掌編 パソ美とレン子

 あのな、ぼくんちにある家具家電その他諸々にはな、基本その全てに名前が付いててさ、その全てが意思を持ち喋るんだ。  

 パソコンのパソ美、電子レンジのレン子、テレビのテレ夫、エアコンのフリーザ様、洗濯機のセンちゃん、縫いぐるみのもぐ次郎。どうだい? 笑っちゃうだろ? いい歳してさ。  

 一時期はみんなしてお喋りしてさ、随分賑やかだったかな。パソ美がヘソを曲げてフリーズした夏だって、レン子が沈黙した冬だって、みんなで騒がしく笑って過ごしてきたよ。  

 でもな、今はもう誰も喋らないんだ。だってさ、名付け親が、この部屋から出て行ってしまったのだから仕方ないよ。うん。  

 もちろんぼくが仕事を終えて、ただいまって言っても誰も返事をしてくれない。うん、解ってる。理解している。オママゴトは一人じゃできないんだって。  

 だけど理解している癖して、夜眠りにつく時は、カビ臭いもぐ次郎に顔を押し付けて寝るんだ。カビ臭くてホコリ臭いのに、おネムの匂いがして、よく眠れるんだ。  

 ごめんな。もぐ次郎。つがいのもぐみは、もう帰ってこないんだ。あの人がもぐみだけを連れていっちゃったんだ。本当にごめんな。もう会わせてやることは叶わないんだって、謝りながら眠りにつくんだ。  

 それでさ、いつも朝起きるともぐ次郎は一人でコッソリ泣いたのか、ぐしゃぐしゃに湿っていて、なんだかばっちいから、朝一ネットに入れて、そのまま洗濯機のセンちゃんにぽーいっと投げ入れる。そして、そのまま天日干しするんだ。ぼくはそんなに雑だからもぐ次郎の綿は寄れて、型崩れしてきたけど、今でも健気にもぐみを待ってるよ。  

 ぼくはそんなもぐ次郎とみんなに、「おはよう。行ってきます」って言ってから、部屋を出ていくんだ。