見出し画像

【探偵小説】探偵里崎紘志朗 moonbow④


別に警察が嫌いな訳ではない。むしろ色んな所轄の刑事と一緒に捜査した事もある程で、警察との付き合い方は心得ている。しかし、今の状態で警察の手が入るのはあまりに大袈裟だと思ったし、もし単なる家出だった場合、警察の捜査が入ると決着がつくまでに時間がかかり、その上愛美の生活に思わぬハレーションが起きる場合がある。だから私一人で捜す。多分、これぐらいなら私一人の手に負える。
 

 神谷町にある私の部屋を出てから10分後には、私の車は霞が関から首都高に乗り入れていた。ナビの下に表示されている時刻は、5時30分を指している。渋谷線から東名に入り、西湘バイパスを目指す。
ダッシュボートにセットしてあるスマホをスピーカーフォンにして、珠美から聞いた顧問の小野寺先生へ電話をかけた。7コール目に小野寺は出た。
「朝早くにすいません。榊原愛美の実父で里崎と申します。」
「大丈夫です。さっき、愛美さんのお母さんから電話をもらいました。すいません、この度は…」
「いえ、で、その後そちらでは動きはあったのですか?」
「いや、まだ何も…お母さんから家には急用なんてなかったと聞いてから、私はすぐに警察に連絡しようと思ったのですが、その矢先に、再度お母さんから電話をもらいまして、里崎さんの事をお聞きした次第です。探偵だとか?」
「そう、探偵です。人捜し専門の。まだ警察には連絡してないという事ですね。」
「してません。」
「それは良かった。私が向かってますので、そちらでお待ち願えますか?」
「どれぐらいでお着きになりますか?」
「車で向かってます。もうすぐ用賀ですので、東名の混み具合にもよりますが、出来るだけ早く行くようにします。」
「分かりました。」
電話を切った後、私はすぐに東名に入った。私は追い越し車線をかっ飛んでいった。
 

 恐るべきことに、用賀から芦の湖まで1時間半で辿り着いた。芦ノ湖周回道路を走りながら時計を見ると、時刻は7時7分だった。東名では法定速度を気にしていなかった。幸い私のシルバーメタリックのSUVを追ってくる覆面パトカーに出くわさなかったし、回りの車は私の車が覆面だと思ったのかもしれない。すごいスピードで追い越し車線を走っていると、前を走る車がどんどん道を空けてくれた。それは西湘バイパスでも、箱根湯本から芦の湖までの狭い登坂道路でも、殆ど渋滞に合わずに走れた。奇跡だ。いや、単にまだ朝が早いだけだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?