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ドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied㉚

生のコンサートでは“今まさにここで生まれる音楽”を共有していただける喜びがあります。その時間を1曲1曲切り取って“今まさに”のひとかけらでもお届けできたら!とお送りするドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied…

30曲目もブラームス!…ひとかけら、届くかな?

ブラームスBrahms: 私たちはそぞろ歩いた Wir wandelten  Op.96-2  

                ソプラノ 川田亜希子 ピアノ 松井 理恵

私たちはそぞろ歩いた、二人一緒に
私はとても静かに、そしてあなたもとても静かに
私はいくらでも与えるだろう
あなたがあの時考えていたことを知る為だったら

私が考えていたこと、それは口にしないでおこう
ただ一つだけ言うならば…
私の考えはとても美しかった
全て天のように明るかった

私の頭の中でその考えは
金の鐘のように鳴り響いた
とても甘く、とても愛に満ちて
この世の中のどんな響きにもないくらい素晴らしく鳴り響いた


ドイツの詩人ダウマー Georg Friedrich Daumer (1800-1875) の詩による。

 なんて平和で、愛情に満ち溢れた曲なんでしょう!長年連れ添ってきたカップルがお互いに感謝の気持ちを贈り合っている、そんな曲です。
 前奏は歌声部の冒頭のメロディのカノンになっています。二拍遅れて追従するメロディは、まるで三歩下がって男性の後に続く日本女性を思わせませんか?そして裏拍で響く高音は、最後に登場する金の鐘の音です。実は最初から響いていたのですね。こうして感情が幾重にも重なった前奏に導かれて歌声部は始まります。穏やかな跳躍のフレーズ始まりは幸福感たっぷり!!耳にする人は2人を祝福せずにはいられなくなる、そんな奥行きの深いメロディです。「あの時、何を考えてたの?」と熱心に問う反面、子供っぽく「自分の考えは内緒だけどね」と続く第2節…。「一つだけ言うならば」の転調は、気持ちの矢印が180度転換し、内省に入ったことを表しています。ルンルン♬と足取り軽く弾んだメロディは1人悦に入る様子を歌っています。 さらなる転調で「私」の思考の中心部へ深く踏み入っていきます。そこでは幸せの鐘がピアノパートに鳴り響いています。結婚式の後の教会の鐘のようです。幸せを噛み締めるため最後の2行を繰り返し、後奏が歩み続ける二人の後ろ姿を満足気に見送ります。

 この曲を歌うとき、私は恐れ多くも、退位された上皇陛下と美智子上皇后陛下の銀婚式と金婚式でのお言葉のやり取りを思い出します。

銀婚式での「お互いに点数をつけるなら?」という記者会の質問に、皇太子殿下(現:上皇陛下)は「点をつけるのは難しいけれど努力賞を」、美智子さまは「私もお点ではなく感謝状を」と回答された。
結婚50年に当たって贈るとすれば感謝状です。皇后はこの度も「努力賞がいい」としきりに言うのですが,これは今日まで続けてきた努力を嘉しての感謝状です。本当に50年間よく努力を続けてくれました。その間にはたくさんの悲しいことや辛いことがあったと思いますが、よく耐えてくれたと思います。(上皇陛下)

銀婚式を前にしてお尋ねのあった同じ質問に対してですが,この度も私はやはり感謝状を,何かこれだけでは足りないような気持ちがいたしますが,心を込めて感謝状をお贈り申し上げます。(美智子上皇后陛下)

 互いを慈しみあう夫婦のすばらしいご様子に胸を打たれたのをよく覚えています。そうして、こうありたいものだと、銀婚式を4年後にひかえた今、日ごろの行いを反省、いえ、猛省する私なのでした~

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ブラームスの歌曲はドイツ歌曲の楽しみ⑰⑱そして前回の㉙でも取り上げています。ブラームスについての解説は⑰にあるので、よろしければご参照くださいませ。
https://note.com/utauakiko/n/n23dc90b10a23



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