【舞台の感想】新国立劇場『かもめ』演出:鈴木裕美

作アントン・チェーホフ
英語台本トム・ストッパード 翻訳小川絵梨子 演出鈴木裕美 美術乘峯雅寛 照明沢田祐二 音響長野朋美 衣裳黒須はな子 ヘアメイク宮内宏明 演出助手伊達紀行 舞台監督村田 明
キャスト 朝海ひかる 天宮 良  伊勢佳世 伊東沙保 岡本あずさ 佐藤正宏 須賀貴匡 高田賢一 俵木藤汰 中島愛子 松井ショウキ 山﨑秀樹 渡邊りょう

新国立劇場による『かもめ』はオーディションによって演出家が俳優を選び、そこから作品作りが開始された。アメリカではオーディションによるキャスティングが中心だと聞いたので、日本ではどのような舞台になるのか期待していた。

オーディションで集めるということは、俳優たちの下地がバラバラなことを意味している。演技と一口にいっても学んだ場所、人によって違いが出てくる。それは俳優が持っている才能とは別の部分だ。

今回の演出ではそういった人たちをどう一つの舞台でまとめ上げるかという役割で演出家が存在していたように思える。ただ、すべての俳優が有機的であったかというと、マーシャ一家(のちの旦那のメドヴェジェンコ含め)とアルカージナ一家で別チームのような、差は残っていた。

そのため、別チーム同士(勝手分けて申し訳ないが)の対話になると、演技の質の違いがあらわになっていた。しかし、その妙な噛み合わなさは、登場人物たち自身の噛み合わなさとは本質的に違っていただろう。

といっても、休憩が入る前半の第3幕までは、それぞれ俳優が人物の特徴をうまく表現していて、かもめを初めて見る人にも良く分かったのではないだろうか。国立劇場としてこの点は大事なので、とても素晴らしいと思う。

役者陣ではアルカージナ役の朝海ひかるさんはまさにハマり役で、完成度では一番だった。

ただ私が注目したのはトリゴーリンの人物造形と須賀貴匡さんの演技だった。これまでトリゴーリンはどこか風格のある人物として演出・演技されがちだったが、実際には今回演じられたようなタイプの人間だと私も思っている。

そんなトリゴーリンと第二幕のニーナとのやり取りは、今回の舞台で一番のシーンだった。ニーナ役の岡本あずささんの彼への接し方も相まって、二人の関係性の変化が本当によく表現されていた。

また、実はトリゴーリンを見ながら、この人は最後にこうするのではないかと、頭に浮かんでいた演技があったのだが、ラストシーンで須賀貴匡さん演じるトリゴーリンは、その演技をしたのである。ネタバレになるので書かないが、全体的に4幕の完成度が落ちたなかで光明を見た気になった。

ストッパード版の台本が使われた点については、シェイクスピア大好きな彼らしい装飾が散りばめられていて、その点は面白かったが、第4幕の改変部分については、ラストの若い二人の場面を台無しにするようなものだったので明らかな翻訳者の越権行為だと感じた。

そして、正攻法で切り込んでいったぶん、装置の細かなチャチさが目立っていたと思う。特に背景は最近はやりのスクリーンを使ったものだったが、その使い方が余計に安っぽい印象を与えた。絵本のようなイメージを出していたのならば成功と言えるが、演出との相性を考えるとそれほどではなかった。

チケット代の高さを考えると、この完成度では満足は出来ないし、満足してもらっても困るというのが私の感想です。

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