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リレー小説 note 9【未来 2】

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未来 1

◇◇◇2◇◇◇

午後六時過ぎ。 部活終わりに制服のまま普段降りない駅に降りた。

駅前のマックを見つけると、ビックマックのセットを注文してから奥の席に向かう。

店内は平日の夕方だけあって、同じような制服姿の高校生だらけだった。 角のボックス席には、既に見知った顔が座っていた。 ブレザーの制服が多い中、白いセーラー服は良く目立つ。 待ち合わせの相手は呆けたように窓の外を見ながらシェイクを啜っていた。
「よぉ。またそんなん飲んでと肥るぞ」
「余計なお世話よ。ってアンタもなにそれ…夕飯前でしょ?」
「部活の後で腹減るんだよ。これくらい食べても余裕」
バカみたいに口を開けている乃音をシカトして、向かいの席に座ると早速ハンバーガーの包み紙を破いた。 ゴールデンウィークの大会に向けて練習もハードになり、いくら食べても腹が減る。 部活前オニギリも食べたのだが、とっくの昔に消化してしまった。今セットを食べても、家に帰ってから夕飯も食べきれるだろう。
「ねぇ早く」
「ん?」
「早くノート渡してよ」
ああと俺は漸くここに来た目的を思い出した。
昨日預かったノートを乃音に手渡す。 開けられないものかと、家に帰ってから色々試したが全く開く様子はなかった。 そんなに複雑な鍵でもないので、いったいどんな構造をしているんだ。
「そいえばそれ、未来ノートって書いてあるんじゃないか?」
「未来ノート?んーそう言われてみればそう見えるかも」 昨日鍵を弄っていて気がついたのだか、このノートは【末木】でも【木木】でもなく、【未来ノート】であることが分かった。
未来の上半分が殆ど消え、良く見ないとわからないが未来ノートで間違えないだろう。
ノートの文字を指でなぞって確認する乃音に更に今日仕入れた情報を伝える。 「それとさ、クラスでそれの噂聞いたんだ。なんでも書いた事が本当に起こるっていう魔法のノートがあるって。その名前が『未来ノート』なんだって」
「何それ?信じてるの?」
「だから噂だって言っただろ。女子ってそういうの好きじゃん」
「まぁその手の噂、一つや二つ何処にでもあるけど……」
「んで、気になって調べてみたら……」
俺はそう言って、ネット掲示板を纏めプリントした束を手渡した。
休み時間を潰して作った『未来ノート』に関する噂を纏めたプリントだ。
『未来ノート』を持っているという噂の有名人、著名人。
そして、『未来ノート』を持っているという人の書き込み。
その多くが傍から見れば憧れ、妬み、やっかみみたいな物で、書き込んでいる多くの人が遊び半分で書いているようだった。
持っていると言っている人も、何回か書き込むうちに大きな事を言って、実際何も起こらず叩かれている。
ついには『未来ノート』を崇める新興宗教団体まで出てきている有様だ。 渡した資料を一通り読み終え、乃音は残っていたシェイクを一気に飲み干した。
「何よこれただの噂じゃない」
「それが、噂にしては息が長いんだよな。ほら、この書き込みが2003年で、そっから今まで噂は殆ど途切れていない。2020年代にテレビ番組なんかでも大きく取り上げられたけど結局有耶無耶になっておしまいさ。何人か芸能人も持っているだの見たことあるだの言ったけど、それが大炎上して干されたって例も多くて誰も近づかなくなったみたいだな」
「そりゃあ有名になったのが、その『未来ノート』のおかげだなんて言われたら見ている一般人は気持ちよくないわね」
「でもこの手の噂ってそうしたら鎮静化するものだけどさ、何故かこの後も続々と『未来ノート』に関する書き込みがされているんだよ」
俺は乃音の手からプリントを貰い、一番後ろの書き込みを指差した。
「……まさか、これが本物だって?」
「まだわからないけど、お爺ちゃんがここまでして大切にしたものだから、もしかしたら…って事はあるんじゃないか?」
言ってしまってから自分でドキっとした。 この大衆ファーストフードの店にある得体の知れない異物が急に怖くなった。
乃音も同じだったようで、テーブルに載せていたノートを腕で覆って辺りを見渡した。
「おい、どうしだんだよ」
「しっ!どっかでこのノートを狙っている人がいるかも知れないじゃない!」
周囲に視線を向けるが、幸いおしゃヘリに夢中か、手元のディスプレイに向かっている人ばかりだった。
「とりあえず、これは私が預かるから。また来週末お爺ちゃんの家に行って鍵を見つけるのアンタも手伝いなさいよ」
「部活があるからずっとは居られないけど、行ける時間は行くわ」
早々と席を立つ乃音に返事をすると、差し入れにチキンを買ってくるよう念をおされた。 自分も『未来ノート』について気になっているから仕方ないか。 目の前の空になったトレーを片付け、店を出た。


[友達と話してたら遅くなった。7時くらいに帰り着く。  乃音]
賢治と別れてから、一応母親にメールを入れた。7時なんてそんなに遅い時間でもないが、一応入れておかないと、帰ってから煩い。
電車に揺られていると母親から返信が入った。
[帰りにマヨネーズ買ってきてください。 母]
「りょーかい。っと面倒くさいなぁ……」
独りごちながら、最寄駅に降りると駅の近くにある大衆スーパーに寄った。
「マヨネーズーまよまよまよまよマヨネーズ~♪実は色々あるょーマヨネーズ~♪」
作詞作曲自分の即興ソングを口ずさみながら、マヨネーズをさがす。
目的のマヨネーズを手にレジに並ぶと、前に並んでいる人に気づいた。
「……もしかして、香澄さん?」
「あら、アヤネちゃん。今帰り?」
前に並んでいたのは、隣の部屋に住んでいる香澄さんだ。
お母さんと二人で暮らしていて、綺麗でいつも優しくて私も仲良くさせて貰っている。昔はテレビに出ている女優さんだったそうだ。
駅前のスーパーに夕食の買い物に来ただけだというのに、綺麗に化粧をしている。うちのお母さんとは大違いだ。
「香澄さん、『未来ノート』って知ってますか?」 香澄さんもそのまま帰るというので、荷物持ちをしながら駅からマンションまで十分弱の距離を並んで歩き出した。 そういえばと、気になっている『未来ノート』の事について聞いてみる事にしたのだ。 賢治だけに情報収集させるのも何か癪に触るし。
「未来…ノート……?アヤネちゃんそれがどうかしたの?」
「いやぁなんかクラスで噂になっててさぁ」
「……私がアヤネちゃんくらいの時にも随分噂になったわ。テレビなんかにも沢山取り上げられていたし」
なんだか香澄さんの答えは歯切れが悪い。そういえばタレントが沢山叩かれてたから香澄さんも嫌な思いをした事があるのだろうか。

このまま歩くのも気まずいので、私は他の話題を幾つか出すが、香澄さんはその後何処か上の空だった。
「アヤネちゃん」
「はい?」
「未来ノート…何かあったら教えてね」
私が預かっていた分の荷物を受け取り、持ってくれてありがとう、じゃあ・・・と部屋の扉を閉める香澄さんに私は思わずドアノブを掴んだ。
「実は…鍵、探しているんです」
何でそんな事言っちゃっているんだろうと思ったが、既に後には引けない。扉の中を見ると、大きな目を更に大きくさせた香澄さんがいた。

未来 3

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