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理想の自分を追う苦しみ

King Gnuの「硝子窓」のMVを見た。コメント欄に「カメレオンは男性目線で、今回は女性目線なんですね」とあった。どうやら対になっているよう。

そういえば「カメレオン」のMVも見ていたはずなのに、内容が全く頭に入ってなかったなと思い、検索してみた。

確か見たことがあるはずなのに、不思議なくらい記憶になかった。まるで初見のように見始める。

木製の傀儡の主人公レオンと、美しい愛する人テレス、いつもそばにいる相棒の愛犬ザックス。レオンの頭部は不完全さを表しているのか大きな穴が空いているし、鼻水のようなものも常に鼻から垂れている。

愛しい美しい人とは対照的に臆病で自信のなさそうな主人公。恋人との不釣り合いに心が占められている。そんな時禁断の薬を目にする。

「理想の自分になれる薬」

そばで愛犬ザックスが首を振って制するも甲斐なく、レオンは薬を一気に飲み干す。

「ああ。なんてこった」

目頭が熱くなる。涙腺が緩い。急いで、抱えるように持っているリュックに手を突っ込んでハンカチを探す。

朝の通勤列車の中。混雑する電車内では、後方左右は人と重なるほどに接している。すぐにハンカチが見つからず、腕をゴソゴソと動かしていると周りからは不穏な空気が漂う。

前の席に腰掛けているスーツ姿の清原を小柄にしたような強面の男性がふっと顔を上げてこちらの様子を気にしている。

見つかったハンカチを急いで目に押し当て、「アレルギー辛いな」という無言の演技をする。

「危ない危ない。こんなの人前で見れるMVじゃない。」

満員電車で突然泣き出すおばさんなんて自律神経の不調による情緒不安定か、はたまた更年期障害による情緒不安定かって思われるよってどっちにしろMV見て泣き出してんだし情緒不安定で正解じゃねーか。

慌てて視聴をやめた。

昼休み、怖いもの見たさでもう一度、カメレオンのMVを見て、また同じシーンで涙ぐむ。はためにはお腹がすきすぎて泣き出すおばさんと映ったかもしれない。どっちにしろ情緒不安定で片付けられそうだ。

「なんでこのシーンがこんなにも苦しいのか」

理想と現実の狭間で葛藤する主人公の前に現れた手っ取り早い解決策。

お手軽な解決策は、本当の解決策ではなかった。見せかけの理想、もしくは全くの詐欺に騙されて、残ったものは、以前よりももっと醜く愚鈍な自分。

別にこの歳になって、素敵な自分になりたいとかそういう理想はないが、理想の暮らし方、働き方がある。

こだぬきずの小学校の行事予定を把握できておらず、大事な発表会の日に仕事が休めない事態に。

自分が悪いのだ。手紙を隅々まで確認し、行事予定を頭に叩き込んでいない自分が悪いのだ。夫が休みを取れたのでビデオ撮影をお願いし、義父母にも参観してもらおうと思う。

それでいいじゃないか。こだぬきずも怒っていない。「ビデオで見てね」と理解してくれた。

それでいい。別にいい。これが人生最後の学校のイベントじゃない。ただ理想の姿ではないだけ。ただそれだけ。

家族がいて、健康で、仕事があり、楽しく暮らしている。ありがたい。幸福だ。

でも、理想の姿とは違う。

そんな理想の姿とは違う現実を積み重ねて小さく絶望する日々。心に溜まった澱のせいか、自律神経の乱れのせいか、ひどく疲れている。

自転車に乗って家路を急ぐ夕闇の中。まるでもう二度と朝が来ないような感覚に陥る。そして思った。

「為す術がなく苦しいんだ」と。

木偶の彼もきっと理想を実現させる術がなく絶望していたんじゃないか。なんら術があるのならば、少しでも希望がある。術がないからこそ危険を犯してまで「理想の自分になれる薬」なんて馬鹿げたものにも手を出してしまった。

その絶望が苦しくて悲しかった。

才能のある人はさすがやで。こうやって、言葉にできない感情を作品にして、色んな人に伝えてはる。

「オレも才能と運が欲しいわ」

見る人によって解釈が違うだろうと思わせるMVです。皆さんの感想も教えてください( ¨̮ )

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