映画「主戦場」を中立的立場から見てきた件


こんにちは名もなき投資家です。

先日、話題の映画「主戦場」を見てまいりました。

「主戦場」は慰安婦問題を取り上げたドキュメンタリー映画です。監督は、日系アメリカ人ミキ・デザキ氏。アメリカ・フロリダ州生まれの日系アメリカ人2世。2013年ころからYouTubeに動画をUPしていたそうで、この作品は2015年ころからリサーチを始め映画作成をしていったそうです。

当初、インタビューに応じた慰安婦否定派(存在しない派)の方々が「騙された!これは見てはいけない!」と騒いでいたことから「それならば見てみよう」という人が続出し、話題になり注目を集めています。


出演者は慰安婦問題否定派・肯定派どちら側からも出ています。メディアによく出て有名なのは否定派の方々かもしれません。

出演者

トニー・マラーノ(テキサス親父)、藤木俊一(テキサス親父のマネージャー)、山本優美子(なでしこアクション)、杉田水脈(国会議員)、藤岡信勝(新しい教科書をつくる会)、ケント・ギルバート(タレント)、櫻井よしこ(ジャーナリスト)、吉見義明(歴史学者)、戸塚悦朗(弁護士)、ユン・ミヒャン(韓国挺身隊問題対策協議会)、イン・ミョンオク(元慰安婦の娘)、パク・ユハ(日本文学者)、フランク・クィンテロ(元グレンデール市長)、林博史(歴史学者)、渡辺美奈(女たちの戦争と平和資料館)、エリック・マー(元サンフランシスコ市議)、中野晃一(政治学者)、イ・ナヨン(社会学者)、フィリス・キム(カリフォルニア州コリアン米国人会議)、キム・チャンロク(法学者)、阿部浩己(国際法学者)、俵義文(子どもと教科書全国ネット21)、植村隆(元朝日新聞記者)、中原道子(戦争と女性への暴力リサーチアクションセンター)、小林節(憲法学者)、松本栄好(元日本軍兵士)、加瀬英明(日本会議)


私は右でも左でもなく、常に「事実(ファクト)」だけを見ていくタイプなので、今回の「主戦場」を中立的立場から見てまいりました。

そもそも私は、慰安婦問題があったのかなかったのか、性奴隷だったのかそうではないのか、軍の関与があったのかなかったのか、20万人なのかそれ以下なのか、正直わかりません。こうだったと断言することはできません。戦争を体験している世代ではないので、自分の目で確かめてきたわけではないからです。あくまで様々な立場を見聞きし、「体験者の発言」や「資料」や「データ」を元にしか判断できないからです。直接体験をした人以外が、特定の資料を元に「歴史を断言」していたとしたらそれはかなり危険なことではないかと常々思っています。


登場人物は、慰安婦問題否定派・肯定派ともにバランスよく出ている(代表的な人たちという意味で)と思います。監督がどちらかに肩入れすることなく、それぞれの主張を取り上げられていました。

ここで言う否定派・肯定派は、慰安婦問題そのものを否定する立場(否定派)か、慰安婦問題そのものはあったという立場(肯定派)ということです。

慰安婦問題否定派は、慰安婦は性奴隷ではなく自発的な売春婦で、お金をもらっていて、軍の関与はなく、強制連行はなかったという立場です。慰安婦像に否定的です

慰安婦問題肯定派は、慰安婦は性奴隷にされ、お金がある無しは関係がなく、軍の関与はあり、強制連行だったという立場です。慰安婦像に肯定的です

  慰安婦問題否定派 ↔ 慰安婦問題肯定派

慰安婦
   売春婦 ↔ 性奴隷
関与 なかった ↔ あった
国の関与: なかった ↔ あった
強制性:   自主的 ↔ 強制連行
慰安婦像:  否定的
 ↔ 肯定的


このドキュメンタリーは主に4つの論点+αから話が進められます。そして最後に、日本会議神社本庁という組織や、靖国神社国家神道も触れられています

4つの論点

1:「20万人」という数字について
2:「強制連行」だったのか否か
3:「性奴隷」だったのか否か
4:「歴史教育」について変遷
+α:日本会議、神社本庁、靖国神社、国家神道



1:「20万人」という数字について


20万人という数字については慰安婦問題否定派・肯定派が激しく対立しています。

否定派は、当時の日本兵は150万人しかいないので、(左派の言うように)1日20人も30人も相手にして、日本兵が1日6回も性行為を行わなければ20万人などありえないという主張をしていました。

肯定派は、当時の日本の陸海軍の軍人数が最大で350万人なので、300万人日本軍に対し慰安所を設置する基準が、日本兵100人に1人の割合のように基準が決まっていて、そうすると3万人はいただろう。それを長い戦争の中で交代率を1にするのか2にするのかで最低でも5万人はいただろう、また資料には日本兵3人に対して1人というものもあるので、20万人はいただろうというような主張をしていました。


いずれの立場にしても、はっきりとしたデータや資料は存在しておらず、否定派も肯定派も憶測と、政治的意図から自分たちに都合のいいような数字を使っているようでした。

ただ、アメリカ国内での報道では「20万人」という言葉が独り歩きしていて、その点は根拠となるデータや資料がないのに一方的であり、かなり危険だなという印象を抱きました。



2:強制連行だったのか否か


否定派は、強制とは縄で縛って連れて行くようなものを言い、そのような連行は官憲は行っていない、あくまで被害者は騙されてついていったのであり、朝鮮半島にいる商社なりリクルーターなりがいて、その人達が騙したことはあった。逆に、日本軍や日本政府はそのようなものを取り締まっていた、ちゃんとそういう資料も中央大学の先生が持ってきた、という主張でした。

ちなみに、根拠とされた資料を提示したという中央大学教授は「その解釈は完全に誤っている」と全否定していました。杉田水脈氏は新聞記事にも政府は悪徳業者を取り締まっている物があると主張していましたが、その新聞記事は慰安婦問題とは全然関係のないものでした。


肯定派は、当時の朝鮮半島の家父長制度や女性差別は実際にあり、そういうものをうまく利用した日本軍や日本政府が、リクルーターなどを使い慰安婦制度を作った。女性は、自由意志ではなく(騙された場合も本当の自分の意思で行動したのではないので)強制連行に当たるという主張でした。


オランダ政府の報告書では、1943年から約1年間の間にインドネシアや東南アジアで、日本軍による強制力を使った白人女性に対する事件があり、それは慰安婦問題否定派・肯定派ともに存在を認めていました。否定派であっても白人女性に対する問題は認めているのだということを初めて知りました。白人女性にはそういう事もあったが、アジア人の女性にはそういうことは一切なかったと言えるのだろうか、という疑問が残りました。



3:「性奴隷」だったのか否か


否定派は、性奴隷ではなく、多額のお金をもらって仕事としてやっていた売春婦であるという立場だった。奴隷が家を5件くらい買えるくらい貯蓄があったそんな奴隷もいた、それって奴隷ですか?。奴隷とは鎖につないで地下に閉じ込めておくような場合を言う。という主張でした。

ちなみに、この当時占領下にある国では激しいインフレ(ビルマでは日本の1800倍)が起こっており、とても家を5件も買えるような状況ではなく、チップという意味合いであったことがわかっているようです。

肯定派は、奴隷というのは何も鎖に繋がれた事を言うのではなく、自由意志を抑圧されて、騙されて連れて行かれた場合も奴隷に当たり、奴隷制とは人をモノ扱いすることである、当時の慰安婦はそのような扱いを受けた。お金をもらったかどうかは奴隷制とは関係がない、という主張でした。


否定派も肯定派も、「奴隷」という定義の違いでかなり認識が違うのだなという印象でした。鎖に繋がれていなくても、相手の自由を抑圧し、意に反する苦役をさせていたということからすれば、強制性は否定出来ないのではないかという思いがします。



4:「歴史教育」について変遷


大まかなあらすじを書きますと

1993年河野談話(慰安婦問題を認め、謝罪した)から、徐々に学校の教科書の中に「慰安婦」という言葉が多く使われるようになり、それに危機感を持った右派の団体によって歴史修正主義の反動が始まりました。

1996年終わり頃から「新しい教科書を作る会」ができ、自民党を中心とした議員(安倍氏が事務局長)によって「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」が結成されます。

そして、第一次安倍内閣で2006年に「教育基本法改正」が行われ、そこから教科書内容を審査しないでも不合格にできる規則ができ、出版社は(経営という観点から)文科省が不合格にしない内容へと自主規制で変えていき「慰安婦」という言葉が使われなくなり、2012年にはその文言は完全に削除されました。

その後2014年に朝日新聞が吉田証言を撤回し、慰安婦問題を1991年に最初に報じた植村氏は激しい誹謗中傷を受けて家族にまで犯罪予告をされる事態になったそうです。

そして映画の中には出てきませんが、2012年末以降、日本国内では道徳教科書の変化、歴史教育のみならず、メディア報道では「日本礼賛番組」が流行っています。これもある種の教育ではないかと思わざるをえません(刷り込みの意味)。

こうやってじわりじわりと人々の意識の中を改革していった様子が描かれていました。



+α:日本会議、神社本庁、靖国神社、国家神道


そして最後に、日本会議や神社本庁との関係性がでてきます。ただ慰安婦問題だけで終わらせず、慰安婦問題(を否定する人々)の根底にあるのはどういった思想なのか、その思想の源泉はどこにあるのかを示していたという意味では、コンパクトにまとまっていたと思います。日本会議や神社本庁を全く知らない人にとっても新しい視点を与えるのではないかと思いました。

つまり、明治憲法(大日本帝国憲法)時代、主権は天皇にあり、日本は「天皇を中心とした神の国」でした。それが敗戦によって日本国憲法に変わり、宗教が国家権力に関与することができなくなった。それが徐々に勢力を盛り返し、歴史を修正し始め、現在は宗教が直接国家権力を動かし、憲法を変え、再び大日本帝国憲法の時代に戻そうという動きが起きている。

映画では、日本会議にとっては「憲法改正」「教育」「軍事」は三位一体ですべて同じ課題であるということが示されていました。すなわち、慰安婦問題は教育に関わることで彼らにとってはなんとしても否定しなければいけない問題なのです。


一番驚いたのは、様々な右派とのつながりがある中心人物(オノ・ヨーコさんともつながりがあるらしい)として描かれていた日本会議代表委員加瀬英明氏の発言でした

加瀬英明氏「私は人の書いたものを読まないもんで。ナマケモノなもんで」

彼は慰安婦問題について肯定派の書物も、否定派の書物も一切読まないらしく、他人の考えを学習しないのだそうです。にもかかわらず、慰安婦などなかったと断言していたのが驚きでした。他人の意見を一切学ばないのになぜそれが「なかった」と言えるのか・・・論理的には説明できません。

あくまで彼自身の思い込みで行動しているのだなという印象でした。もう少し日本会議の中にも適切な人物がいたのではないかと思わざるをえません。

しかも「アメリカは人種平等の国ではなかった。1945年までは黒人に対する差別があって、キング牧師が公民権運動を始めてから一応開放された。これは日本が戦争に勝ったからなったこと。その恨みで日本の慰安婦問題を追求している人が多い」などという発言もしており、歴史認識さえ怪しいのではないかと絶句してしまいました・・・靖国史観的には戦争には負けたことにはなってないのかもしれませんが

また、「中華人民共和国がいずれ行き詰まって崩壊する時が来る。かつてソ連が崩壊したように。そうなると韓国は日本を頼らなければならなくなるから世界で一番紳士的な国になる。育ちの悪い子供が騒いでいるようでカワイイ。可愛らしい国と思って僕は好き」などとも言っていました

ちなみに、加瀬英明氏といえば、「低線量の放射線はかえって体にいい。広島の原爆の放射線で農産物を食べ、魚介類を食べ、皆さん健康。原爆の熱線は怖いが、その後の放射線はかえって体にいい」とか言っていた方です・・・

うーん・・・


■慰安婦問題否定派の発言


◉杉田水脈議員

杉田水脈議員の発言。「中国や韓国は、技術で日本に勝てない。だから慰安婦問題などあらゆる手を使って日本を貶め、日本の製品不買運動を高めて自分たちの製品を売ろうとしている」と言うようなことと言っていました。

驚きました。中国が今は世界第二位の経済大国になり、技術的にはアメリカに追いつけ追い越せでどんどん最先端技術を開発し「5G」に至ってはアメリカより先行している状況です。

杉田議員の思考は20年ほど前の、大量の人民が大通りを自転車で移動している光景が焼き付いているのでしょう。現実問題、中国の技術力は今すごいことになっています。はっきり申し上げて特許数でも研究費ランキングでも中国は日本を超えてきています。

杉田議員の発言は現状認識(ファクト)とはかなりズレてると言った印象でした。

※画像は、アベマTVと日経より


藤木俊一氏「フェミニズムを始めたのはブサイクな人たちなんです。要するに誰にも相手にされないような人たち。心も見た目も汚い。こういう人たちなのです。」

え・・・(ー ー;)


藤岡信勝(新しい教科書をつくる会)「国家は謝罪してはいけない。国家が謝罪しないのは基本命題。是非覚えておいてください。国家は仮にそれが事実であったとしても、謝罪したらその時点で終わり。」

この発言の後に、レーガン大統領が戦前の日系人強制収用を謝罪するシーンが流れてました・・・

ただ、これは簡単に比較できるものなのかは疑問です。アメリカは日系人強制収用は謝罪しましたが、日本における無差別爆撃や原爆投下などは謝罪をしていません。あくまでアメリカ国内政治問題として無視できない日系人(日系のアメリカ人)に対する謝罪だったということです。





■慰安婦像


慰安婦問題肯定派(あったという派)はアメリカ国内にいくつもの慰安婦像を設置しています。私はこれが疑問でした。慰安婦問題はアジアの大陸の中で起こった出来事なのに、なぜアメリカの中に慰安婦像を多数設置するのかと。それについてミキ・デザキ氏はこのように答えていました。

「なぜ慰安婦と関係がないアメリカに少女像を建てるのか、私も最初は不思議だった。でも左翼系の活動家は日本でこの問題が忘れられているだけに、全世界に少女像を置きたいのだと分かった。一方の右翼系は、アメリカ人の歴史認識を変えられれば世界中に影響が及ぶと考えたのではないか」

※Newsweek「言論バトル『主戦場』を生んだミキ・デザキ監督の問題意識」より

左派系も右派系もそれぞれが慰安婦問題を政治利用しているなと感じざるをえないような点も有りました。主戦場はアメリカということなのかもしれません。




■その他気になった点がいくつか


◉日本会議の重鎮としてもうちょっといい人がいたのではないか
◉慰安婦のおばあさんたちのインタビュー映像が殆ど出てこないのはなぜか
◉新しい教科書をつくる会にも参加していた、自分がネトウヨを作ってしまったと言っている小林よしのり氏にもインタビューしても良かったのではないか
◉日本会議系の国会議員にもインタビューしても良かったのではないか
◉慰安婦問題肯定派(あった派)の国会議員にインタビューしても良かったのではないか
◉慰安婦問題否定派がときに薄ら笑いを浮かべてるのはなぜなのかが気になった



■終わりに


一般的に、左派も右派もそれぞれが自分たちは正しいと思いこんでいるので、そもそもお互いに議論をしようとか、お互いの意見を聞いてみようという態度になりません。

戦争を直接体験した世代でないにもかかわらず、歴史的事実と「断定」をし、自分たちの考えは間違っていないという思考に陥り、お互いがお互いを否定し、歩み寄ってお互いを理解しようとはしません。

しかもそれが国同士に波及すると、「相手の国民はこういう考えに違いない」と思い込み、反日、反韓、反中などといって、民族的な対立問題に発展し、そこに「紛争」が発生するのだと思います。

まず断定的な自己主張をする前に、違う意見の相手の主張を聞いてみるという態度は極めて大事ではないかと思う今日このごろです。


世の中には様々な問題が混在していて、近年は「慰安婦問題」は世の中から忘れさられていたと思います。この作品を通して、否定派・肯定派の意見をあぶり出し、その問題を改めて世に問うてくれた日系アメリカ人のミキ・デザキ氏に感謝します。




■追記(2019年5月30日)


新しいニュースが出ました。保守派の方々が、騙されたと抗議の声を上げたそうです。

「だまされた」と保守派が抗議 慰安婦映画「主戦場」
https://this.kiji.is/506755779450520673



それに対してデザキ監督がコメントを発表しました。

当時大学院生で映画が卒業プロジェクトだと説明したのは事実だが、もし完成した映画のできが良ければ映画祭への出品や一般公開も考えていると言っていたそうです。契約書もとっており、しかもそのことを伝えるメールも残っており、しかも映画公開に先立ち送ったメールに対して肯定的な内容の返信が返ってきたそうです。




■関連記事



・2019/06/03 慰安婦問題の映画「主戦場」の監督、出演者らの抗議に「手続きに問題はない」
https://hochi.news/articles/20190603-OHT1T50106.html

・2019/06/03 話題の映画「主戦場」 出演した保守論客が騒ぐほどヒットする“自業自得”
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/255278

・2019/06/03 慰安婦テーマの映画「主戦場」が場外乱闘に…櫻井よしこ氏らの抗議に監督が猛反論
https://www.bengo4.com/c_23/n_9715/

・2019/05/31 慰安婦問題に迫るドキュメンタリー 映画「主戦場」めぐりバトル
https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201905/CK2019053102000136.html

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