he is for She is (5)

よく「he isってなんなの?」と言われるんだけど、そんなん僕だって分かんないよ。



he is for She is 連載5回目
(1000文字 執筆時間30分)



『いしき』



別れたカレが部屋に置いてったカミソリは五枚刃で、ジレットの、ボタンを押すと振動する優れもので、あたしが使ってた女性用のと比べて剃り心地も良かったから、家にあったのは捨てちゃった。カミソリって柄の部分は別にダメにならないし、10枚入の替刃がお得なせいで、いつまで経っても新しいのに変える事ができずにいる。そうやっていつもあたしは自分に言い訳をして生きてきた。


だいたい日曜日の夜に、ワタシは浴槽にお湯を溜めて、効くか効かないか分からない良いにおいの入浴剤を選んで、明日からの憂鬱な一週間に備えて身体をリセットする。その時に腕毛とか、背中の毛とか、陰毛なんかの憎たらしい無駄毛を処理するのだけれど、その度にツルツルの脇を鏡で見ては、いくら貯金があったか計算する。やっぱりまた脱毛に通おうかな。


カミソリのホルダーを買うのさえケチるあたしには、惰性で元カレの遺物を使い続けるあたしには、定期的にサロンに通うガッツも、そもそもあの初回のウザい勧誘まみれのお試しキャンペーンの説明を受けるのも無理。それなら今のままでもいいやって結論に落ち着いちゃう。なんだかんだ言い訳して決断を後回しにするのだけは得意。


それはあたしの恋愛の仕方とそっくりで、いつも時間がかかる本当に大切なことに手をつけられない、ダメで、不器用な生き様のよう。そろそろ新しい恋をすべきなのは分かっているんだけれど、けれどけれどと自分に嘘をついて、それなりに楽しい日常で誤魔化して、勇気の出し方を忘れそう。


恋はするものでなく落ちるものだと誰かが言ってたけど、落ちる気配も、受かる気配もなく、ただカミソリに宿るあなたの気配だけが、恋をしたことがある唯一の証拠のようで、今日もあたしを慰めてくれる。


寂しくない・寂しくない・寂しくない、テレビのリモコンでチャンネルを変えるたびに呪文のようにあたしは強がって、月曜日に溺れないようぼんやりと深夜番組を眺めながら、何歳まで無駄毛って処理するんだろう、おばあちゃんになってもやるのかな、それって何歳なのかな、女として生きるのって難しいな、あした仕事に行きたくないな、やっぱり恋人が欲しいな、伊勢丹で見たあのお財布も欲しいな、、大変、明日は資源ゴミの日だから遅番だし出しとかなくっちゃ、と正気を取り戻す。あぶないあぶない。


カミソリの電池が切れて、もう動かなくなったら、いつの日か分からないけれど、その日曜日の夜にシェーバーを捨てて、かわりにあたしが動き出そうと決めた。




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