いわゆる人間ピラミッドの練習中にケガをしたことについて,学校側の責任が認められた事例(1)

 いつものように,意外と知られていないけど興味深い判例を紹介します。

 今回は,つい先日,東大阪市内の小学校で行われることについて議論が再燃した,「人間ピラミッド」について取り上げます。
 組体操中の事故についての裁判例はあまたありますが,みんな大好き(?)「人間ピラミッド」中のものに限ると2件になります。せっかくなので,ひとつずつ取り上げたいと思います。

 まず,「名古屋地裁平成21年12月25日判決」を取り上げます。こちらの判決は,こちらの→裁判所HPで公開されていますので,誰でも読めます。29頁と,この手の裁判例にしては短め(!)なので,関心のある方はぜひご一読を。

 さて,本件の概要は,名古屋市内にある小学校で,4段ピラミッドを作る練習をしていた児童が最上位から落下して左上腕骨外顆骨折の傷害を負った事案です。そこで,被害者が,名古屋市に対して,指導及び監督に当たった教員らに過失があったとして,国家賠償法に基づき損害賠償を請求したというものです。
 結論的には,教員らの過失を認め,請求を一部認容しました。

 以下,裁判例の中身を見ていきます。網掛けの引用部分は判決文から,註や地の文になっているものは当職の要約です。長いので,適宜要約を入れていきます。

<当事者関係>

 原告は,体重が軽く,サッカー部に所属し,空手を習っているなど,運
動能力に優れていた。
 A1は,昭和56年に名古屋市に採用され,平成19年4月から本件小
学校の教諭として勤務し,組体操の指導について約10年の経験があった
が,4段ピラミッドの指導は平成19年度が初めてであった(乙14 。)
 A2は,昭和45年に名古屋市に採用され,平成16年4月から本件小
学校に勤務し,組体操の指導について,29年間で20回程度の経験があ
った(乙15 。
※註:A1,A2は事故当時に監督していた教員ら。それぞれクラス担任であり,事故当時は2クラス合同で練習を行っていたようである。事故日は平成19年9月20日。

<4段ピラミッドとは>

 4段ピラミッドは,15人の児童が3段となって,最上位の児童を支え
る技であり,4段ピラミッドの最上位の児童は,地上2m以上の高さで立
ち上がる
こととなる。
 4段ピラミッドは,元々上の段になるほどバランスが悪い状態であるう
えに,土台の児童や2段目の児童の姿勢が悪い(背中が丸くなっているな
ど)場合や,土台の児童や2段目の児童がピラミッドの中心から等距離・
等角度に並んでいない「いびつな形」の場合には,3段目の児童の立つ位
置が安定しないなど,下の段の組立てが不安定になり,そうすると,上の
段はさらに不安定な状態となる(証人A1,証人A2 。)
 そして,4段ピラミッドは,最上位の児童が,立ち上がった際に,つか
まる物が何もないため,最も不安定な状態となり,落下する危険性を有す
る技である。
 また,遅くとも平成16年ころには,組体操の指導に関する文献におい
ても,最近組体操の練習中のケガが多いとの指摘があることが記載されて
いた
(乙16 。
※註:事案は違うが,↓と同様のものであることが原告の主張から分かる。4段タワーとも呼ぶらしい。あれ,この記事の意味って・・・。

<事実関係>

 事故の前日,別の児童が同様に,4段ピラミッドの最上位から落下してケガをする事故が起こっていた。そのために,最上位を経験していた児童が最上位役を辞退したことから,それまで最上位の経験のない原告に白羽の矢が立てられた。3段目のメンバーも未経験者に変更となった。

<注意義務の内容>

 本件小学校を設置する被告は,本件小学校における学校教育の際に生じ 
うる危険から児童らの生命,身体の安全の確保のために必要な措置を講ず
る義務を負うところ,体育の授業は,積極的で活発な活動を通じて心身の
調和的発達を図るという教育効果を実現するものであり,授業内容それ自
体に必然的に危険性を内包する以上,それを実施・指導する教員には,起
こりうる危険を予見し,児童の能力を勘案して,適切な指導,監督等を行
うべき高度の注意義務があるというべきである。
 そして,4段ピラミッドは,前記1(3 )のとおり,最上位の児童は,2m
以上の高い位置で立ち上がる動作を行い,かつ,安定するか否かは,3段
目以下の児童の状況にかかってくるもので,落下する危険性を有する技で
あるから,指導をする教員は,児童に対し,危険を回避・軽減するための
指導を十分に行う注意義務があると共に,最上位の児童を不安定な状況で
立たせることがないように,最上位の児童を立たせる合図をする前に,3
段目以下の児童が安定しているか否かを十分確認したり,不安定な場合に
は立つのを止めさせたりし,児童が自ら危険を回避・軽減する措置がとれ
ない場合に補助する教員を配置するなどして児童を危険から回避させたり,
危険を軽減したりする注意義務があり,これらの義務を怠った場合には過
失があるというべきである。

<注意義務を果たしていないことについて>

(※註:A1が,本件事故の前日,自らの指導中に事故が発生したのに,その原因等を探ることなく漫然と従前の指導を続けたことを指摘した上で,)
 そして,A1らは,3段目以下の児童のバランスが悪いことに気付か
ないまま,教員が合図をしてしまった場合に,児童らが教員に対してす
る合図や声の出し方を児童らに指導していなかったのであるから(証人
H,証人A1 ,児童らは,バランスが悪い状態でも,4段ピラミッドの )
組立てを続行せざるを得ない状況にあったのである(乙20 。)
 そうすると,4段ピラミッドにおいては,教員が少なくとも1人は補
助について,児童の様子を注視し,バランスが悪い場合には,その段階
で組立てを止めるよう指示することが必要であり,教員の補助がないま
ま,単に無理をしてやらないよう指導するだけでは,危険を回避・軽減
する指導として十分なものとはいえないのである。
※註:A2は,他方のクラスを見ていて,事故のあった4段ピラミッドの方を見ていなかった。

<学校側の対応と教員らの証言の信用性について>
 ここが非常に痛烈ですね。

 被告は,本件事故の際,A1は,本件4段ピラミッドから1~2mの
位置で補助していた旨主張し これに沿う内容のA1らの証言等がある  。
しかし,Wら3名のほか,その他の児童も一致して,A1は指令台の
上にいた(甲13,14,証人W,証人T,証人H)と証言するなどし
ており,明らかにA1らの証言等と矛盾しており,Wらに,あえて虚偽
の証言をする動機は考えにくいのに対し,A1らは,自己の保身を図る
ために虚偽の証言をする動機が多分にあり,Wらの証言等に比べ,たや
すく信用することはできない。
 加えて,A1は,原告が落ちる様子をはっきり見ていた旨証言してい
る(証人A1(17,34頁 ))が,もし,本件4段ピラミッドから1~ 
2mの位置で補助していたのであれば,A2より近くで,原告を見てい
たことになるのに,原告が落下する状況を全く見ていなかったA2の方
が早く原告に駆け寄っており,A1が全く駆け寄ってすらいないのは,
極めて不自然であり,本件事故発生時のA1の位置に関するA1らの証
言等は,信用することができない

 そして,A1らは,このような本件事故時の立ち位置という記憶違い
を生じるとは考えられない事項につき,事実と異なる内容を述べている
こと
,A1らの報告に基づいて作成されたと考えられる本件事故に関す
災害報告書(乙21)に,4段ピラミッドで生じた本件事故を 「3段
タワーの練習をしていた」際に生じた,と事実と異なる記載がされてい
ること,
Wらへの事情聴取においても 教頭が 「バランスが悪いときはどうしなさい。とか言われなかったかな。今年の組体操では,危ないときしゃがむように言われているんだけど 」などと誘導し,また 「A7 君が跳び降りたのは,立ってからか,しゃがんでからかどちらだったのかな 」などと,(乙20)などの事実からすると,本件小学校は,教員らの保身のために,本件事故の状況について,学校側の責任が軽くなるように意図的に工作していることがうかがわれ,本件事故に関する部分のその他のA1らの証言等についても,信用性に疑問が生じるものである。
※A1は,原告が自ら飛び降りたなどと証言したが,裁判所はこのとおりで,証言が信用できないとして認定せず。

<結論>

 そうすると,A1らは,本件4段ピラミッドの最上位の児童であった
原告が落下する可能性があることを前提に,原告に対し,危険を回避・
軽減するための指導を十分に行うべき注意義務があった

 また,A1らは,3段目以下の児童が不安定な状況で,原告を立ち上
がらせないように,本件4段ピラミッドの状況を十分把握して合図を出
すべき注意義務があり,仮に3段目以下の児童が不安定な状況で合図が
出されてしまった場合であっても,本件4段ピラミッドの近くに教員を
配置して,本件4段ピラミッドの状況に応じ,3段目以下の児童が不安
定な場合には,その段階で組立てを止めるよう指示すべき注意義務があ
った。そして,A1らは,原告が自ら落下を回避することができずに落
下する事態に備えて,補助する教員を配置するなどして原告を危険から
回避・軽減させる注意義務があった

 それにもかかわらず,A1らは,原告に対し,危険を回避・軽減する
ための指導を十分に行っていない
うえに,A1は,本件4段ピラミッド
3段目以下の児童が不安定な状況にあったのに,これを把握しないま
ま漫然と合図を出し
,また,A1らは,本件4段ピラミッドの状況を近
くで把握し,合図にかかわらず組立てを止めるよう指示することのでき
る教員を本件4段ピラミッドの近くに配置せず,さらに,原告の落下に
対して,補助する教員を本件4段ピラミッドの近くに配置していなかっ
のであるから 上記の注意義務を怠った過失があるというべきである  。
註:このほか,被告側は,自主性を高めるため教員の補助に頼らないで挑戦することも大事である,また,人員不足等を主張した。しかし,いずれの事情があったとしても「自主的な活動の助長のため安全の確保を図る必要がなくなるわけではない」「転落の危険を内在する技を行わせる場合,人員の不足のために安全の確保を図る必要がなくなるわけではない」としてこれを否定。

<損害>

 慰謝料100万円,診断書費用1360円,弁護士費用10万円を認容。
 なお,治療費は共済から賄われたために請求していない模様。

<過失相殺>

 認めず。

 いかがでしたか。4段ピラミッドを作るときは気をつけましょう。

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刑裁サイ太

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