認知症の中核症状:記憶障害

認知症の中核症状といえば、記憶障害です。加齢変化の物忘れとは異なり、記憶障害は、「記憶が抜け落ちる」という言葉でよく表現されます。

看護師を業とする人にとって、この認知症の人の記憶障害には慣れ過ぎてしまってはいないでしょうか?

しかしながら、煩雑な業務で目まぐるしく1日が過ぎていきます。認知症の人の声に耳を傾けている暇はないかもしれません。

この記憶障害の影響で、病院では対応に苦慮することが多くあります。
看護師も患者さんの双方が混乱に至り、その人に適した関わりが実践できずに、更なる混乱を招く事態に陥ることも少なからずあるのではないでしょうか?

今回は、外来受診から入院に至るまでに、実践できる関わりについて考えます。

「認知症の人が入院するまで」
〜外来→病棟〜
外来で入院が決定し、訳の分からないまま検査や説明を医療従事者ペースで受け、病棟へ搬送されます。病室へ到着するやいなや、繰り返し繰り返し「入院するん?入院やせえへん?なんも知らん」と訴え続けます。外来看護師は、入院することは何度も伝えても忘れているんですと、病棟看護師に申し送ります。

〜病棟〜
繰り返し訴える患者に対して、繰り返し、言葉で説明をします。説明をする度に、患者さんは語気を強め、眉をひそめていきます。ベッドから降りて帰ろうとします。そうなると、センサーマット設置・敷き込みコール設置・ベッド壁付の環境が整います。

当然の入院までの流れかもしれません。
しかし、この過程の中での関わりを見直すべきだと考えています。突然の入院を余儀なくされる心情を認識する必要があるからです。この最初の関わりを充実させることで、なにかしらのいい変化が患者さんにあるのではないかと思っています。

〈実践したいケア〉
○患者さんと院内で最初に関わる外来看護師
・患者さんの視野に入り、看護師から名札を見せながら挨拶をする、自己紹介、アイコンタクトを必ず行う。
 →高齢者が見えるように名札の名前は大きいのが望ましい。
・ゆっくりと、わかりやすい言葉や短文で説明する
・説明を理解できたかを確認したり、紙に文字に書いて渡す。
 →明らかに記憶障害が認識できる場合は、入院理由を言葉だけでなく、紙に書き示し説明する。家族に伝えてもらう。
・会話中、肩や背中をタッチし、安心できるように関わる

○病棟看護師
 ・外来看護師から外来での言動などの確認
 ・患者さんの視野に入り、看護師から名札を見せながら挨拶をする、自己紹介、アイコンタクトを必ず行う。
 →丁寧に行うこと、敵でなく味方であることを態度で現す。
 →大切にしてもらえると感じてもらえることが重要→ここで居てもいいという安心に繋がる
・ゆっくりと、わかりやすい言葉や短文で説明する
・説明を理解できたかを確認したり、紙に文字に書いて渡す。
 →明らかに記憶障害が認識できる場合は、入院理由を言葉だけでなく、紙に書き示し説明する。
・会話中、肩や背中をタッチし、安心できるように関わる
・どのくらい頑張れば家に帰れるのかを具体的に伝える

繰り返し話すことは、本人が気になっていることであり、無視は問題外であると考えます。その為、その返答を紙に大きく書き示し、伝えます。
また上記の実践したいケアを繰り返し、丁寧に実践していきます。そうすると、「ありがとう。」と言い、落ち着いてくることがあるのです。

実践すれば、この境界に出会えます。患者さんが、安堵する瞬間があるんです。

実践したいケアは、難しいことではないと思います。


記憶について・・・ 

私が勝手に認知症看護の恩師とする鈴木みずえ教授は、「記憶を失うということは、私たちが生涯築き続けてきた人生を失っていくのです。その不安に立ち向かう人であることに、看護師はぜひ気づいていただきたいと思います。」と示している。
また鈴木教授は、認知症のある高齢者の心理的特性として
・自分でも記憶が徐々に失われてきていることを感じている
・記憶を失う、自分自身を失うという大きな苦しみ、恐怖、不安、悲しみを感じている
・悲しみ、恐怖、不安、悲しみの体験の中で、何とか記憶の変化に適応しようと、自分なりに一生懸命に努力している
・失われた記憶に対して、必死に対応しようと努力している。そのため、まわりの人からは「嘘をつく」「つじつまをあわせようとしている」とみえるかもしれないが、本人からすれば自分の記憶の障害を補おうと必死に努力している姿である
・その人が認知症になる前の過去と現在は人生の中で連続しているので、過去の出来事が今起こったり、亡くなった人がそこにいるように話すことがある

鈴木教授の「認知症のある高齢者の心理的特性」を知るだけでも、日々の看護に活かせられるのではないでしょうか?

今後、酸素マスクを外してしまう、点滴を抜去してしまうなどの治療を継続できるような関わりについても考えていこうと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?