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Wizardry4 Advanced Story

神話というモノは幾つかの寓話が織り成す変化の集大成たる一つ。
すなわち, 人間の存在を過去と未来とを繋げて現在とする秘密装置を指すと思われる。
或いは罠か… ?


さぁ…
人智を超えた物語を知るがいい。
其処に紡がれるのが神か, 悪魔か, 人間か? それ以外か?












数え切れない研鑽と探求の果てへと辿り着き大魔導師と畏怖される存在となった。
王国へも難なく入り込み実質的な "王の右腕" として, もはや望むべくもない地位も手に入れた。
彼は誰よりも己が能力に絶対の自信を持ち得ていたし, 塵ほどの疑問や不安を感じてはいなかった。


その名はワードナ
彼に関するあらゆる噂は影が跋扈=バッコ する毎に一つ, また一つと消えてゆき今では渡り鳥ですら囁かなくなったと謂う…








ワードナは現世での英達など歯牙にも掛けていなかった。
彼の頭の中に在ったのは完全なる存在への到達しかなく, 従って狂王トレボー配下というワードナの言葉を借りれば『礼儀知らずの盗っ人集団』な立場に治まるというのは本来の彼らしからぬ位置でしかなかったが, それでも肚の虫を抑えて軍門に下ったのは単に『簡単に色んな情報に触れられるから』に他ならない。

しかし…
そんなトレボーとの丁々発止な日々に終止符を打つ日が遂に訪れた。
魔法のアミュレットミスリルの籠手に関する伝説とそれを裏付ける神殿の発見!… ワードナは恋する若者のように高なる鼓動を抑えようともせず, その "約束された場所" へと急いで足を運んだ。


しかし…
約束されている筈の将来は呆気なく崩れ去った。
ワードナとは別にトレボーはワードナが単独で動いているのを承知の上で裏をかき, 違う方法で同じ神殿へ先に到着してしまっていたのだ!
ワードナの目的は魔道の探求(その上での地上支配)だがトレボーは手っとり早い世界制覇… そうとは知らない魔導師は産まれて初めて他者に出し抜かれた屈辱を味わう事となる。
そして, それは泥をいきなり顔に塗られた以上の感情をとぐろを巻きながら一気に吐き出させた。
『誰が盗んだ !?』






ワードナは自嘲した。
アミュレット(とミスリルの籠手)に没頭する余り, 身の周りへの注意力が散漫になっていた様だ。
却ってこれで神経が引き締まった… こうでなくては面白くないわ!
どれどれ…


しかし
魔法探査の末に現在の持ち主を見透した時は流石に腰を抜かす思いがワードナを貫いた。
よりにもよって『トレボーだと !? 』
近いといえば近いが, これほど厄介な相手も居ないが… どうやら今度は向こうが酔いしれているらしい。
城の警備が通常配置なのがトレボーの "現在の心境" を端的に表現している。

苦笑いも束の間
ワードナは配下の大半を動員しリルガミンへと急行した。



王の間に焚かれている麝香に紛れて少し体の動きが不自由になる粉をふり掛けると数分でトレボーと配下の近衛兵や司祭達は手本の様に痺れて動けなくなってしまった。
高位の魔神や不浄な不死者達を連らねたワードナは敢えて緩慢な動きで王の間に進み入ると眼球だけが怒りに燃えているトレボーに "労いの言葉" を仰々しい動作で送った。
『王自らの御働き, 悼み入りまする』
その瞬間, トレボーの目はカッと大きく開かれたがワードナはウィンクを送り更に言葉を続けた。
『恐れながら… 配下の者共では無理というモノでしょう。何故に私めを避けられたのでしょうか?』
判りきった答えを引き出そうとする自身の歪な心持ちはワードナを普段より少しだけ凶悪せしめた。

今や世界は我が掌に在る!

本当にギリギリと歯が鳴るトレボーにサッと背を向けるとワードナは部下達に "本当の支配者" となって最初の命令を下した。
パチンと指を弾くと血に餓えた魔神や不死者は牙や爪を容赦なく周囲の人間達へと突き立て, 辺りを一瞬で血の海と化し屠殺場さながらと為り果てさせた。
しかし…
ワードナはトレボーを殺さなかった。
理由は自分でも判然としない。この狂った王を生かしておくのは明らかに後難の恐れが有ったが, 何かがワードナにそれを引き留めさせていた。
そうした主人の心の機微を弁えていない部下一匹がトレボーに飛び掛かるが, ワードナの答えはマハリトの一閃!

儂は何故にトレボーを活かすのか? 其処ら辺りも含めて見極めねばなるまいて…

更に別の部下が不躾にアミュレットへ手を伸ばしたがワードナは見ぬフリで教育を施した… 触れた瞬間に叫ぶ間もなく蒸発した下級悪魔の姿はこの上もない教材だった!
既に絶命した近衛兵の剣を奪いアミュレットを器用に引っ掛けミスリルの籠手を引っ掴むと, 再び身動き一つ出来ない全員に向き直り挨拶の口上を宣下する。
『失礼つかまつった。』










根城に戻ったワードナは恋人に対するような面差しをアミュレットに送る月日を過ごし始めた。
"神々の楽園" とは?
"創造主の精髄" とは?
幾度となく訪れた危機をリルガミンは不思議な力で乗り切ってきたが, アミュレットが陰に陽向に作用したのは間違いない。
あの… 部下が蒸発した力はディスペル=除霊などとは完全に異質で高次な魔力の発現であり, 実存性の限界を越えた最初の一例でもある。
『我等が目撃した分は… な』
故に素手で触れぬ為の
『籠手か…』
思えば, ミスリルは素材としてすら今だに不明な部分が多く素体も極めて少ない希少品だが, ワードナが知る限り組成自体が他の金属とは根本的に異なっており
『ひょっとすると… 』
外部から "この世界へ持ち込まれた" 可能性も否定できない。
外部…
この言葉には何か蟠りの様なモノを感じて久しいが懐かしい気にもさせられる。


ただ一つ, ハッキリ理解した事はアミュレットは "ある種" のエネルギーを吸収する事で自らを維持している事…
魔法探査で発見した神殿に安置されている時と今とでは放つ輝きが違い過ぎる!
『どうやらリルガミンに居るのが一番らしい… 』
忌々しい事ではあるがアミュレットの "態度の違い" は放置できない事態であるし, 大魔導師の興味を惹かない訳もない。

無限の魔力を秘めたアミュレットではあるが, 残念ながら自転車操業とは行かず, 何かを形代=ヨリシロとしなければ "本来の能力を全開に出来ない"… リルガミンに在るソレが一体 何なのか !?
『なんとリルガミンから離れられんとはな… 』
ここまで来ると因縁とやらを信じざるを得ない気分にすらさせられる。



本意ではないが, 生涯を賭けた難問だろうという予感は充分ある。その意味に於いてアミュレットはワードナに多大なる恩恵をもたらそうとしている訳だが, それが悦しみでもあるし, 誇張ではなく自分にしか出来ない難事業だという自負, 自覚はある。
『ふふふ… 輝いておるな』
その眩さがある限り, 儂は…








ガシャン!
何かが大きな音を立て倒れたらしい。客分として迎えていたヴァンパイアロードのレスタトはワードナの前室で若い人間の女達を堪能していた筈だが… また不躾な部下が何か仕出かしたのか?
ドォーン! グエェェ…
ええい! 人が良い気分で甘い思考に浸っているというのに!!!
部下も部下だが, レスタトは何をやっとるのか !? 何か気に障ったというなら(部下を)消せば良かろうが!

怒りに駈られたワードナが執務室の椅子から立とうとした瞬間に激しい勢いでドアが破られ二つの影が左右に分かれて侵入してきた。
咄嗟に防御呪文を唱えながら, 左右の手に大きめの火炎呪文の印を結んだ。
少し焦げ臭い
この礼儀知らずの侵入者達はレスタトを葬ったのかも… ワードナの掌から放射された火柱は命中し二人を吹き飛ばしたが, その体が壁に叩き付けられる前に影とも謂えない不思議な柔らかい動きをする三人目が体を斜めにしながら小走りに近付いてきた。
『おっ!』
熟練を感じさせる動きは大魔導師に緊張という懐かしい感覚を喚び起こしたが戯れる暇も余裕も無さそうだ。
ワードナは相手が部屋の上部へ飛翔したタイミングに合わせて石化の呪文を放射したが其処には誰も居なく, 何故だか足元から鈍く光る剣先が視界に入ってきた。
『!!!』
生涯二度目の不覚, その代償は高く付いた。
心臓を貫いた剣から人間では有り得ない魔力の奔流がワードナの体を包み込む。
エルフかっ!?


『はじめまして… ワードナ』
行儀の良い挨拶とは裏腹に冷淡な表情。剣士というには素速すぎるエルフの男は剣を捻りダメージを深めると聞き取れないほどの小声で呪文を唱え初めて笑顔を見せた。
『そして… さようなら』
腹部を乱暴に蹴り剣を引き抜くと右の掌を転倒したワードナに向け目を閉じた。
小さな光の球が掌から発せられ緩やかに進み, やがて言葉を失った偉大な魔導師を被うと激しく輝いた。
数瞬… 光が胸に空いた闇に収斂されるとワードナは完全に動かなくなり, その伝説に幕を引いた。

しかし未だ少しだけ意識はある…
その耳に意気揚々たる若者達の会話が "違う世界の音楽" の様に聞こえてくる。
『っ… 痛っ!』
『… おい! 俺達は餌かよ !? 』
『そう言うなよ… 大魔導師を仕留めたじゃないか』
『もうちょっとで死ぬとこだったぞ!』
『お前!ワザと遅れて入っただろ !? 』
『お前達が気負い過ぎなんだよ。』
ワードナに剣を突き立てた若者は飽くまで涼しげで飄々としているが, 何処か性酷薄さを想わせる。
その風貌から本心を探るのは困難だが, 重くない口調が仲間の心を引き留めているのか… 他の仲間が部屋の外から入ってくると更に喧騒さが増してきた。

『なぁホークウィンド。さっきの光は何の魔法なんだ?』
『あぁアレ? アレはディンクが教えてくれた… 謂うなればブラックホールかな? 魔法を無限に吸収するんだよ。ただアレ以上の大きさだと僕まで危なくなるからアレが精々だね。』
『ディンクって… あの変な爺か !? 』
『あの爺さん, そんなの知ってるんか !? 』
『なんせ相手は元・首席魔導師だから… 普通に戦ったって駄目だと思ったから。』

今や止まりそうな鼓動が不規則なリズムとなり, 若者達の多様な声がメロディとなってワードナを異世界へと誘おうとしている。
もはや伝説は終わるのだ。




『おい, 首は刎ねないのか?』
"尤も" な質問に対してホークウィンドと呼ばれたエルフは表情を一変させ, 真摯な態度で宣言した。
『ソレは止めておいた方がいい。彼(ワードナ)クラスの魔導師ともなれば, どんな魔法を施術しているか分からない… 下手すると呪われるかも知れないよ。』
『えぇ !? 』
『本当かよ! じゃ, どうすんだ !?』
『ワードナはこのまま… どうせ城の連中が確認しに来るだろ? 俺達はアミュレットを持ち還ろう。』
『そうだな… ていうか出口が無くなってるぞ !!! 』
『ワードナの呪いか☆』
『おいっ! 笑い事じゃないぞ!』
『マロール(テレポートの呪文)は残ってるか !? 』















未来の栄光を手にした若者達が去り, リルガミンの司祭達が大魔導師を魔法封殺しに来る合い間…


ワードナは自分が今, 何処に居るのか把握できず, ただ無重力な暗黒に身を委せていた。その揺り籠たる不思議な空間は居心地が良く, 殺された事実すら食べこぼしたパン屑の様に『掃けばイィ』と軽く流せるほど魂の軽やかさを手にしていた。
しかし, 何処かで違う声が色んな言葉を無作為に交錯させワードナという一つの存在を新たに組成しようとしていた。
その中の一つ…
その声は強くもなく弱くもなく, 一定の周波数で途切れる事なく暗黒の海を彷徨っていたが他の声が力を失い始めると, やがて見計らった様に力強くワードナめがけて近付いてくる。
『本当にイィのか』
魔導の研鑽により, ほぼ不死身と化した筈の自分が恐らくは死んでいる現実を否定する声は何処から来るのか?
どうでも良い… 投げやりとも謂える気持ちになると再び声が魂の奥にまで響いてきた。
『本当にそれでイィのか』
やれやれ, 何処の誰だか知らんが今更儂に何をさせようというのか? 宇宙に点在する神とか呼ばれる超越者の一人かも知れんな… ぼんやりそんな事を考えていると声は力強さを増し, あらゆる方向から強迫的な迄に膨らんでいく。

『其は不死身なり』
『秘密とは秘密に非らず』
『己が掌で掴むが良い』
『本当の迷宮は抜け出した先に在る』
『妖しの者の言葉を届めおけ』

… どうやら,
声の主(達)は儂の気質を熟知しているらしく, からかう様に謎めいた言葉を散りばめて促しているらしい。
ふん! 何様のつもりか!?
しかし, まぁ…
居心地が良いとはいえ, こんな暗闇には何も用は無いし長居する気も無い。またやれ, というのなら願ったり叶ったりだ。
他者の思惑に乗るようで癪である事は否定できんがな!












エルセナート大陸
その中心に屹立する麗都リルガミンの外れに在る迷宮の最深部に "偉大な魔導師" として名を馳せた反逆者の死体が厳重な魔法封印を施されて眠っている。… 筈なのだが, 何故か其処を目指す冒険者達は後を絶たず, 嘗てない賑わいを見せている。
ワードナは生きているらしい…
いや, 亡霊が彷徨ってらしいぞ…

何が本当なのか, 確める必要があるらしい。

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