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ラブレターのような


彼の胸に鼻を押しつけて思い切り息を吸うと汗と柔軟剤の香りが混ざり合った甘く心地良い、人間らしい匂いがした。


それは私の鼻の奥から脳に通り、チョコレートを食べたような、脳が溶けていくような感覚がして、媚薬とはこのことかと気付いた。


“このままどこか2人で逃げてしまおうか。”

外では雨がしとしと降っていた。


“誰にも見つからない場所で、いつまでも2人で。”

雨はまだまだ止みそうにない。

冬が来て、春になり、夏が来ないままきっと秋になる。
そしてまた冬になって、少し大きめのコートを羽織りたっぷりと余るマフラーをぐるぐると首に巻きつけ、白い吐息をはく。
そして2人は寒いねと言いながらひんやりとした布団に包まれて抱きしめ合う。


すやすや眠る夢の中で、2人でどこか遠い場所へ行こう。2人ならどこにだって行ける。


#エッセイ #ラブレター #冬
#小説