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【UXDリサーチ】無期限先物におけるファンディングレートの比較

UXDステーブルコインを支えるプロトコル安定化メカニズムは、無期限先物市場におけるファンディングレートの考え方と密接に結びついています。異なる取引所におけるファンディングレートの理解を深めるため、UXD ProtocolはBinance、BitMEX、FTX、Mango、dYdXの5つのプラットフォームにおけるファンディングレートの調査を行いました。

完全版のレポートはUXDのドキュメントページで公開しています。要約はこの記事で紹介していますので、このまま読み進めてください。

確認:ファンディングレートとは?

以前公開した無期限先物についての資料で紹介したように、ファンディングレートというのは、無期限先物市場がBTCのような資産の実価格をその市場における仮想価格に合わせるための仕組みです。

たとえばBTCの実価格が10万ドルで、仮想価格は9万ドルだったとします。このとき、仮想価格を10万ドルに近づけるために、何らかの手段で買い注文を出すように誘導する必要があります。

実価格と仮想価格を収束させる仕組みがない場合、トレーダーは不公平な形で利益を得たり、損失を出したりすることになります。例えば、あなたと私がBTCの無期限先物を10万ドルでそれぞれロング・ショートしたとしましょう。

(ChainlinkやPythが報告する)BTCの実際の価格は10万ドルのままで、一方仮想の価格は9万ドルまで下落した場合、私は1万ドルの利益を、あなたは1万ドルの損失を出すことになります。こうなると私はすぐにこのポジションを閉じて利益を確定させようとしますが、あなたは少なくとも仮想価格が10万ドルに戻るまではポジションを閉じようとしないでしょう。

この現象は直感的に不公平だと感じられます。どうして実際のBTC価格が変動していないのに損益が発生するのでしょう。結局のところ、私たちは単一の無期限先物マーケットにおける価格ではなく、実際の資産(BTC)の価格変動に基づいて取引したいのです。このロジックの詳細についてはParadigmのブログをご確認ください。

こういった理由で、無期限先物を提供するプロトコルは価格を本来あるべき水準に合わせるための仕組みを必要とします。彼らは「ファンディングレート」としてこの仕組みを実装しています。これは実価格と仮想価格の差から利益を得ている人(先ほどの例で言えば私)から、価格差で不利益を被っている人へ定期的に支払いを行うというものです。一般的に、この支払額は実価格(mark)と仮想価格(index)の差に連動して変化しますが、その他の要素も影響します。

研究

UXD Protocolが今回行った研究では、Binance、BitMEX、FTX、Mango、それにdYdXにおけるファンディングレートの変動率、分布、相関関係を調査し、特徴ごとに分類しました。この調査を通じてUXD Protocolは上記の取引所におけるファンディングレートについて理解し、UXDステーブルコインの設計を改善することができます。

この記事ではSOLトークンに関する研究結果をいくつかご紹介します。BTC、ETH、SOLについて分析したレポートの完全版はPDF形式で公開しています。

ファンディングレートの分類

ファンディングレートの正確な計算方法やパラメーターは取引所によって様々なので、ファンディングレート全体について議論する際はまず分類方法を明確にする必要があります。

UXDの調査では、鍵となる要素を以下のように選出しました。

つまり、ファンディングレートは以下のような部分で異なっている可能性があります。

  1. ファンディングレート支払いの頻度

  2. 実価格と仮想価格がどう計算されるか

  3. 決済通貨と基軸通貨の金利差がどのように扱われるか

  4. ファンディングレートが固定されているか

  5. 仮想の価格がどのように計算されるか(一定規模の取引の価格への影響と、ベストプライシングの対立)

各取引所におけるファンディングレートの仕組みの違いはこれが全てではありませんが、これらは取引所によって特に異なっている要素です。

例として、BitMEXを見てみましょう。BitMEX、それにFTXのファンディングレート計算式は2つの部分で構成されています。1つは実価格と仮想価格の差を追跡する「プレミアム」もう1つは「金利」です。プレミアムの部分はこのように定義されます。

“Impact Bid Price”と”Impact Ask Price”は、売り・買いそれぞれにおける10,000ドルのポジションの平均執行価格を指します。このことから分かるように、BitMEXにおける仮想価格はマーケットの流動性の「深さ」も考慮します。”fair basis”は直近のファンディングレートの値に対応した変数です。

もう一方の金利コンポーネントでは、決済通貨(TOKEN-USDペアにおけるUSD)と基軸通貨(TOKEN-USDペアにおけるTOKEN)間の金利差を測定します。計算式は以下です:

このコンポーネントによって理論的には、決済通貨・基軸通貨を貸し借りする動機の強さが相対的に求められるはずです。こうした貸し借りは、無期限先物市場における実価格と仮想価格の乖離が発生したときになされます。なぜならば、貸し手と借り手の間には「債務」が発生しているからです。この点についても、Paradigmが無期限先物を解説した資料を確認してください。

最後に、ファンディングレートを挟み込む「clamp」コンポーネントがあります。このコンポーネントは

  1. ファンディングレートの上限・下限を設定する

  2. ファンディングレート支払いの全体的なボラティリティを軽減する

ことを目的とします。ここで設定されたファンディングレートの上限・下限値に達することは稀ですが、こうした制限は必ずしも全ての取引所で導入されているわけではありません。

最終的に、ファンディングレートをrとおくと、その計算式は

とすることができます。今回の調査の目的はファンディングレートの算出方法を解説することではありませんが、実際の数字がどのように算出されているかを理解すると今後役立つでしょう。例えば、前出の式においてI項は金利コンポーネントから正のバイアスを受けます。そのため、他の条件が同じならば、BitMEXのファンディングレートは他の取引所よりもプラス方向に寄る傾向があるといえるでしょう。

変動率・分布・相関関係

今回の調査結果を見ると、SOL無期限先物は異なるファンディングレート算出方法を用いた場合のボラティリティの違いをはっきり示したいい例だと捉えられます。dYdXとMangoのファンディングレートの推移には、複数回にわたる大きな変動のスパイクが見られるでしょう。

しかし、ファンディングレートのボラティリティは計算に用いる特定の項だけでなく流動性の深さにも影響を受けるため、単純なチャートで比較することは必ずしもできません。

ところが、ファンディングレートの分布を見ると、いくつかの特徴がそれら自体を明確に語っていることが明らかになります。

例えば、BitMEXのファンディングレートは正の方向にバイアスがかかっていることがわかります。一方、dYdXのファンディングレートはゼロについてほぼ対称です。

このことは、それぞれの取引所の間でファンディングレートがどの程度相関関係にあるかを示す資料にもなりえます。週足の累積ファンディングレートベースでは、BitMEXは他の市場とほとんど相関していないようです。これには市場の断片化と特殊なファンディングレート算出方法という2つの理由が考えられますが、今回のデータに基づけば、それら2つの複合要因である可能性が高そうです。

過去のファンディングレート

注目したいのは、グラフを週足で取ってより滑らかにすると、ファンディングレートの差や計算過程におけるバイアスがより顕著に現れるということです。BitMEXの計算プロセスにおいて、金利コンポーネントがファンディングレートを全体的に上方向へ押し上げていることがわかります。

そして、DEXは中央集権型取引所よりファンディングレートの変動が大きいことにも注目すべきです。こうしたスパイクが発生するのは、ちょうどそのタイミングで流動性が低下したことが原因と考えられます。

ファンディングレートの自己相関

UXD Protocolはまた、ファンディングレートは自己相関する傾向にあることも明らかにしました。つまり、期間n+1におけるファンディングレートの推移が、期間nにおけるファンディングレートの推移と強い相関関係にあるということです。

また、概ねゼロに向かって回帰するような特徴も見られます。FTXのBTC無期限先物を見ると、数日後に明確な自己相関傾向が見られます。(FTXのファンディングレート計算方法を考えると、これは意図的なものである可能性があります)

さらに、MangoのようなDEXにおけるファンディングレートはFTXに比べて幾分ボラティリティが大きく、自己相関傾向も弱いことが明らかになりました。

結論

UXD Protocolが今回の調査を、ファンディングレートがUXDステーブルコインに及ぼす影響を緩和するための戦略についてより明確にすることを目的に行いました。具体的には、

  1. 異なるタイプのファンディングレートをどのように理解し、分類するかを明らかにする

  2. バイアスの解明を目的として、ファンディングレートに関するデータを簡単に分析する

ことを目的としました。

ファンディングレートはマーケットのボラティリティが増大している際にはスパイクが発生することはあるものの、全体としては、時間が経つにつれて明らかに安定してきています。

この記事の執筆時点では、調査した中で最も変動が小さいのがFTXとBinance、最も大きいのがMango MarketsとdYdXです。DEXのファンディングレートは中央集権型取引所のそれと比べてより変動が大きく、外れ値も多く含んでいます。しかし、これはDEXの特殊性による部分もあると思われます。

通常通り、この記事に関するコメントや質問はDiscordまでお寄せください。お読み頂きありがとうございます!

それでは良い一日を!


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