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小説VS漫画 リレー作品:第20話(小説)

 タイヘイの言葉を聞き科学者の死体を見ると、確かに獣にでも荒らされたかのように見えた。実際に獣に荒らされた死体を見た事はないが、イメージで言えば一番近い。
「ボク達化け物は危害を加えられないから違うとして、他にこんな事が出来る生物に覚えがないなぁ。一応野生の生き物もいるけど、ほとんど駆逐されてるし化け物達を振り切って科学者を殺せる生き物なんていたかな……」
 クサリがペンギンの死体を見つめながら呟く。それに対してタイヘイがクサリに対して指を突きつけた。
「クサリって化け物にもペンギンにも勝てるんじゃないの? えっと確かクサリはちょっと特殊で命令っていうのも効かないし化け物とも戦えるんだよね? だったらクサリみたいなのが他にもいるんじゃない?」
「ボクみたいなのが他にも? あるかなあそんなレアケース」
 道中、タイヘイにはクサリの簡単な説明しかしていないため、クサリがどうやって生まれたのかまでは知らない。クサリから話を聞いている俺としては、可能性は低いと思っている。あんな奇跡的な事が簡単に起こるだろうか?
「まあとにかく休むにしても探索するにしても、ペンギン共がいないなら安全だな」
「そうでもないよソーイチ。ペンギン達を殺した奴が近くにいるかもしれないし、戻って来るかもしれないよ。ほら犯人は現場に戻るって言うじゃない」
「それは経験から言ってるのか?」
「あはは、犯罪者ジョークだね」
 タイヘイと話していると、クサリが後ろから背中を突っつき小声で「警戒してね」と、念を押してきた。先程注意されたばかりだと言うのにまたタイヘイに対して気が緩んでいた。
 それからクサリは軽く探索してくると言い、その間部屋の隅でタイヘイと一緒に座り込んでしばらく休憩する事になった。クサリは俺とタイヘイが二人きりになることを嫌い、タイヘイも連れて行こうとしたが、「疲れたからお願い」と頑なに動こうとしなかった。
「ねえソーイチ、ちょっと携帯貸してくれる? 僕のアドレスを登録しておきたいんだよね」
「登録くらいしてもいいが、メールを送れるかは分からない。何故か俺自身とお前からメールは届いたけど電波がない」
「いいよいいよ。保険だからさ。もしかしたら使う時があるかもしれないでしょ?」
 そういうことならと携帯の電源をつけてタイヘイに渡すと、数秒で登録したのか返してくれた。
「以外に素直だな」
「何が?」
「お前のことだからアドレス登録以外にも色々といじりそうだったからな。本当に登録だけして返して来るのが意外だったんだ」
「ひどいなあ。でもそう思ってたのに携帯を貸してくれるソーイチも随分と素直だよね。そろそろ僕の事も信頼してくれたってことでいいのかな?」
「してないよ」
 そう言いながらも実際はある程度信頼はしていた。少なくとも俺やクサリに襲い掛かるようなことはしないのではないだろうか。殺そうと思えばいつでも殺せる状況はいくつかあったというのに、今こうしてこいつと二人で話している現状こそその証拠なのではないだろうか。クサリはタイヘイの事をどう思っているのだろう? 警戒しろとは言うが、本当に警戒していたら意地でもタイヘイを連れて探索に向かったんじゃないか? もし少しでも信頼が生まれていたのだとしたら良い事なのかもしれないな。

 しばらくしてクサリが戻ってきた。やけに足元が汚れているのでどうしたのかと聞いたら、科学者のスペアボディを潰してきたのだと言う。きっと奥の方は血肉の海になっているだろう。それ以外には何もなかったらしく、生き物も見当たらなかったそうだ。
「さてこれからどうしようか?」
「地図的に怪しい場所とかないのか?」
「外の化け物もそろそろ散ったんじゃない?」
 三人でクサリお手製の地図を眺めながら次に何処へ行くか話合うが、そもそもこの地図は正確ではないし、空白の方が多い。何処へと言う前に其処がどんな場所なのかはクサリしか分からないし、分からない事の方が多い。
「この上の部分は崖か?」
 地図は上部が直線で切れていた。そこから先には何も描かれておらず、パッと見ると崖に見えた。
「ああ、そこは崖じゃなくて壁になってるんだよ。一直線に高い壁が立っていて横は何処まで続くか分からないし、唯一向こう側に行けそうな門は見つけたけど科学者と化け物が沢山いて通れそうになかったんだよね」
「クサリでもいけそうになかったの? いくら多くてもあっちはクサリに攻撃できないしペンギンは弱いんだから問題はないように思えるけど?」
「それだけなら力押しで通れたのかもしれないけど、門をどうやって開ければいいか分からなかったんだよ。科学者を脅そうにも壁の中間あたりにある高台から監視してたから、結局門を開けなくちゃどうしようもないんだよね」
「でもそこが怪しいな。見に行くだけなら何とかならないのか?」
「僕も見てみたいな。あからさまに怪しいし、面白そうだよね。それに二人と化け物一匹よれば文殊の知恵っていうでしょ? もしかしたら良い案が浮かぶかもね!」
「うーん、遠目に見るだけなら何とかなるかも。ただちょっと遠いから安全なルートがあればいいんだけど……」
「ねえねえ、ペンギン達って研究所間を移動する時ってどうやって移動してるの? 化け物を沢山引き連れて堂々と地上を歩く感じ? そうじゃないならペンギン達の使う安全な道があったりして」
「そんな都合の良い道があるのか?」
「……どうだろうね。奥にはなかったけど、こっちの広間はまだ探索してないから探してみようか」
「じゃあまずはすぐそこの扉を開けてみないか? 開け方は分からないからクサリ頼んだ」
「ボクも全てを知ってる訳じゃないから開けられるか分からないよ?」
 休憩していた場所から数歩のところに大き目の四角い扉がある。前の研究所と同じくごちゃごちゃと配線ボタンやら配線やらが目立って、どう触ればいいか検討もつかない。そう思っていたが扉にクサリが近づいていくと、触れてもいないのに扉が勝手に開いた。クサリは伸ばしかけた腕を引っ込めて振り返ると気まずそうに呟く。
「自動式だったね……」
「紛らわしいな。頭がいいならもっとスマートなデザインにできなかったのか」
「技術とセンスは別物だよソーイチ」
 扉の向こうを覗くと階段があった。どうやらそれなりに下っていくらしい。
「これってさっき言ってた安全な通路かな?」
「ペンギンが使ってる地下通路ってところか」
「でも何処に繋がってるんだろうね」
 灯りはあるらしく、薄暗いが問題はなさそうに見える。降りて進んでいくが分かれ道などもなくずっと一歩道が続いていた。
「方向的には地図の上部に向かってるね。このまま壁の向こうに行けたらラッキーかも」
「いきなりペンギン共のど真ん中にでたりしたら最悪だな」
「その時は僕とクサリで暴れられるね!」
 それからいくら進んでも一本道が終わる事なく、疲れ切った俺とタイヘイは二度目の休憩をとることになった。クサリが寝ている間は見張っていてくれているため、ゆったりと横になる。しかしこれまで何とか誤魔化してきた空腹が腹痛という形で襲い掛かった。無いと分かっていても何かないかと自分の体を漁るが、やはり無い物は無い。この世界に来る前に食べたカップラーメンを思いだして、『久しぶりに』強く元の世界に戻りたいと思った。

 ————

「なあ、腹が減らないんだがこれが普通なのか?」
 俺が目を覚ましてからそれなりに時間が経っている。それなのに腹が減らない身体が少し不気味に感じて、後ろを歩くペンギンに訊ねた。
「私達が造った身体がそんな弱点をもっているはずもないだろう」
「じゃあどうやってこの身体は動いてるんだ?」
「——君達が想像すらできない技術で…………」
「お前、実は分からないんじゃないか?」
「ふむ、正確に言い直すと私すら知らない技術だ」
「でもお前らが造った身体だろ?」
「私達も全てが同じではないのだ。優れた者もいれば普通より劣った者も出てくる。その中で優れた者は壁の向こうにある第一研究所に集まり、そこで生まれた技術で君達が生まれた。今では何処の研究所にも設備こそあれ、その仕組みを理解しているのは壁の向こうの科学者達だけだ」
「ふーん、つまりお前は優れていなかった訳だ」
「好きに言うがいい。特に反論はしないさ」
 ペンギンにしては殊勝な態度に俺だけでなくオルソンまでもが驚いていた。甲高い鳴き声とセットで怒声が返ってくるものだと思い、耳を塞ごうと用意していた手を降ろす。予想外の返事に何と返せばいいか分からず、もういっそ面倒だから返さなくてもいいかと考えていると、ペンギンが先に口を開いた。
「というのもだ。もはや私は同志達の優劣など関係のない場所にいる。何故なら私が一番優れた個体となるからだ。私より上など存在しないのならば優劣など関係ない。そして私をそこまで押し上げるのが君だ」
「俺はそんなものに協力はしない」
「結構。君は好きにすればいい。その結果が私を押し上げる事になるのだから」
「どういうことだ?」
「君の言う元の世界とやらはこことは違う世界なのだろう? そんな場所があるとしたら壁の向こう以外にはない。そこには優れた同志達がいる。そこへ君のような存在を連れて行けばどうなるかな?」
「邪魔をするなら殺すしかない」
「その通り。優れた存在は全ていなくなる。例え生かす事になろうと君のような存在を連れて観察し、そのデータを集めて一つの研究にするだけでも私は周りから一歩前に出る事ができる。君がエラーで生まれた出来損ないだとて、普通ならすぐ処分され研究をしようとする者はいなかったのだ。私は誰もしようとしなかった研究の一人目となる」
 あまりにも大雑把な未来予想に呆れてしまった。

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