he is for She is (6)

どうして女の子の気持ちになって文章を書くのと質問されて、たぶん僕なりの現実逃避の手段なんだと思うと答えたら、そんなのっておかしいよと言われてしまった。おかしいかなぁ。別にいいんだストレス発散できれば。



he is for She is 連載6回目
(1000文字 30分くらい)



『知らない男に抱かれた朝あたしはパンを買う』



あの人との、長い不毛で搾取されるような関係を終わらせた最初の週末に、あたしは六本木のどうしようもない男が集まるクラブに出向いて予定通りお持ち帰りされた。道玄坂に向かうタクシーの中で隣に座る男に太ももを撫でられながら明日の予定をぼんやりと考える。天気予報で雨が降ると言っていたっけ。


汗ばんで不快な身体。一刻も早くシャワーを浴びて、さぁ来いというコンディションになったら好きなようにして貰いたかった。始まりと終わりが分からないDJが繋ぐ音楽のような生活に飽き飽きしていて、何か新しい刺激が欲しかったから。狭いラブホテルの浴室は、スーパーマンに変身する電話ボックスのよう。


髪を綺麗な金色に染めた、今時の少しやんちゃな男の子は、あたしが29歳だと風呂上がりに告げると「マジすか、若く見えるっすね」とつまらない返事をした。でも、どうやらそれが功を奏したようで、尊敬とは違うけれど絶妙なパワーバランスが生まれて、あたしの思い通りのペース配分で物事を運ぶ事が出来るようになって、すごく楽になった。


いつ会えるか分からない、振り回されてばかりの恋愛と違って、この短い一晩だけの関係性は、好きなように振る舞える素晴らしさを再確認できただけでも収穫があったのに、男が齢を重ねて失うのは肌のハリでも髪の毛の量でも回復力でもないと気付かされて、思わず感心しちゃった。すごい、元気。


長さ・太さ・硬さで何が一番大切か教えてあげる。角度よ。


狭い選択肢の中で物事を考えるといつだって大切なものを見失ってしまう。あの人とどうすれば良いかばかり悩んでいたのに、今のあたしは高校時代に勉強したニュートンの運動方程式を必死で思い出そうとしていた。


あ、摩擦の作用によって力学系からエネルギーが失われるのは熱力学的な不可逆性の一例だから、線積分で求められるじゃないと必死に腰を振る彼を眺めながら考えられるほど冷静ではいられなかったけれど、あたしという物理がミンコフスキー空間の中で踊りだした。わかるかしら。


それから朝が来て、まだ幼さの残る名もなき男の寝顔を横目に私はそっと部屋を出て、いつの日かの朝と同じようにヴィロンでパンを儀式的に買ってから電車に乗った。家に着いてメイクを落としていたらお母さんが起きてきたから「おはよう。あたしはこれから寝るね。」と言って二階にあがり、カーテンから洩れる光を見て美しいと思った。



28時に仕事が終わってからピエエと書いたんだけれど、読み返してみるとマジで意味がわかんないから、やっぱりちょっとおかしいのかもしれない。


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