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【探偵小説】探偵里崎紘志朗 moonbow⑧


「村山さん。」と、剣持紗耶香がカメラの後ろにいるディレクターに声を掛けた。
「何だい紗耶香ちゃん」
「さっき、カメラに見切れるように車へ戻っていった男性、何かおかしくないですか?」
「えっ?そんな人いたっけ?」
「いましたよ。ねえ、国吉さん?」紗耶香は今度はカメラマンの国吉に話しかける。
「いや、分かんないなあ。ファインダー覗いてると、見切れてる人は見えないからねえ。」
「そりゃそうですね。でもおかしいんだよなあ。」
 男はシルバーグレーのSUVに乗り込んだ。車は動き出さない。電話でもかけてるのかしら?暫くして、シルバーグレーの車は出口に向けて動き出し、駐車場を出て行った。すると退避場所のようなところに止まっていた白いセダンが後を追うように出て行った。何だか後をつけてるように見えた。
明らかにおかしい。事件の匂いがする。
「紗耶香ちゃん、中継は終わったけど、夕方のニュース枠用に、もうちょっとインタビュー撮ったら撤収するよ。」
「はーい。」
追いたい。
でも今の私にはそんな権限はない…
 

 やっぱりな…
駐車場を出てすぐに分かった。
箱根ではまだ確信が持てなかったが、どうやら私は尾行られてるらしい。そして、尾行ているのは間違いなく警察だろう。私のすぐ後ろを警察の覆面パトカーっぽい白いクラウンがいる。私は珠美に電話した。多分、珠美は仕事に行く準備で忙しいのだろう。出るまでちょっと待った。
「ごめんなさい、着替えてたの。何か分かったの?」
「いや、まだなんだが、珠美、君は警察に連絡したのかい?」
「いいえ、してないわ。あなたが大事にしない方がいいと言ったじゃない。」
「分かった。ありがとう。」
「それだけ?」
「ああ。今、肘折君の家に向かっているんだが、どうも尾行られているようでね。」
「それで私を疑ったの?」
「仕方ないさ。僕が今肘折君を訪ねようとしてるのを知ってるのは君だけなんだから。」
「そう、なら許すわ。で、どうするの?」
「君が通報したんじゃないとなると、何で警察がいるのかが分からないし、もっと分からないのは、何故私を尾行してるのかだ。誘拐事件だと思ってるなら、親である私にバレないように潜む必要はない筈だ。という事は、ひょっとしたら、警察じゃない誰かかもしれない。でも、誰なのかは分からないから、不気味だ。だから向こうからこっちにアプローチしてこないうちは、こちらから先方に声を掛けるのは止めた方がいいと思ってる。」
「じゃあ、撒くのね?」
「そうなるね。」
「分かった。頑張って、あなた。」
「頑張るよ。後、傍受されるかもしれないので、これからは電話できない。」
「分かった。」私たちは電話を切った。
私は交通違反で止められないように十分に気を遣いながら、山道の下り坂をゆっくりと走った。
 
 珠美に、ああは言ったが、後ろにいるのは多分警察だ。で、届けたのは、アイツだ。
 
 

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