真夜中のスッポン

晩の食後に犬と散歩に行くのが日課になっている。二週間ほど前に、夕刻に散歩した際に、川の中を大きなスッポンが悠々と泳いでいるのを目撃した。目を疑いたくなるほど巨大で、エサを探しているのか、首が異常に伸びていて気持ち悪いほどだった。

見たきりきれいに忘れ去っていたそのスッポンが、何故だか、夜の散歩中に脳裏に不気味に再浮上してきた。ひょっとして、その辺の草むらに潜んでいるかもしれない。ぼくは大丈夫だけれど、犬がやられたらどうしよう。スッポンは一度噛みついたら死んでも離さないと何かで聞いた気がする。埒外に大きなスッポンだから、噛まれた場所によっては、命取りになるかもしれない。すると、たちまち闇が剣呑に思われ、犬が川の方へと近づくのを、慌てて綱を引き戻したりした。

以前、春日武彦さんがどこかに「俺にとって、不安とは、六畳くらいの部屋の片隅に、闇を湛えた丸い穴が穿たれているイメージなの。普段なら決してそこに落ちることはないけれど、もし寝相が悪かったら、とか、酒に酔って帰ったら、とか、あれこれ思い悩むのが不安」みたいなことを書いていた。

現在、ぼくにとっての不安はこの真夜中のスッポンだ。居ないはずなのだけれど、絶対に居ないとは言い切れない、この嫌な感じ。

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一の段

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