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探偵里崎紘志朗 moonbow②


私は昔結婚していた事がある。15年前に離婚してしまったが。
私と妻珠美の間には愛美という娘がいる。今は17歳だ。彼女が2歳に珠美と別れた。しかし、別れた後も私たち夫婦は仲が良く、娘とも定期的に会ってる。電話連絡も当たり前に行っていて、それには何の違和感はない。しかし、今回は少し様子が違う。いつもながら私への連絡は全て珠美の電話から行われており、愛美から私に電話をかけてきた事はない。私は愛美の電話番号は知っているのだが、私から直接愛美に電話した事はないし、その逆もまたない。メールも同様だ。その愛美からいきなりメールがあった。しかも、「パパ来て」と言う。どこへ行けばいいと言うのか?何が何だかさっぱり分からない。取り敢えず愛美の携帯宛に電話をかけた。繋がらない。メッセージボイスで圏外か、電源を切っているとアナウンスが流れる。時間を置いて、3回かけた。同じ結果だった。今度は「どこへ行けばいい?」と返信してみた。暫く待ったが返信はない。既読もつかない。
私は珠美に電話をかけた。夜中にも関わらず、珠美はすぐに出た。彼女は救急病院の副院長だ。きっと慣れているのだろう。
「どうしたの?こんな夜中に電話してくるなんて珍しいじゃない。」
「緊急事態だからだよ。」
「緊急事態って、何があったの?」
「愛美は家にいないんだろう?どこに行ってるか知ってるか?」
「何故あなたがそんなこと知ってるの?愛美なら、部活の夏合宿で箱根にいるわ。」
「箱根?秋田の肘折ではないのか?」
「何でそんな遠いところに?吹奏楽部の合宿は、毎年箱根の学校のセミナーハウスって決まってる筈だわ。」
秋田の肘折ではない?では、ひじおりとはなんの事を意味しているのか?
「分かった。肘折は一旦忘れてくれ。愛美はそこにいるのか、確認してくれないか?」
「いいけど、どうしたのよ?いきなり電話してきて愛美の居所を確認しろって、どういう事?」
それはこっちが訊きたいところだ。私はショートメールの事を話した。
「愛美に何があったのかしら?」
「分からない。ひょっとしたら、間違って送ったのかもしれない。でも、その後電話をかけ直してもつながらないし、ショートメールに返信しても既読がつかないんだ。」
「分かった。部活の顧問の先生に電話してみるわ。すぐに電話した方がいい?」
私は時計を見た。まだ夜明けまでには時間がある。
「5時ぐらいなら、ギリ許されるんじゃないか?緊急の用事だと言えば…」
「遅くない?」
「いや、こんな夜中に学校に電話して、大騒ぎになる方が厄介だ。僕の経験では、こんな事はしょっちゅうある事なんだ。若者の気の迷いとかそんな類の事だね。だからあまり大事にはしない方が良いと思うんだ。」
「そうなの?」
「そう」
「分かったわ。5時きっかりに引率の先生に電話する。その後、あなたに電話する。」
私は、分かったと答え、電話を切った。
そう言ったものの、5時までは遠い。この暑い部屋でどうして過ごそうか?そんな事を考えた。

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