冬、

絶対に泣くところを見られたくなかった。彼は私の名前を呼び、無理矢理顔を上げさせた。

彼の親指が私の涙を掬う。ふと彼の顔を見ると彼が泣いていた。ぼろぼろと涙を流すものだから、驚いた。

「どうして君が泣くの」と言うと
「君が悲しんでいるからだ」と彼は言った。

濡れたままの目を逸らすことなく私をじっと見ていた。街灯の光が青く、柔らかくふたりだけの室内を照らす。感情が動かないわけがなかった。

その夜はふたりで涙を拭い合った。
体温を分け合い、幸福の硬貨を聴き、泣き疲れて眠った。

いい匂いだった。
抱きしめ合うだけの関係が幸せだった。

あたたかくて幸せだった。

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