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手鏡にまつわる思い出

父は、様々な趣味を持っていた。
今は、歳のせいでほとんどやめてしまった。
テニスを相当長い間続けていたが、
暑いところでしたため、
熱中症になり、
やめてしまった。

社交ダンス。
カラオケ。
英会話。
水墨画。
料理。
何でもやっていた。
その中でも
私が結婚するぐらいのときに、
トールペイントをしていた。
幾つか作品があった。
その中に、いちごのトールペイントをしている鏡があった。
今も私の手元にある。
なぜ、これが私の手元にあるかというと、
結婚式の前に大げんかをしたからだ。

結婚する前に、
私は両親へ感謝の意味でプレゼントを用意していた。
母は、
「父からおもちゃみたいな指輪しかもらったことがない。」
と言っていたので、
宝石屋に行き、
本格的なダイヤモンドの指輪を
清水の舞台から飛び降りた勢いで買った。
父には、
いつも安物の鞄しか持ってなかったので、
セカンドバッグのいいものを買った。

それを結婚式の前の日ぐらいに
渡した。
すると、
父は突然怒りだし、
「こんなもんいらんわ。」
と言った。
どんな心境でこんなことを言ったのかわからないが、
私もぶち切れて、
「せっかくかったのに、いらんのやな。」
と言って、
結婚式当日も
口をきかなかった。
でも、結婚式のさなか、
「ごめん。」
と謝ってきた。
理由は何も言わなかった。
そして、
なんでか、
自分で作った鏡を渡してきた。

意味がわからないが、
たぶん、娘に急にプレゼントされて
照れくさかったのだろう。

その鞄がずっと使われないまま、
押し入れに入れられていた。

母に、
「使わんの?いつ使うん?」
と言われて、80歳になってから
ようやく使い始めた。

前に、押し入れから
そっと出して、
中身を見たことがある。
高級な鞄の中に、
なぜか使いかけの歯ブラシが直に入っていて、
あきれたし、
また怒りそうになった。

でも、仕方が無い。
こんな父だけど、
私の父である。

まだまだ長生きしてほしい。
いままで元気にいてくれてありがとうと言いたい。

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