山椒魚

ただいまと言いたかった世界に
許されただけの姿で

水面と呼べる所へ
身体を伸ばし触れるため

擦りむいてきた指に
草木の露がしみている

山椒魚は胸の中
水も空気も満たせずに

宙へ跳んだら雫になって
川へ潜れば泡になる

山椒魚は皮膚の外
ヒレも手足もおよばずに

なしのつぶては岸辺をはねて
声のつぶれた波になる

おかえりと言わなかった世界に
裁かれるだけを恐れて

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