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【探偵小説】探偵里崎紘志朗 moonbow⑦


私は小野寺に電話をかけた。数コール後、小野寺は電話に出た。きっとこの会話も録音しているのだろう。
「里崎さん、どうしましたか?」
「先生は、肘折月郎君の事は知っておられますか?」
「肘折?肘折が関係しているんですか?」
「いや、そうではないんです。さっき元妻から連絡があって、合宿の後、愛美は肘折君と会う事になってたらしいんです。だから、念のために肘折君へ連絡を取ろうと思いましてね。学校では連絡先を教えてもらえないですよね?」
「それは無理ですねえ。個人情報だから。でもね、彼は変わった奴でして、三島から新幹線通学してるんですよ。三島では知らない人がいないって言ってますよ、肘折家の事。」
「そうですか。では早速三島へ向かってみます。先生、この事は何卒ご内聞に」
「分かってますよ。生徒の一人が行方不明で、それに関わっているのが事もあろうに本学の生徒だなんてねえ。絶対に言いません。」
「絶対に?良いですね。是非「絶対に」でお願いします。」私はそう釘を刺して、電話を切った。そして、自分の車を取りに駐車場へと戻った。
 
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 小野寺と話した後、思いがけず木村有紀と話をした。お陰で肘折月郎の事を知る事ができたのだが、彼ら二人と話した後の「嫌な感じ」が残った。小野寺は「保身からくる何も信用できないスタンス」が嫌だったし、木村有紀が「肘折月郎が変人だ」と言ったのも気になった。
 
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 車を走らせながら、珠美に電話した。今までの情報をかいつまんで話し、三島に向かっていると告げた。あれから彼女は30分おきに愛美へ電話してると言った。ずっと繋がらないままだそうだ。珠美は常軌を逸し始めていた。警察に届けたいと何度も言った。いや、この件に愛美の同級生である肘折月郎が関わっているのなら、余計に警察沙汰は極力避けねばならない。お互い未成年同士だし、学校の体面もある。第一、ひょっとしたら二人が愛し合ってて、ただフラッと二人で出かけただけかもしれない。それに最悪のケースを想定して、もし万が一、愛美がトラブルに遭っているなら、もう生きてはいない頃だ。まだ、そんな事にはなっていない筈、私は自分にそう言い聞かせて動いている。何しろ今はまだ情報が少なすぎて、何も判断する材料となっていない。どれも断片だけで繋がっていない。だから今は何も分からないとしか言いようがない。最悪のケースの事はそのまま珠美には言えないので、心を尽くして彼女が少しでも安心できるように話した後、私は電話を切った。
箱根の山道は神奈川県を出て、静岡県に入った。下りの山道の空気が変わったように感じた。


 三島の観光地の一つ、スカイウォークのベジスムージーが売りの店で聞き込みをすると、あっさり肘折家の場所が分かった。ここから少し山を下ったところの道沿いから見える山の中腹にあるという事だ。。建物は洋館風で深緑の屋根が特徴なので、すぐに分かると言っていた。お礼を言い、緑色のスムージーを買い、店を出た。カップを持って駐車場へと歩き始めると、広場ではどこかのTV局がインタビューをしていた。多分「夏休み最後に遊べるところ」みたいな取材なのだろう。女性のレポーターがそこにいる家族連れに次々とマイクを向けていた。中継車がいる。昼の情報バラエティの生中継コーナーなのか?
私は自分が画面に映りこむ事は避けたいと思った。だから私はカメラの向きを気にしながら、目立たないようにそそくさと歩き、車に乗り込んだ。ドアを閉めるとホッとした。暫く運転席に座ったままで、TVをつけ、朝のニュースを見た。大したニュースはないようだ。次にスマホをチェックした。ショートメールにはまだ既読はつかず、着信は全くなかった。それは分かっていたが、やっぱり少しがっかりした。気分を上げるべく、買ったスムージーを飲んだ。元気が出た気がした。よし、やれる。一気に飲み干し、私は車を発進させた。

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