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リレー小説 note 9【未来 1】


note 8/目次/次話

◇◇◇プロローグ◇◇◇

 

――おじいちゃん、それなに?

――これか?これは未来ノートと言って、書いた事が本当になる魔法のノートだよ。


幼い私を膝に乗せて祖父は笑った。




◇◇◇1◇◇◇

祖父が亡くなって一ヶ月が過ぎた。
四十九日を前にして遺品を整理しようと、日曜日を利用して祖父の家に行く事になった。
三年前に祖母が他界してから、ずっと独り暮らしをしていた祖父。
何かあっては心配だと母は良く漏らしていたが、家族の思い出詰まった家を離れる気持ちは祖父には無かった。
最期こそ病院であったが、脳梗塞で倒れる直前まで元気で庭の盆栽を何より楽しみにしている……そんな素朴で温和な祖父だった。
生前とてもきちんとした祖父だっただけに、家の中も綺麗に整理整頓されていた。
貴方の部屋もこれくらい綺麗だったら楽なのにと母が愚痴を零すが、お構いなしに部屋に上がり長らく閉ざされていた雨戸を開けて回った。 長く人の入ってなかった家は何だか湿っぽく、篭った空気が澱んでいた。
窓を開け放つと気持ちの良い風が吹き込み、高台にある祖父の家からは私達の住んでいる町とその先の海までが一望できる。
「アヤネいつまでかかってるの?こっち手伝って頂戴」
「はぁーい」
祖父のいなくなった家がこれからどうなるか、私は一抹の不安を覚えながらも、母と一緒に遺品の整理を始めた。

寝室の本棚を片付けている時だった。
そのノートは一番隅にひっそりと置かれていた。
「末…木……ノート?」
黒い表紙にはほぼ消えかけてはいたが、銀色のペンでそう書かれていた。
何だろうと思っても鍵がかかっていて中が見えない。
近くに鍵でもあるのか、サイドボードの引き出しを開けた時玄関から明るい声が聞こえた。
母親の妹、慶子さんだ。
「ケンタッキー買ってきたわよー」
「さすが慶子叔母さんわかってるぅ?!」
喜び勇んでリビングへと駆け込むと、黄金色に輝いたチキンが小山を作っていた。
黄金色の宝に上がったテンションも、すぐにもう一人の人物によって半減した。
「相変わらずうるさいな」
既に私のチキンを頬張っているのは、従兄弟の賢治だった。
叔母さんだけだと思ったのに、こいつもいるなんて最悪だ。
同じ年の賢治とは隣町に住んでいる事もあり、幼い事から良く顔を合わせている。中学から始めた柔道もなかなか強いらしく、しかも私よりランクの高い私立高校に通っている。
昔はあやちゃーんって可愛いかったのに。
「そいえば、なんか小さい鍵見なかった?」
「鍵?どんなのよ?」
「おじいちゃんの本棚に鍵のかかったノートがあった」
賢治が最後のチキンに手を伸ばしたのをタッチの差でかすめ取りかぶりついた。
「アヤネ止めなさい」
「ふへ?」
「おじいちゃんが鍵までかけてた物を開けようなんて、失礼でしょ。そのノートあとで処分しますよ」
呆れたという顔でお母さんがティッシュを差し出した。ノートを探ろうというのと、ベトベトになるのも構わずチキンにかぶりつくのも止めるよう言いたげだ。
「しかし、お父さんもそんなノート持っていたのね。日記かしら?」
「きちんとしてたからね。日記でもいいけど、何が書かれているか恐ろしいわ」
お母さんは興味が無いようだが、慶子さんは楽しそうだ。こっそり「あとで小さな鍵を見つけたら教えてあげる」と約束してくれた。

昼食の後片付けを終え、私は再び寝室の片付けに戻った。
サイドデスクやベッドの下、クローゼットまで隅々探したけど鍵らしいものは一つもなかった。
「お爺ちゃん何処に隠したんだろ…」
「おい」
「!?」
振り向くといつの間にか賢治が立っていた。何の音もしなかったから全く気付かなかった。
「何よ…」
「これさっき言ってたノートか?」
私が隅に置いておいたノートを目敏く見つけて手にとった。
「木木ノート…?」
「ちょっと勝手に触らないでよ」
「ったってお前のじゃないだろ」
身長が高いのを良いことに、私の手の届かない所にノートをやってしまった。
「鍵見つかったのか?」
「まだ」
「一緒に探してやろうか?」
「本当?」
「俺も中身知りたいし」
そう言ってニッと笑う。
相手が賢治だっていうのが気に食わないが、一人より二人で探した方がずっとマシだろう。
……と思ったのだが、そのあと夕方まで賢治はずっとノートとにらめっこして、鍵を探すのを手伝ってくれない。
しかも、夕方帰る時には「これ、預かって行くから」と持って行ってしまった。
そりゃあこっちはお母さんが睨み利かせているから持って帰り辛いけど…見つけたのは私だ。
気に入らないまま、明日の放課後に受け取る事を約束して家に帰った。

未来 2


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