.虚無子「ピンクの雨は培養液」

2018年にいちばん僕の愛したボカロPは、たぶん虚無子さんなのだろう。といっても、投稿曲をどれもリピートしているわけではないのですが、1選には苦心しましたよ。答えはこれ。いちばん意味不明だけど、いちばん愛おしい、なれそめの1曲におちつきました。

「知れ 恥を おぞましいね あなたのキャス ききながらぬった マニキュアぐちゃぐちゃ ピンク色」

人間の心理って、よくよく考えてみると、意味不明ですね。でもほとんどの人は、その意味不明なものに、その人なりの意味をつけて生きている。あれほど好きだった人に、どうでもいいやと悪態をついたりする。そしてその理由を見つけだす。そんなものだ。でも彼(/彼女)の音楽は、その意味不明なものを、意味不明なままに愛おしく思える。みとめてしまえる。そういう希有な音楽だと思います。生きててよかったんだ。ありがたや。

3.目赤くなる「装置」

ところで「イノセンス」という音楽ジャンルがあることを、ご存知ですか。もし知らなくても、それで当然です。実はこれ、マイナーボカロででっちあげられたもので、音楽のなかでも「純粋に無垢/無邪気」なものをさしています。もっとも、いくらでっちあげとはいえ、一人の天才しかいないところに新しいジャンルは生まれません。イノセンスはなぜ生まれたのか。それは目赤くなるのいるところに、Puhyunecoが遭遇したからと言っても過言ではない。それほどに彼(/彼女)は、すごい音楽家なのです。

「それをいま考えている 少しだけ待ってね 風のにおいの 記憶装置がまた 僕を見て 笑った」

この楽曲の舞台は、空想の近未来なのだろうか。任意に記憶装置をえらぶことができるようになった世界。それでいて非現実的な印象は、まったくない。あくまでもそのシーンにおける、人間のリアリティのある感情を、爽やかに描いている。いくら技術が進歩したところで、人間性が0になることはない。かたちを変えながらも、感情は起伏をつづけてゆく。すぐれたSF作品とはこういうものならば、今年はSFを読むのもありだな。

話がゆききする。もしイノセンスについて知りたいなら、最初の提唱者である鈴木Oさんのプレイリストをおすすめしたい。

ただし僕からすると、このプレイリストはエレクトロニカ・アンビエント系に偏りすぎている気はする。この往年の名盤も、あわせて聴くといいかもしれない。「イノセンス イズ アティチュード」だ。25曲目がおすすめ。

ちなみにこの記事は、敬愛するイノセンス音楽へのオマージュとして、文体もイノセンスに作ってある。お気づきだろうか。あと2曲ほど、おつきあいください。

4.ぐらんびあ「inner sky」

さてボカロリスナーにとっては、それぞれに特別な存在となっているボカロPが、たぶん何人かはいるものだろう。違うかな。僕にとってぐらんびあは、そのはずせない一人だ。2015年の活動再開以降、試行錯誤をくりかえしながら、音楽家として真摯にあゆんできた。その有りさまを見まもってきた。その思い出による補正もあるかもしれない。しかし、そんなことはどうでもよくなるほどに、この楽曲は素晴らしいものだ。

「時が過ぎていく、止まれない わたしの ありふれた この世界 すれ違う せつなくて」

人はこれほどまでに、精神的な内面を、繊細で美しくいられるものだろうか。虚構のない、虚飾もない、音楽世界に耳をかたむけていると、そう考えたりする。ただ自分の感情をこの楽曲に共振させることは、それを心地よいと感じられることは、間違いなくその端緒が、自分のなかにもある。そう信頼できる。資本主義社会で生きていると、否応なく生まれてくる、悪意や悪感情にそまってしまう前に、人は感情の美しさを回復しなければならない。ぐらんびあの音楽には、繊細さと同時に、しなやかな強さを感じてしまう。こういうふうに生きてみたかった。いや生きてみたい。

5.やなが みゆき「Love 生き続けるエナジー」

「vaporwave」という音楽ジャンルを、ご存知だろうか。僕は知らない…… とだけ書いて検索をかけてしまったために、いきなり話が進まなくなった。もっとも、ここで未知なるものを咀嚼している余裕はないので、気になったら調べてみてほしい。いろいろと面白い世界のようだ。ただこの楽曲は「vaporwave」を別にしても、十分すぎるほどに素晴らしい楽曲だと思う。やなが みゆきさん。LOVEですよ。

「口にした言葉や 人を嫌った時間が ねぇ 私の心をむしばんで このままなくなって しまったら どうしよう」

人には生きつづけるしか選択肢がない。そんなことは去年の5選記事でも書いたし、10年前も似たようなことを考えていた。でもその通りだ。おき去りにしてきた過去は、現在と地つづきの視界から消えると、記憶にしかのこらない。記憶のなかの自分は、いまよりもっと不器用に、もがいている。いまの自分に、どうにでもなれと言っている。この楽曲に心をあずけていると、過去の記憶の断片たちが、残像のように映しだされては、また消えてゆく。それでよかったんだと、たしかに思える。爽やかな救いのある音楽だ。

もう十数年前のことになるのか。東海地方の湖西市にあったSONYの工場で、派遣労働者として働いていたことがあった。あの頃ともに仕事をして、毎週のように飲みにいっては、ふざけあっていた人たちはどうなったのだろう。カラオケにいっては好きなJPOPを片っ端から歌っていたことも、一方的にほれられて困惑したことも、冷たくしたことも、冷たくされたことも、いまでは思い出としてしかのこっていない。自分と過去の一時期をともにした人たちが、どうか楽しくやっていてくれてたらと思う。いまさら出会いなおしたところで、お互いに困惑するだけだとしても。こっちはかけがえのないいまを生きています。

いつかは僕が愛するボカロも、衰退するのだろう。あるいはもっと早く、ボカロリスナーとしての自分は過去のものになるかもしれない。お世話になっている皆さんとも、はなればなれになってゆく。それは否定すべきことではない。だからこそ今のうちに、伝えておきたいことは、ちゃんと言葉にしておくべきなのだろうな。思いうかぶままに。

コバチカさん 貴方は僕の憧れです。迷惑ですか。でも、ありがとう。
A・Aさん 頼れる新曲チェックニキとして、これからも頼みにしていきますよ。エアリプなら手加減はしない。
ygchさん いつも曲紹介ありがとう。たすかってます。なにかと無理をなさらず。他のなによりも、家族を大事にしてください。
しまさん ピアプロでやってる連載、いい感じですね。勉強になります。
しろばなさん 今年もどこかで出会えるかな。その日が楽しみです。
Kqckさん ライターとしての貴方を応援してます。大志を実現してほしい。
てむらさん ボカロ・ボイロに執着せずに、ひろい音楽世界を体験してきてほしい。またのDJを楽しみにしています。
STARさん 人生を捨ててかかるなよ。もっと大きな仕事ができるはず。
アレクさん 日々のまとめ作成、お疲れさまです。もう日刊でなくてもいい気はしてますが。もし相談があったら、いつでも気楽にどうぞ。
めぐみこさん これからもお姉様のような存在でいてください。
茄箱さん いつかは誰かの母親になってほしい。見まもってます。
ほくしかさん 天真爛漫さは、ときに人を傷つけますよ。でも、そのままのほくしかでいてほしい。なぜこんなことを書いているんだ……
ねむこさん おかえりなさい。嬉しいです。
すみとさん こんどどこかで飲みましょう。上京のさいには、気がむくようならお誘いください。ふってしまうかもしれませんが。
sol@mimiさん 古参音楽リスナーの本気の新曲チェックがみてみたい。そう思ってるのは、僕だけではないはず。わがままでしょうか。
のきあさん 帰ってきてくれて、ありがとう。素の毒舌ぶりもまたみたい。
ベビーダディさん そのままのベビーダディでいてください。なんじゃそりゃ。ぼからんまとめの紹介板にもきませんか。
falkbeerさん ユニークで面白いツイートをありがとう。あなたの存在自体が、ボカロの宝だと思ってます。ほんとだよ。
Dan Shimizuさん イノセンス論はいつになるのでしょう。そっちも待っているのですよ。noteしませんか。
ROBOTDUXiさん 描きたいものがあるというのは、手先の器用さなどよりも、はるかに大きな才能だと思います。未来を変えていってほしい。
yeahyoutooさん [let my role when i live again]は、実に素晴らしい音楽ですね。愛聴してます。ただ「ntgetanything」は、いい感じにゆるいニコニコ版のほうが好きでした。動画削除がなければ、たぶん5選におしこんでたと思います。消えたときはショックでした。でも、ありがとう。(追記)再投稿ありがとう。嬉しいです。
anomimiさん お元気ですか。「アイドル手帖」は、僕にとっても、ボカロ史から見ても、エポックで大事な曲ですので、どこかでまた聴けるようにしてほしい。新曲も待ってますよ。
ぐらんびあさん 大きな飛躍の年になることを、遠くから期待しています。
きむらんさん 働き方改革してください。あなたはボカロP!
あらたまいこさん まーかん!ウナのことをよろしく。
虚無子さん まーかん!今年も変な音楽をつくってください。
ぎすたかさん 今年こそはあなたの音楽を好きになってやる。待ってろ。
浮浪人さん いづれ一緒になにかやりませんか。声をかける機会をうかがってます。ちなみに「秋が来る」は、5選の最終選考の最後までのこしてました。だからなにっていわないでね。
マグロジュースさん いつかどこかでまた会いましょう。1000年後かな。
キュウ
さん でたらめ音楽教室があなたを待っている。たぶん。
スッパマイクロパンチョップさん たまにはボカロ界隈に毒をはいてもいいんですよ。とっくによその人じゃないのだから。
ヒッキーPさん ボカロ地蔵のような存在感がありますね。頼もしいって意味ですよ。
りゅうずさん あなたはいったい何ものなのか。
こさうにさん 退院おめでとうございます。まだまだ未来は長いですよ。

ぼからんまとめの管理人さん お世話になってます。これからもお世話になります。SNSでもつながりたいのですが、勝手でしょうか。そうですよね。
ぼからんまとめ掲示板住民のみなさん 管理人さんには迷惑をかけないように。その範囲で、楽しくやってゆきましょう。最近は議論板もなごやかで、いい雰囲気ですね。いろいろありがとう!

おっとあと一人、大事な人を忘れていましたよ。

utakikiさん ボカロだけが人生じゃない。もうちょっと気楽につきあってもいいんじゃないかな。なにかと感情的になりやすいのは、よくないところですよ。読書とか、映画とか、恋愛とか。いろいろあるでしょ。

…… 名前をあげきれなかった皆さんのことも、けっして忘れているわけではありませんので、どうかご容赦ください。そしてもうひとつ。忘れがたい2018年の1曲です。再投稿ありがとう。

6.yeahyoutoo「ntgetanything(demo ver)」

yeahyoutooは、偉大な音楽家だ。ふだんはボカロ音楽しか聴かない、自分が言うのもおかしなはなしだが、耳でたしかめればわかるだろう。悲しいかな。時代に愛される音楽とは、時代の半歩先をゆく音楽だ。彼の音楽はそうではない。時代の二歩も三歩も、飄然として先をいってしまう。孤高の求道者のようなイメージがあった。しかしこの楽曲はすこし違う。

「スロウにスロウリィ 影が伸びて 同じ言葉 同じとこばっか見る」

人生にあるき疲れて、ふとたちどまったときにあふれだす、その叙情性。ベランダの手すりにもたれて、夜の大都会を眺めたときに、聴きたくなるような。こういう音楽を「chill」と言えば、いいのだろうか。たぶんそうだろう。時代に愛されることを強く求めながらも、その時代性とは別のところに、未知なる普遍性を探究してきた。これもまた、yeahyoutooだからこそ表現できた音楽世界だと思っている。

「ntgetanything」の完成版の収録されたアルバム [let my role when i live again] は、この叙情性と先鋭性が、ほどよいバランスで調和した素晴らしい音楽作品となっている。このクオリティの音楽を、ボカロという踊り場で聴けるのは、ありがたいことだ。しかし同時にもったいないとも思う。世界の音楽リスナーから発見されてほしい音楽だ。

§

それでは、2019年もよろしくお願いします。「ボカロのある人生」が、それぞれに充実したものでありますように。せっかくなので最後に1曲だけ、新曲をお届けしましょうか。制作はシャル坊さんで。

「初音ミク vs. ボカロリスナー」

新曲チェックの楽しさが、そのまま伝わってくるような曲ですね。素晴らしい!ブラボー!2019年も楽しくなりそうだ。ちなみに、もっとボカロ新曲を楽しみたければ、お手前にですが「Early VOCALOID」がおすすめです。のぞいてみてね。

そうそう2017年の年間5選もいちおうリンクしておきますか。よかったら。これはこれで、あのときの自分が全身全霊で書いたものなのですよ。いとおしい。

最後までおつきあいいただき、ありがとうございます。utakikiからでした。

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