Pitchforkが10点満点を出したらしい。

ちょうど何か物を書き溜められる場所が欲しかったところだったので、このタイミングでnoteを始めてみることにした。特に書きたいことがあるわけではないけれど、最近、そういう場所があるといいかな、と思うことが少し増えてきたので。

今日はその中でも最もどうでもよい話をしたい。ただ、僕にとっては大事な話だ。

Pitchforkが昨日10点満点を出したらしい。それも、フィオナ・アップルの新譜に。

Pitchforkといえば、押しも押されぬ音楽評論メディアである。しかし、初期の頃はインディーミュージックばかり扱っていて、オタクたちが内輪でキャッキャウフフしている感じのサイトだった。それがあれよあれよと大きくなって、いまや一見すると凡百の大手音楽メディアと変わらない。自前のフェスまで開催してしまうところをみると、よほどうまくやっているらしい。

ただ、僕が今でもPitchforkを好きなのは、そのレビューがキャッキャウフフ感を多少なりとも保っているからである。大物アーティストだろうが大手レーベルだろうが、気にしない。時々、0点とか、アーティストが見たら怒るんじゃないかっていう点数もつける。ロキノンばりに自己陶酔したりもする。そういう、外野で好きにやってますよ感が好きなのである。およそ批評というものは、外野からなされなければならない。

そんなPitchforkであるが、10点満点というのはなかなかない。いくらキャッキャウフフしているとはいえ、もうよい年の大人だし、それでお金をもらってる以上、軽いノリで10点つけちゃおうぜーwとはならないのだ。実際、ちょっと調べてみたところ、Pitchforkは2万件以上のアルバムレビューを掲載していて、10点満点はそのうち129件だそうだ。1%にも満たない。

10点を獲得したアルバムをみると、さすがに、さもありなんといった面々が並んでいる。レディへのKid Aとか、ウィルコのYankee Hotel Foxtrotとか、割と最近のアルバム(といってももう20年前だが)も一部含まれてはいる。ただ、Pitchforkは、音楽史を変えた、あるいは変えるであろうというアルバムにのみ満点を与える。だから、基本的には古典的な名作ばかりだ。だいたいのアーティストが死んでいる。ビートルズにヴェルヴェッツ、デヴィッド・ボウイにガンズ。ごめんガンズはまだ死んでなかった。

ともあれ、時の洗礼を経て、音楽史を変えた名作としての評価を確立しているアルバムでなければ、なかなか10点は取れない。新譜であるにもかかわらず10点の栄光に浴したのは、実に遡ること10年前、カニエのMy Beautiful Dark Twisted Fantasyが最後である。しかしこれに関しては、当時もあまり文句がなかったところだと思う。そう言わしめるカニエは凄いが、実際、このアルバムは、現代最高のアーティストの一人であるカニエが最も旬の時期に出したもので、脂の乗り切った最高の出来栄えであった。蟹の話ではない。

そう、カニエに関しては、いわば、出るべくして出た10点である。誰も非難できない。しかし、そういうアルバムがすべてではない。Pitchforkには黒歴史があることを忘れてはならない(以下個人的見解)。

それが、...And You Will Know Us By the Trail of DeadのSource Tags & Codes (2002年)である。この長ったらしい、「...」から始まる、中二病むき出しの名前のバンドに、Pitchforkは10点満点を授けた。もちろんメンバーも死んでいない(たぶん)。

確かによくできたアルバムではある。しかし10点かと言われると、決してそうではない。音楽史を変えるだろうという感じも全くない。レビュアーがいい感じにドラッグをキメていたとしか思えない(繰り返すが個人的見解である)。

Pitchforkは、これに10点を出してしまったことを後悔した。ドラッグ云々はともかく、これは歴史を見れば明らかである。AYWKUBTTOD(略しても長い)以前は、割とポンポン10点を出していた。2000年に3件、1999年に2件、1998年に2件、いずれも新譜である。それが、AYWKUなんとか後は、ぴたっと8年止まるのである。8年後にようやく出た10点もあのカニエだから、ノーカウントだ。

要するに、AYなんとかの失敗を経て、Pitchforkは10点を出すことに臆病になってしまったのである。そこには、もはやかつてのキャッキャウフフ感はない。「いやさすがに10点はやめとこうぜ、俺らも色々あったし」的な大人の事情があるだけである。Pitchforkは、本来の外野精神を忘れて、10点の壁を不必要に高くしてしまった。

そのPitchforkが、だ。

10年ぶりの10点満点を、新譜に、出したのである。しかもフィオナ・アップル。2回通して聴いたが、かなりの勇気を出さないとこの10点は出せない。Pitchforkは、ついに、かつての外野精神を取り戻したのだ。これは事件である。歴史に立ち会ったと言っても過言ではない。

以上、長々と書いてきたが、僕が言いたかったのはこの一点だけである。

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