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ドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied㊹

生のコンサートでは“今まさにここで生まれる音楽”を共有していただける喜びがあります。その時間を1曲1曲切り取って“今まさに”のひとかけらでもお届けできたら!とお送りするドイツ歌曲の楽しみ Freude am Lied…

44曲目もシュトラウス♬…ひとかけら、届くかな?

リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)作曲
出会いBegegnung
                 ソプラノ 川田亜希子 ピアノ 松井 理恵

私が階段を全速力で飛び降りてゆくと
下から彼が階段を飛ぶように
駆け上がってきて
私を捕まえたの
階段はほの暗く
私たちはたくさんキスをしたの
でも誰にも見られなかったわ

私が広間へ入っていくと
そこは客人たちのざわめきでいっぱいだった
私の頬は燃えるように熱く
そして唇も燃えるようだった
誰かが、私たちが何をしたのか
見て取るかもしれない、と私は思ったの
でも誰にも見られなかったわ
 
私は庭に出るしかなかったの
お花を眺めたかったの
庭にいくことを待ちきれない思いでいたの
そこにはそこここにバラが咲いていて
小鳥が大声で歌っていた
ぼくらは見ちゃったよ
とでもいわんばかりに

オットー・フリードリヒ・グルッペOtto Friedrich Gruppe(1804-1876)の詩による。

 あるパーティでじゃれあう少年と少女の様子が描かれています。女の子が元気いっぱいに階段を駆け下りてくるシーン、階段の踊り場でのキスのシーン、広間での大人たちのざわめきにしりごみするシーン、それを振り払うかのように庭めがけて走っていくシーン・・・と軽快なテンポで場面が展開していきます。いたずらっぽい間奏がなんとも効果的で、1節目の後の間奏は「見られてなんかないもーん」と肩をすくめるように響き、2節目の後は、庭へのいくつもの扉をどんどん開けながら走っていく様子が描かれています。…カメラが女の子を追ってワンカットで描くノンストップ動画のようですよね。

私事ですが…
この曲を歌うとき、思い出すシーンがあります。ベルギーのある小さい町で開催されている夏期講習に参加したときのお話しです。1週間ほどの期間、街の住人がボランティアでホストファミリーになってくれて、普通のお宅に滞在させていただくシステムになっています。けれども私たちのグループがお世話になったお宅は、全然普通ではなく、塔のある3階建てのVillaでした。ボタニカルガーデンや、プール、テニスコートがついている豪邸でした。レッスンから帰ると、素晴らしい食器に用意された食事が用意されていて(本当は朝ご飯だけお世話になる約束なのですが)特にスープが絶品! それは通いの家政婦さんがこしらえてくれるものでした。ある日、明るいうちに帰ったとき、気持ちが良いので外のテラスでごちそうになったことがありました。私たちのグループには一組のカップルさんがいました。男の子は1人だけで、ホストファミリーも気をもんで、別々のお部屋に泊まっていました。そろそろお部屋にもどろうと建物に入る階段をそれぞれ昇っていくのですが、私は忘れ物に気付き、戻ろうとパッと振り返りました。すると!件の2人が階段の上と下でかわいいキスを交わしているところだったんです!本当に美しく素敵なシーンで、今でもくっきり脳裏に残っています。もちろん私はそのまま180度ターンをして見なかったフリをしてお部屋に戻りました。遠い昔のお話しですが、思い出すたび何とも言えないロマンチックな気持ちになります。


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