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吉本騒動には昭和の価値観が渦巻いているという話

吉本騒動は社会構造の変化を表している

この記事では、吉本興業の宮迫さんらの闇営業問題の本質を分析しました。

2019年7月、雨上がり決死隊の宮迫さんを筆頭とする吉本所属の芸人が反社会勢力から金銭を受け取って闇営業を行っていたことが明らかになりました。
現在この問題は、当事者だけでなく、企業である吉本にまで波及しています。岡本社長によるパワハラ発言や、闇営業を行わなければならないほど芸人の給料が安いことが問題視されています。吉本のトップ層の芸人の1人である加藤浩次さんは、企業体制に嫌気がさし吉本を辞めると発言するなど、問題は拡大の一途を辿っています。


ネットやテレビのコメンテイターたちがこの件についてあれやこれやと解説しています。

・社長の岡本が悪い
・松本人志が吉本を牛耳っているのが悪い
・そもそも闇営業をした宮迫たちが悪い

等様々です。
しかし、これらは問題の本質を捉えられていない議論です。どの意見も内的要因についてのものであり、状況要因を軽視しています。
このような人間の性質を基本的な帰属のエラー根本的帰属誤謬(Fundamental attribution error)と呼びます。社会的要因を無視するのは人間が持つ非常に強い錯覚の1つです。


つまり、私の考える今回の吉本騒動の根本的な原因は社会構造の変化によるものです。どちらが悪いというミクロな話ではなく、もっとマクロな話なのです。

では、社会構造はどう変化しているのでしょうか?


「個人の時代」へのパラダイムシフト


現在、「企業」から「個人」の時代へとパラダイムシフト(価値観の変容)が起きています。「企業」という形態はもはや古く、これからは「個人」の時代へと転換していくでしょう。分かりやすくいえば、現代は闇営業が推奨されるような時代になっているのです。


吉本が6000人近い芸人を全て囲い込もうとしているのは、時代の流れに逆らう行為です。そのため、もし今回宮迫さんらが闇営業を行っていなかったとしても、結局似たような問題が噴出ししていたと私は考えます。
今回の吉本騒動は個人の時代の到来を象徴する出来事と言えるでしょう。

現代、そして未来の仕事を考える際に、AI、5G、シェアリングエコノミー、フィンテックなどのテクノロジーを欠かすことはできません。これらを理解していなければ、吉本騒動もただの身内のゴタゴタにしか見えません。

では、なぜ吉本騒動が個人の時代の到来を予期させる出来事なのでしょうか?
これについて解説していきます。


芸人の目的は何か?

まず、芸人という仕事の目的を考えてみましょう。
そもそも、彼ら芸人は何を目的としているのでしょうか?

個人の目標は様々だと思いますが、大別すると芸人の目的は以下の2つにわけられるでしょう。

・多くの人々を楽しませたい
・大金が欲しい

実は現代において、企業ではなく個人のほうが、この2つの目的を達成する確率がより高まってきています。


芸人の賃金が安い理由

まずは、「お金」という面から問題を考えてみましょう。
闇営業をしなければいけないほど芸人の給料が低いという問題についてです。
そもそも、芸人の賃金はどのように決定するのでしょうか?

一概には言えませんが、ほとんどの場合、芸人などのエンターテインメントはより多くの人を楽しませることで報酬が上がっていきます。
つまり、劇場で100人を笑わせる芸人よりも、テレビで100万人の笑いを取れる芸人ほうが報酬が高いのです。そのため、同じテレビという媒体でも、地方局よりも、より視聴者の多い全国ネットのほうが報酬は高くなります。

しかし、この報酬の100%が芸人の懐に入るわけではありません。仕事を斡旋した企業と芸人の間で報酬を分け合うことになります。
芸人が所属する企業によってこの割合は変化します。吉本の場合、上位の芸人ほど芸人の取り分が大きくなるようです。若手芸人は他の事務所と比べて極端に芸人の取り分が少ないことから「吉本の闇」と呼ばれることもあります。

これに対して、闇営業の場合、企業による中抜きが存在しません。仕事を自分で見つけるかわりに、報酬のほぼ100%が自分の手元に入るのです。


どちらがおいしいかは一目瞭然ですよね。しかし、企業としては自社を通さない仕事をされたのでは利益をあげることができません。そこで「闇営業」という悪い印象を与える単語を作りだしました。
別に闇営業は反社会勢力の仕事を受けることを指すわけではありません。闇営業とは芸人が会社を通さないで仕事を受けることを指します。これは言い換えればただの「副業」です。
闇営業とは芸人としての副業を認めていない会社で副業をしていることが問題となっています。

現在、日本政府は「働き方改革」を打ち出し、副業、兼業を推奨しています。現代において副業を認めない企業は、昭和の価値観のままの古い企業と言えるでしょう。


まとめると、芸人の賃金をあげるには、以下の2つの方法があります。

1、 より多くの人を楽しませる。
2、 企業に報酬を中抜きされない。

芸人はこの2つを実践することで賃金を大幅に上げることが可能となります。
これらを達成するためには個人での活動が不可欠となります。



もはやテレビに出る必要はない

もはや芸人はテレビに出ることを目標にする必要が無くなっています。
なぜなら、テレビに出なくとも、YouTubeという媒体を利用すれば自分だけの番組を持つことができるからです。


令和時代は誰でもオウンドメディアを持てる時代です。オウンドメディアとは、自分で所有しているメディアのことで、消費者に向けて情報を発信することができます。

昭和時代はテレビ、ラジオなどのマスメディアでしか大衆に情報を届けることが不可能でした。これが現代では、個人がオウンドメディアを持ち世界中に情報を発信できるようになったのです。

多くの芸人はテレビに出ることを究極の目標にしています。テレビに出れば名前が売れて営業の単価が上がります。上手くいけばレギュラー番組を持てるかもしれません。
しかし、テレビに出られる芸人などほんの一握りだけです。芸人たちはそんな確率の低い賭けをやめて、YouTubeで自分だけの番組を作り上げるべきです。


しかし、芸人がYouTubeで活動しても上手くいくかどうか分からないじゃないかという意見もあると思います。
確かにその通りですが、YouTubeは本当に面白い芸人ならば、時間をかければほぼ確実に伸びるシステムになっています。

YouTubeは実力社会です。面白い動画は再生され、面白くない動画は再生されません。芸人が芸の素人たちに混じって勝負しても勝てないのであれば、そもそもテレビに出たとしても結果は見えているでしょう。


賢い芸人たちはYouTubeを主戦場にしている

メディアの変遷を理解している芸人たちは既にYouTubeを主戦場に移しています。

例えばキングコングの梶原さんはカジサックというチャンネルで登録者100万人を達成しています。

https://www.youtube.com/channel/UC642pLj4GXSj-0Ybdx3ytmA


オリエンタルラジオの中田さんも破竹の勢いで登録者を伸ばし、登録者50万人を抱えるチャンネルを持っています。

https://www.youtube.com/channel/UCFo4kqllbcQ4nV83WCyraiw


若手芸人では四千頭身というお笑いトリオがYouTubeで大成功を収めています。彼らはYouTubeにコント動画を投稿し、20代前半という若さにも関わらず、19万人の登録者を抱えています。

https://www.youtube.com/channel/UC_RNTt0woXncVfZMmjK9swA/featured


彼らはコント動画で100万再生を超える数字を何度もたたき出しています。これは、およそ100万回以上、視聴者を楽しませたということです。
他方で、芸人が劇場いっぱいの客を笑わせても、一度に笑いを届けられる数は数百人が限界でしょう。
そのため、オウンドメディアを持たず地道に活動している芸人よりも、YouTubeを利用して多くの人々を楽しませている四千頭身のほうが、結果的に多くのお金を得ることになります。
そして、彼らはお金だけでなく、「多くの人を楽しませたい」という芸人としての目的も達成しているのです。


中抜き問題はクラウドソーシングで解決する

芸人の賃金を上げるもう一つの方法は企業の中抜きを減らすという方法です。
闇営業は中抜きを無くすことができますが、依頼者の信頼性が担保されません。ワイドショーなどは、「反社会性力の仕事を振り分けられないから闇営業はいけない!」で話が終わってしまっています。

しかし、シェアリングエコノミー(共有経済)が発展している現代において、そのような問題は簡単に解決できます。
クラウドソーシングを利用して、信頼できるプラットフォームを仲介すれば良いのです。例えば、フリーランスのためのクラウドワークス、ランサーズ等のプラットフォームは登録者に身分証明書を提出させています。そして、評価システムにより、本当に信頼できる相手なのか、仕事の受注者と提案者がお互いを評価します。評価ポイントの高い相手とだけ取引すれば、仕事の信頼性は担保されるというわけです。


当然、プラットフォーム側に手数料を支払うことになりますが、ランサーズの場合、100万円の仕事を受けても支払う手数料は7万円に過ぎません。

出典:ランサーズ


通常の企業では芸人にここまで報酬を渡すわけにはいきません。
例えば吉本ならば、企業と芸人で報酬の割合は良くても5:5。若手芸人ならば1:9の場合もあるそうです。

つまり、クラウドソーシングの仕組みを知っていれば、芸人が独立して個人で活動しない理由はないのです。

クラウドソーシング依頼者側にとっても、メリットがあります。プラットフォームを介することで、より早く、安くオンライン上で、芸人に仕事を依頼することができるようになるからです。

2019年7月現在ではまだ芸人がクラウドソーシングを活用している事例は少ないため、認知度が低い現状です。とはいえ、企業に所属しない「フリーランス」の数は日米で増え続けています。特にクリエイター業界では「個人の時代」が推し進んできています。

出典:ランサーズ フリーランス実態調査 2018年版

「個人の時代」の波は今後お笑い業界にも波及していくでしょう。
今「独立して自分で仕事を探した方が実入りがいいらしいぞ」と芸人の間で噂が広まれば、企業から離れて個人で活動する芸人は加速的に増えていくことが予想されます。


個人での発信活動が知名度を生む


とはいえ、独立したとしても、無名の芸人に仕事など来ないんじゃないの? とあなたは疑問に思ったかもしれません。
確かにその通りです。しかし、企業に所属していたところで自動的に知名度が上がるというわけもありません。

芸人が知名度を上げるためには、ありとあらゆるメディアを使って自分の得意分野を発信することが求められます。
世界的にヒットした「PPAP」は、古坂大魔王という芸人がYouTubeで作曲した曲を発信していたからこそ生まれました。彼は「PPAP」の成功により知名度が上がり、テレビにも多く出演できるようになりました。

芸人の渡辺直美さんはInstagramで日本一フォロワーを持っています。彼女が日本テレビのゴールデン番組「ぐるぐるナインティナイン」のレギュラーに選ばれたのは、「インスタの女王」としての影響力によるものでしょう。彼女は並み居るライバル芸人たちを抑え、若くしてトップ芸人であるナインティナインと共演するまでになったのです。

この2人の成功は、会社のおかげなどではありません。個人の発信活動が評価された結果なのです。


昭和の価値観は若手芸人には当てはまらない

昭和の価値観はこれからの時代を生きる若手芸人には当てはまりません。昭和時代の成功者の後を追っても、その先に令和時代の成功は無いでしょう。

松本人志さんはテレビ番組「ワイドナショー」で今回の件の収束方法について語っていました。


「俺は、笑いが好きで集まった吉本の芸人が誰一人辞めることなく事態を収めたい」


この言葉から、松本さんは本気で芸人のためを思って行動していることがうかがえます。
確かに、昭和、平成時代ならば芸人を吉本に残らせるという松本さんの判断は正しいと言えるでしょう。企業から放り出された芸人が個人で芸人の仕事を見つけるのは困難だったからです。

しかし、時代は変わり、令和時代においては、もはや個人でも芸人としての仕事を見つけ、お金を得ることが可能となりました。YouTube等のオウンドメディアでコンテンツを発信し、Twitter、Instagram等のアーンドメディアでファンを集めるのです。多くのファンを持てばフィンテックを利用してマネタイズを行うことは容易です。クラウドファンディング、オンラインサロン、valuなど、換金手段はいくらでもあります。

令和時代においては、特に若手芸人ほど、企業に所属せず個人での発信活動に専念したほうが芸人としての成功に近づけるでしょう。


企業に所属しないと言っても、全てを一人でやる必要はありません。収入が増えてくれば、雑務はアウトソーシング(外部委託)できるようになります。クラウドソーシングを利用したり、以下で説明するMCNに所属することで、個人は自分の仕事に集中することができます。

MCNと芸能事務所の違い

個人の時代を象徴する新しいビジネスモデルとしてMCN(マルチチャンネルネットワーク)というものがあります。
MCNとは、YouTuberがYouTubeから得られる収益の一部をMCNに支払うことで雑務を肩代わりしてもらうことができるというシステムのことです。


MCNに所属するYouTuberはMCNから給与を得ているわけではありません。
MCNは既に成功したYouTuberたちに依存するビジネスモデルであり、売れていないYouTuberに仕事を与えるようなものではありません。
MCNは仕事を斡旋することもあるため、従来の芸能事務所と似たように思われることもありますが、あくまでそれはおまけの仕事です。

MCNに所属するYouTuberは契約を解消されたからといって収入が無くなるわけではありません。その点で、従来の芸能事務所と違い、タレントは独立性を持っています。

個人の時代においては、従来の芸能事務所はMCNに寄せることで生き残りを図るようになるのかもしれません。


結論:吉本騒動は社会構造の変化によるもの


まとめると、吉本騒動は「企業の時代」から「個人の時代」への変革が起きていることを象徴するできごとであると言えるでしょう。

社会構造の変化を考えると、今後はエンタメの才能があるほど会社から離れていくことが加速していくと予想されます。そして、これはエンタメ業界だけではありません。今後はエンタメ以外の業界でも才能のある人ほど独立していく傾向が加速していくでしょう。

令和時代においては「人生100年時代」「生涯労働」というワードが囁かれています。私たちは吉本騒動を対岸の火事と思わず、自らのキャリア形成を見直す必要があるのではないでしょうか。

2019/7/31 バーチャルエコノミスト千莉


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参考文献

社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉 小坂井 敏晶 筑摩書房 (2013/7/18)

シェアライフ 新しい社会の新しい生き方 石川アンジュ クロスメディア・パブリッシング(インプレス) (2019/2/26)

UXの時代――IoTとシェアリングは産業をどう変えるのか 松島聡 英治出版(2016/12/6)


次回予告

「個人の時代」が到来してきているとはいえ、全ての人が今すぐ会社を辞めて独立するというわけにもいきません。

どうすれば上手く独立できるのか?
どのように宣伝して知名度を上げるのか?
どうすればファンを増やせるのか?

不安や疑問点はたくさんあると思います。そこで、「成功者から令和時代の生き方を学ぶ」という企画を考案してみました。

第一回は新時代のお笑いコンビ「水溜りボンド」の戦略を分析します。

あえてお笑い芸人を名乗らずに、YouTube上でお笑いを発信し続ける」という戦略により、彼らはYouTubeで登録者数400万人を抱えるトップインフルエンサーに登り詰めました。
彼らは、新時代の社会構造の変化を理解していたのでしょう。そのため、彼らは大学卒業後に芸能事務所に入らず個人での活動を選択したのです。

彼らの戦略を分析することで、私たちは令和時代の生き方や成功法則を学ぶことができるのではないでしょうか。

近日中にYouTubeで動画を公開予定です。チャンネル登録をしていただけると活動の励みになります。よろしくお願いいたします。


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