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安全安心…バスの本領【ゆっくり動く乗り物で~都バスの走る風景6】

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<陸の孤島を進むバス>
波01、「中央防波堤」停留所付近(2016年)
歩行者通行禁止の海底トンネルを抜けた先の終点。産業廃棄物処理施設を背景に。なお、文中の波01出入系統は、2022年3月31日をもって、運行終了となっている。

 品川駅港南口から波01出入系統に乗車する。この系統は品川車庫からの出入庫を兼ねているだけに本数が非常に少ないため、事前に発車予定時刻の確認をしておくと安心である。
 発車してほどなく、御楯(みたて)橋、浜路橋、五色橋と、橋のつく停留所が続く。首都高速に覆われて上空の見通しは良くないものの、五色橋を過ぎた頃から、海がちらちらと見えてくる。「この先、レインボーブリッジを渡ります。カーブが続きますのでご注意ください」というアナウンスが流れ、バスはダイナミックにループ橋を走破する。標高を上げながら風景がぐるぐると回転し……旅の気分が高まる瞬間である。
 橋を渡ると台場駅(台場駅を通らない便もある)、船の科学館、日本科学未来館前、テレコムセンター駅前を通り、終点の東京テレポート駅前に到着する。
 波01出入系統は現在、都バスでは唯一レインボーブリッジを渡る系統となっており、都バス愛好家の間ではひそかに人気がある。
 これにて本日の都バス旅はめでたく終了……。いや、ここからが本番である。東京テレポート駅前から波01系統に乗り換えるのだ。波01系統は、出入系統と一部重複する区間をへてテレコムセンター駅前を通り、その後第二航路海底トンネルをくぐり、環境局中防合同庁舎前の先、中央防波堤に至る路線である。テレコムセンター駅前から終点までの所要時間は、道路がすいていれば5分ほど。さほどの距離ではない。だが、この5分の存在感はあまりにも大きい。海底トンネルは歩行者の通行が禁止されているからである。
 自動車がなければ行けない終端、そこには何もない。正確には「環境局中防合同庁舎や産業廃棄物焼却業者の関係者が利用する施設以外」はほぼ何もない。商業施設のない静寂に身を置き、時折行きかうトレーラーの物音に耳を傾けながら付近を散歩した。気がつけば1時間が経っていた。知人の一切いない空間の中、無心に歩くのは森林浴に似ている。
 金曜日の午後5時18分のバスで中央防波堤を後にした。始発停留所で17人、2停目の環境局中防合同庁舎前では36人の乗車があった。
 中央防波堤付近には商業施設も娯楽施設もないけれど、そこには「勤勉に働く人々」という現実があった。歩行者の通行できないトンネルを走り抜けるためにバスを待つ人々がいる。そのバスを安全確実に操縦する運転手、そしてその運行を温かく見守る管理者がいる。公共交通の真骨頂を見た思いがした。

※都政新報(2016年12月2日号) 都政新報社の許可を得て転載
・2022年3月31日をもって運行終了となった波01出入系統については、こちらのエッセイでも触れております。