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「何の平等」が平等フィットに大事なのか(Futurist note第6回)


イントロダクション

こんにちは、VARIETASのFuturistのRentaです! VARIETASは、構造的な問題によ って発生するひとりひとりを取り巻く摩擦(=フリクション)がゼロな社会(=Friction0)を実現することを目指すスタートアップ企業です。Futuristとは、目指すべき未来像を示す未来学者です。

初回のnoteで告知した通り、Futuristは「実現したい未来像」として「自由」を掲げています。そして、自由が実現される社会制度として「平等フィット」がどんなものなのか、このnoteで考察していきます。
ちなみに、平等フィットとは個性学の権威であるトッド・ローズ教授が提唱したものです。具体的には、

「平等なフィット」のもとでは、誰もがその個性に応じた最高の機会を受け取ることができる。(太字は原文ママ)1)

とされています。しかし、平等フィットは現代社会では実装されていません。そのためにFutrist noteで考察していきます。
具体的には以下のスケジュールで進めています。

  • 2023年10月 人間の本質は自然法則からの自由であり、それは社会の構成によって為される

  • 11月 自由な人間はどのように社会を構成するか

  • 12月人間の本質は自由であるにも関わらず、社会的抑圧が確認されている。それはどんなものか

  • 2024年1月 人間の本質は自由であるのに、社会的抑圧が起きてしまうのはなぜか

  • 2月 「何の平等」が平等フィットに大事なのか

  • 3月 就活への提言1

  • 4月 就活への提言2

  • 5月 Futuristの視点でダークホースを読み直す

Futuristとは何者なのか、どうしてこのようなスケジュールで連載するのかは、初回のnoteで詳しく書いておりますので、こちらもぜひお読みください!

前回のnoteで個人を縛る社会的束縛の原因が明らかになりました。今回は、それを解決するための原理である平等フィットについて考察します。

導きとなる問いは「何の平等」が平等フィットにおいて大事なのか?です。
前回のnoteで指摘された問題点の個別の解決策を考察し、それらを統合して上記の問いに答えるのが今回のnoteの目的です。

社会的束縛のおさらい

前回のnoteで、個々人の個性を実現を縛る要因を以下の図にまとめました。


これらの問題点を整理すると以下のようになります。

  • 自分が取りたい選択が分からない:脳の構造

  • 自分が取りたい選択を取れない:集団とのフィット、コミュニケーション、規範

  • 選択を取れたとしても、機会を得られるか分からない:競争と機会均等

ここから、それぞれの問題点について解決策を考えていきます。

自分が取りたい選択が分からないへの解決策

東洋経済の記事によると、「自分が取りたい選択が分からない」という時以下の状況が考えられます。2)

  • 自分に正直になれていない

  • やりたいことは分かっているが、情報が足りていなくてどうしたらいいかわからない

  • やりたいことを溜め込んでしまって優先順位をつけられていない

1つ目の「自分に正直になれていない」という状況は、どちらかというと何らかの理由で心理的障害が生じていると考えられます。ということは、「自分が取りたい選択を取れない」と表現したほうが近そうです。
よって、「自分に正直になれていない」に関しては「自分が取りたい選択肢を取れない」の問題系に含めて次章にて考察します。
よって、本章では残りの2つの状況の解決策を考えます。

選択のパラドックスという問題

  • やりたいことは分かっているが、情報が足りていなくてどうしたらいいかわからない

  • やりたいことを溜め込んでしまって優先順位をつけられていない

これら2つは情報の処理という点で共通しています。
片や情報過小で片や情報過多なのです。とはいえ、現代社会においては情報自体は容易に増やすことが出来ます。
問題は、情報を増やしたとしても、そして心理的な障害がなかったとしても選択をできない状態になることがあるということです。
例えば、お金持ちになりたい!という選択をしたとして、その方法はいくつも考えられます。

よって、抽象的に選択するだけでは選択肢が多すぎてどうすれば良いのかわからない、ということが起きていると考えられます。
これは選択のパラドックスという状態です。
選択のパラドックスとは、選択肢が多すぎるとかえって選択することが困難になる、という状態を示しています。3)

選択のパラドックスの提唱者であるシュワルツによると、選択のパラドックスによってもたらされるのは選択の困難さだけではありません。
困難を乗り越えて選択できたとしても、残りの選択肢が気になって却って満足度が下がってしまう、ということが起こります。というのも、選択肢が増えるほど、そこから選んだものの価値は高いに違いない、と期待してしまうからです。
シュワルツの以下のエピソードは非常に象徴的です。

私の気分が最悪だった理由は これだけ多くの選択肢が 与えられていることで 私にとっての良いジーパンの 期待値が上がったからです。もともと 選択肢が一つしかなかった時は 全く期待などしていなかったのです。それが100に増えてしまったとたんに、 どれかひとつ完璧であるべきだと4)

選択のパラドックスの解消方法は、直接的には選択肢を減らすということです。

もちろん、事前に自分の性格や好みを入力しアルゴリズムによって選択をレコメンドしてもらうという方向性はあり得ます。
しかし、それはそれでレコメンドの中でどれを選べばいいのか、という問いに突き当たります。そこで、提案したいのがミメーシスとスモールワールドです。

ミメーシスによって選択の方向付けをする

ミメーシスについては、社会学者である宮台真司と大澤真幸の共著の応用を試みている論文を参考に説明します。
改めて、ミメーシスとは「感染的模倣」と訳され、「意識的な理解に先立って、さながら「感染」するかのように、「スゴイ人」の行為や仕草を模倣してしまうこと」を指しています。そして、ここでの「スゴイ人」とは利他的な人を指しています。5)

ミメーシスはどのようにして発生するのか。大澤真幸は、心の深いところにある自分の理想像と他者の視点という二つのものを使って説明します。
他の人に影響されるとき、私はその人が自分にとって尊敬できる人だと思います。素朴には、それによってミメーシスが起こると考えられます。「あの人のようになりたい」と思うし、実際に考え方や行動を幾分か真似るということが実際に起こりますよね。6)

それでは、尊敬できる人がどんな人なのか。それは利他的な人である、というのが宮台・大澤の考えです。利他的と言うと宗教指導者やプロボノというイメージがついてしまいますが、利他とは他人に貢献するということです。
周囲の人々や、ひいては社会に貢献する人だと言い換えればどうでしょうか?

ただ利他と言うと相手のために何でもやるという印象を与えますが、貢献するということならば各々のやり方で相手のために行動する、という風になります。
つまり、利他的な人とは各々のやり方で周囲の人間に貢献している人ということであり、その人に出会うことで感染的模倣が発生し、「あの人のようになりたい」と思うことで選択肢を絞ることが出来ます。

スモールワールドによって尊敬できる人物に出会う

ここまでを描くと、本当にそのような尊敬できる人に全員が会えるわけではないのではないか?という疑問が湧いてきます。
しかし、その一方で「世間は狭い」という言葉に代表されるように、遠いところにいると感じられた人物が、実は自分と意外な繋がりを持っているということがあり得るのです。それを示すのがスモールワールドという概念であり、スモールワールドを通して出会った人物にミメーシスすることで、選択肢を絞り込んでいくことが出来ます。

さて、改めてスモールワールドとは1969年のスタンレー・ミルグラムの実験によって明らかにされた、「世界中の人は平均6人の知り合いを介して高度に相互連結している現象」を指します。7)
スモールワールドがどのようにして発生するか、以下の画像を参照しつつ見ていきます。


この画像は円に等間隔に頂点を置き、それぞれの頂点を線で結んだものです。この線は枝と呼ばれます。

左の円は、規則的(regular)なネットワークを示しており、各頂点は2つ隣の頂点とそれぞれ枝で繋がっています。2つ隣の頂点と繋がる、というパターンがすべての点に対して規則的に展開されているというのが、規則的なネットワークです。

画像中のpは、枝によって接続される頂点が変更される確率(probability)を示しています。規則的なネットワークにおいて、接続される頂点が変更されることはないのでp=0です。

p=1の時(枝が繋ぎ変わる確率が1の時)はランダムなネットワークと呼ばれます。これが画像の右の円です。

規則的なネットワークの特徴はクラスター性です。クラスター性とは、グループの全員が知り合いという状態を指します。規則的なネットワークの具体例は、古き共同体で、ここでは全員が知り合いと言えます。その代わり、離れた共同体や都市の人々との繋がりはほとんどありません。もっと現代的な例で言えば、仲良しグループや派閥が規則的なネットワークに当てはまります。

ランダムなネットワークの特徴は各頂点の平均距離の短さです。というのも、各頂点のつなぎ替えが100%の確率で起こります。具体例でいうと、有名人もたくさん歩いている混雑したスクランブル交差点というようなものです。

スモールワールドなネットワークは規則的なネットワークとランダムなネットワークの中間にあるので、規則的なネットワークに見られるような高いクラスター性と、ランダムネットワークに見られるような短い平均距離という2つの特徴を併せ持っています。

スモールワールドなネットワークの紹介は、「どうしたら尊敬できる人に出会えるのか?」という疑問の解消するために始めたものです。
ということは、ここで重視すべきは各頂点を結ぶ枝の平均距離の短さです。
そうであるならば、スモールワールドなネットワークではなくてランダムなネットワークで良いような気がします。何が問題なのでしょうか?
1つには、人間はそもそもランダムなネットワークの中では生活しないということがあります。私たちは家族や友人・隣人などいつものメンバーの中で生活しているからです。

2つ目に、個性を実現するためには信頼できる人物からの信頼が必要だからです。他者からの信頼は自己効力感に繋がります。
よって、自分に力を与えてくれる他者と共にいることが必要です。だから、ランダムなネットワークで個性を実現する、というのは難しいのです。
スモールワールドなネットワークの具体例は、通常はいつものメンバーで交流しているけれども何かの拍子でいつものグループと違うところで交流する人達が複数人いる、というような状態を指します。
その人たちがグループ間の伝達役をこなすので、尊敬できる人物と繋がれる確率が上がっていくのです。

まとめると、

  • やりたいことは分かっているが、情報が足りていなくてどうしたらいいかわからない

  • やりたいことを溜め込んでしまって優先順位をつけられていない

という問題は、最終的にはたくさんある選択肢の中から選ぶことに対するコストの高さと期待値の上昇から来ると考えられます。
これは選択のパラドックス的な状況で、選択肢を絞り込むことで解消します。 とはいえ、合理的・理性的に選択肢を絞り込むことに困難を感じてしまうのが選択のパラドックスの特徴なので、感情に訴える方策が必要です。
そこで必要とされるのが、個性を活かして他人に貢献している人との出会いです。これによってミメーシスが起こり、「この人のようになりたい」という理想像を抱くことが出来ます。

自分が取りたい選択を取れないへの解決策

次に、「自分が取りたい選択肢を取れない」という問題を考えます。言い換えると、「自分に正直になれていない」ということです。
それでは、自分の気持ちに正直に、困難かもしれない選択肢を取れる人達というのはどんな状態なのでしょうか?
このような問題に対してリクルートワークス研究所は「自己信頼」という概念を提唱しています。

自己信頼によって挑戦心を養う

まずは以下の引用をご覧ください。

自己信頼とは、「現在の自己、将来の自己に対して、信頼と希望をもっている」ことである。(中略)この定義を言い換えると、「現在もなんとかやっているし、将来も何が起こるかわからないけれど、自分としてはやっていけると思う」という状態であり、「たぶん私は未来にわたって大丈夫だ」という感覚である。8)

つまり、自己信頼とは「自分は何とかなる」という信頼のことです。確かに、これがあれば目の前の挑戦も楽観的に選択できるような気がします。
自己信頼は、良好な人間関係・自分への信頼・未来への希望から構成され、これらは互いに相関関係にあります。9)


良好な人間関係と未来への希望という言葉が示していることについてもう少し詳しく見てみましょう。同研究書では、良好な人間関係とは同僚・友人・上司・恋人などの自分の周囲にいる人達が自分のことを信頼してくれているということを、良好な人間関係であると考察されています。
なぜ周囲の人たちから自分への信頼が大事かと言うと、自分にはどんなリソース(資源)があって他人に貢献できているかということを考え直すきっかけになるからです。

私たちは、自己分析によって自分の強みについて発見することは出来ます。しかし、この強みはある意味で仮説にすぎません。なぜならば、自分が社会に貢献できているということは、実際に他者の心を動かすことが出来ているかどうかだからです。当然、その判断は他人に委ねられることになります。だから、周囲からの信頼は自分が貢献できている証拠になります。

次に、リクルートワークスの調査において、未来への希望を持っている人は「新しいことに挑戦してみたい」「これから新しい経験をしていくのが楽しみだ」「いろいろな人と出会ってみたい」というふうにコメントし、エネルギッシュな新しいことに開かれた状態だったそうです。

これらのコメントから分かるように、ここでいう未来とは安心傾向ではなく挑戦傾向だとされています。つまり、将来安泰だから希望があるということではなく、挑戦をした先に何か良いことが待っているという風なワクワクのことです。また、その挑戦の過程の中で困難が待ち受けていることも予期していたそうです。

「選択肢は分かっているのに選択ができない」という場合は、自分への信頼が損なわれている可能性が高いので、まずは良好な人間関係を築くことが先決だと思われます。
というのも、挑戦を行うような前向きな姿勢は「選択肢は分かっているのに選択ができない」という状態と矛盾するからです。まずは、誰かのちょっとした悩みや苦しみを取り除くところから信頼関係を築き、自覚したリソースをもとにした将来への希望を抱いたり自分への信頼を高めたりするルートが最適だと思われます。

まとめると、「選択肢はわかっているが選択できない」という場合は、心理的なエンパワメントが必要になります。
挑戦した後結果がどうなるかは究極的にはわかりません。だから、「とにかくやってみる」という一歩が必要なのですが、それを担保するのが自己信頼です。

自己信頼は、周囲との良好関係や未来への希望と関連しています。また、自己信頼を醸成することが出来れば、困難への挑戦心の条件の1つである物事を前向きに捉える姿勢に繋がる可能性があります。
というのも、自己信頼のベースに1つに未来への希望があり、これは自分が物事を上向きにしていくという前向きな姿勢に繋がるからです。

選択できたとしても、機会を得られるかわからないへの解決策

「選択できたとしても、機会を得られるかわからない」というものに関しては、前回のnoteの以下の文章が象徴的です。

みんなが競争を望んでいる一方で、自分は競争を望んでいないが、勝たなければ生き残れないと感じます。そして、「競争をやめよう」と提案している人々さえも、自分を出し抜こうとしているように見えます。これにより、誰もが問題だと感じている社会規範が破られずに存続する状況が生まれます。10)

この状況は囚人のジレンマの状況に近いと考えられます。
囚人のジレンマとは、「完全な利害が対立するつまり他者であるプレイヤーがお互い合理的に行動すると、論理的帰結は協力ではなく非協力である」という議論です。11)

リソースが無限の競争を作り囚人のジレンマを解消する

囚人のジレンマの解消法はいくつか提示されています。例えば、以下のようなものです。

  1. 競争が長期にわたって続くという条件を作り出す12)

  2. 囚人のジレンマの双方のイメージの食い違いを是正する(双方の協力が大事だと訴えかける)13)

  3. 競争の構造を変える14)

1つ目の「競争が長期にわたって続くという条件を作り出す」という方策は、機会均等にはあまり効果がないように思えます。というのも、私立学校ならば小学校から競争は始まりますし、公立でも高校からは競争が始まるからです。

次に、2つ目の双方の協力を訴えかけるについてですが、機会均等が提供する機会が他人によって創出されたものとはいえ、与えられた選択肢の中から自分にとってより良い選択を個々人はしているはずなので、それを追求することを辞めなさいと言うことは出来ません。

となると、可能なのは競争の構造を変えてしまうことです。
まず、競争において争われているのは希少なものだということです。確かに、私たちは身の回りに溢れる空気の所有権をめぐって争いはしません。
ということは、みんなが欲しがるものを希少ではないようにすれば競争の構造が変わることになります。それには2つの段階を踏みます。

1段階目は、競争を多様化させるということです。
これは平等フィットの必要条件だと言えます。なぜならば、多様な競争を用意することで、個々人は自分がどの分野の競争に優れているのか、どの分野なら苦手でも長期間取り組めそうか、この分野は避けて誰かの力を借りた方が良いか、ということを考えることが出来るからです。
具体的にはリクルートワークス研究所は「キャリアの仮面」という概念を使って似たようなことに言及しています。

「キャリアの仮面」とは、多元的自己という、役割や価値観の異なる集団や他者との関係に合わせて自己を変化させることに葛藤を感じず、相互に矛盾なく自己が成立するという認識をベースにして、具体的なキャリア観に適用したものです。15)

以下の設問で、「キャリアの仮面スコア」が測定されています。16)

  1. 職場や家庭、趣味の場、コミュニティなど場面によって、どのような自分を見せるか使い分けたい

  2. 仕事でうまくいかないことがあるときに、気持ちを切り替えられる別の活動がある

  3. 本業以外の仕事は本業の成果に良い影響を与える

仕事の満足度と「キャリアの仮面」の相関を示した図が以下です。17)

横軸は「キャリアの仮面」のスコア、縦軸はそのスコアの中で「本業の状況に満足している」と回答した人の割合を示します。

ここから、ひとまずは自分が生活の場によって様々な側面を持っていることが回りまわって本業にも良い影響を与えていることがわかります。
さらに、「キャリアの仮面」スコアと「キャリアの不安」・「ライフ満足」スコアの関係を示したものが以下の図になります。18)


「キャリアの仮面」スコアはキャリアの不安を減じ、ライフ満足スコアに繋がるという分析結果が示されています。
つまり、

それは、無理に本業の自分を他の場面で貫きとおす必要がなくなっていることを意味している。社会での役割が多元化していくときに、本業では真面目なキャラクターであるからといって、家庭や趣味、別の活動の場で同じような真面目なキャラクターである必要はないのだろう。そして、様々な自分を見せられることが結果自分のキャリア不安を軽減し、人生を豊かにする。19)

ということです。
2段階目は、個人が競争によって得るものを他人から与えられる機会ではなく、個々人の中にあるビジョンに変更することです。

これまでの機会均等は学力や経歴などの大雑把な枠組みを用い、能力主義を適用して競争を行っていたと言えます。だから、機会は均一ですし均一のものをみんなで争うので希少性が生まれていました。

個々人のビジョンや成し遂げたいことは、その動機や誰のために成し遂げたいか、どんな場所で成し遂げたいのかということがそれぞれに異なりますので、そこを本当に厳密にすれば希少性は生まれません。これは平等フィットの十分条件だと言えます。

独立研究家である山口周は、これからは一般的に「資本主義社会で成功する優秀な人物」と考えられてきた人材(オールドタイプ)からニュータイプの時代に突入すると主張し、二つの人材を以下のように対置しています。20)

さらに言い換えれば、オールドタイプは「問題解決」に長けた人材でニュータイプは「問題発見」に長けた人材だと言えます。
山口周はビジネスの基本を「問題の発見×問題の解消=富」と定義し、

  • 昔:問題が過剰で解決力が希少

  • 現在:問題が希少で解決力が過剰

という状態だと指摘します。21)



これは私たちの感覚とも一致すると思います。
このトレンドから以下のような評価が導き出されます。

ビジネスが「問題の発見」と「問題の解決」という組み合わせで成り立っているのであれば、今後のビジネスではボトルネックとなる「問題」をいかにして発見し提起するのかがカギになります。 そして、この「問題を見出し、他者に提起する人」こそがニュータイプとして高く評価されることになるでしょう。 22)

それでは、ニュータイプはどのようにして問題を発見していくのか、それが述べられているのが以下の引用です。

私たちは「ありたい姿」のことをビジョンと表現しますが、つまり「問題が足りない」というのは「ビジョンが不足している」というのと同じことなのです。(中略) これを言い換えればつまり、ニュータイプとは、常に自分なりの「あるべき理想像」を思い描いている人のことだということになります。23)

ここに平等フィットを接続すると、個々人の思い描いている理想像というものがあり(これは個人像でもコミュニティ像でも社会像でも構いません)、そこと現状とのギャップが新たな問題になります。そしてそこに価値が生まれるのです。

そして、個人が抱く理想像は突き詰めれば本人の体験や周囲の状況に左右されるので、均一なものはなく希少性による競争は招きません(切磋琢磨はあると思います)。

まとめると、「希少なものを巡って争う」という競争の性質を変えることが「選択ができたとしても、機会が得られるかわからない」への解決策になります。
その第一段階としては、様々な領域に関わることで自身の多様な役割を模索する「キャリアの仮面」を身に付けることがあります。
そこから、自分だけのビジョンを掲げそこに向かって邁進するのが第二段階です。個々のビジョンは具体的な状況や経歴に関わりますので、希少性が発生しづらいはずです。

まとめ:「何の平等」が平等フィットに重要なのか

ここまで述べてきた解決策を繋げたものが以下の画像になります。


そもそも、前回のnoteまでに見た社会的束縛の要因はまとめれば以下の3つでした。

  • 自分が取りたい選択がわからない

  • 自分が取りたい選択肢を取れない

  • 選択できたとしても、機会を得られるかわからない

「自分の取りたい選択がわからない」に関しては、選択のパラドックスを使って説明しました。

解決策としてはミメーシスによる方向付けを挙げています。
ミメーシスとは、各々の方法で周囲に貢献している人に触発されることで「このようになりたい」と思うことを言います。これによってある程度の選択の方向付けが可能になります。

次に、「自分が取りたい選択肢を取れない」という状況に関しては、「これまで自分は何とかやってきた。だからこれからも大丈夫だ」という自己信頼が必要になります。
自己信頼は、将来への希望・良好な人間関係・自分への信頼に支えられています。

「自分の取りたい選択肢を取れない」と思っているということは、少なからず自分への信頼が薄い可能性がありますので、良好な人間関係を築き承認を得ることで挑戦心を養うという方策が考えられます。
また、信頼できる友人が現在いなくてもスモールワールドを実現すれば出会えるかもしれません。

「選択できたとしても、機会を得られるかわからない」というものに関しては、そもそも競争が希少なリソースを巡る争いだから、ということがあります。

ならば、個々人が欲望するものが希少ではなければよいということになります。それは個々人が持っているビジョンや理想の個人像・社会像だということを山口周の記事を援用しながら論じました。
これに加えて、「キャリアの仮面」という本業以外で自分が貢献できる場所を持つことで自分の役割を模索するというルートもあり得ます。「キャリアの仮面」での貢献によって周囲からの信頼を得て、自己信頼に繋がるかもしれません。

「何の平等」が平等フィットに重要なのかという問いに答える時が来ました。その答えは「各々のビジョンを実現するためのプロセスへの平等なアクセス権が大事」ということになります。

機会均等だけですと、競争に勝てる人だけが機会を得ていくことになりますが、スモールワールドを実現させれば自分の個性と合致した機会を持っている人と出会うことが出来るはずです。その人に出会って自己信頼を築いたりミメーシスを発生させたりすることが可能です。ひいては新たな自己ビジョンの確立につながるでしょう。

次回からは、上記の平等フィット像をもとに機会均等の象徴である就活制度への提言を行っていきます。最後までお読みいただきありがとうございました!

参考文献

  1. トッド・ローズ、オギー・オーガス. Dark Horse(ダークホース) 「好きなことだけで生きる人」が成功する時代. 三笠書房. 2021. p.284

  2. 堀江貴文 「やりたいことがない人」3つのパターン まずは自分に正直であれ、損得勘定は挟むな. 東洋経済オンライン.2022.https://toyokeizai.net/articles/-/503958

  3. rica. [おすすめTED解説]選択肢の多さがもたらすパラドックス. TED English Channel TEDで英語とライフハックを学ぶブログ. https://ted-english-channel.com/2020/08/the-paradox-of-choice/

  4. 同3

  5. 阿部学.(2011). ミメーシス概念がしめすキャリア教育の教育方法への示唆 ―大澤真幸・宮台真司『「正義」について論じます』をたよりに―p.27

  6. 同5

  7. md345797. 複雑ネットワークの理論(1) 「スモールワールド」ネットワークの集合的ダイナミクス. 一人抄読会.https://syodokukai.exblog.jp/20760933/

  8. 自己信頼 現在の自己、将来の自己に対して信頼と希望をもっていること.Recruit Works Report 2012

  9. 同13

  10. VARIETAS. 人間の本質が自由であるのに、社会的束縛が起きてしまうのは何故か(Futurist note第5回). note. https://note.com/varietas_iverse/n/nd0975c6d612b

  11. 桂木隆夫. 公共哲学とはなんだろう [増補版]: 民主主義と市場の新しい見方. 勁草書房.2016.p.118

  12. 桂木隆夫. 公共哲学とはなんだろう [増補版]: 民主主義と市場の新しい見方. 勁草書房.2016.p.140

  13. 桂木隆夫. 公共哲学とはなんだろう [増補版]: 民主主義と市場の新しい見方. 勁草書房.2016.p144

  14. 桂木隆夫. 公共哲学とはなんだろう [増補版]: 民主主義と市場の新しい見方. 勁草書房.2016.p147

  15. 古屋星斗.人生を豊かにする、キャリアの“仮面”という補助線.ワークス1万人調査から見るしごととくらしの論点.https://www.works-i.com/project/newcareer/issue/detail001.html

  16. 同15

  17. 同15

  18. 同15

  19. 同15

  20. 山口周.これからの時代、「問題解決に長けた人」はオールドタイプとして急速に価値を失っていく.新R25.2019.https://r25.jp/article/721640326239841648

  21. 同20

  22. 同20

  23. 同20

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