独占の権利


2019.6.10

これは覚え書きのようなものだから、読み物としての質は保証できないことを先にお断りしておく。
まあもともとそんなに高質な文を書くわけでもない。それでも読んでもらえたらとても嬉しい。
共感したり反論したり、なにかしらの反応があったら尚嬉しい。


私には彼女がいるのだが、これが実に愛らしい。四六時中一緒でも飽きない。現にかなりの長時間を共に過ごしている。

しかし、彼女は他の社会にも属しているわけで、一緒にいることができない時間はどうしても生じてしまう。こんな当たり前のことを嘆いているようじゃ先が思いやられるが、未熟な私にはそれが辛いのだ。

そもそも断っておかねばならないこととして、私の非社会性がある。いかなるサークルにも属さず、バイトも一週間で通算2時間、友人は片手で数えるほど。LINEの友達登録者の半数は家族という社会からの隔絶っぷりである。時間を費やす対象がほぼ彼女しかいないのだから、彼女にベッタリとなるのも致し方ない。

対して彼女はと言うと、わりに社交的な人間である。活発な部活に所属し、社会人OBOGとのコネを作り、貰った名刺を全て保管し、そこに記載されているメアドには必ず挨拶のメールを送り、参加者を募っている学内の活動には積極的に参加し、そこでもまた、人脈という名の名刺と連絡先をかき集める。彼女のLINEでは常に赤いバッジが二桁の通知を報せ、ひっきりなしにGmailが届く。Twitterでは友人の誕生日をまめに祝い、Facebookでは「母の知り合い」というだけの自称写真家のオジさんの投稿にいいねをし、京都の鰻屋でご馳走になる約束までしていた。

勢い任せに書いて気づいた。最初に彼女のことを「社交的」と表したが、それは正しい表現ではないだろう。もっとこう、打算的で、世渡り上手で、ともすれば狡猾な、そんな人間関係を構築しているような気がしてならないのだ。


2018年12月17日、私は彼女と付き合い始めた。街に蔓延するピンク色に飲まれていたわけでも焦っていたわけでもないが、クリスマスを彼女と過ごしたいと思ったのだ。寒空の下の告白は成就して、今に至る。

付き合い始めてから、彼女は変わった。
正しくは、私のせいで変わった。
変わってもらった、が正しいかもしれない。

先述のような彼女の「社交的」な言動は間違いなく彼女の美点のひとつであったし、それが彼女にとってのストレスフリーな日常であった。
しかし、それをただ素晴らしい事として捉えられるほど私は寛容ではなく、自分との時間よりもそれらの予定を優先されるのがとても嫌だった。嫉妬、独占欲、不信感、不安感、様々な感情が湧いては消え、それを彼女に見せまいとして、押し殺すのに必死になった。

私がそういう気配を隠しきれていなかったのか、はたまた彼女自身の意思なのか、彼女は「社交性」を捨て始めた。様々な団体から脱退し、人付き合いを極力減らした。

暇な人間に多忙な人間が合わせた結果、骨を折るのは確実に後者なのだ。

そんな彼女の自己犠牲の上に私たちの時間は積み重なり、仲を深めていった。

私のせいで彼女の生活が崩れていく。

一方で彼女との思い出は増えていく。

彼女がかつて引き寄せた人脈は段々と途絶え、今や外界との関わりはバイトと友人関係くらいしか残っていない。つまり裏返せばそれは、バイトの時間と友人と遊ぶ以外の時間すべてを私と過ごしているということだ。冒頭に「四六時中一緒にいても飽きない」と記したが、これは仮想ではなく事実である。
私と彼女は今、同棲している。


「申し訳ないと思う気持ちはもちろん強く持っている。だけど私はあなたと居る時間が長いと幸せだ。」

そういうことを彼女に言った。彼女は

「申し訳ないと思うくらいなら、私の生活を充実させるためにいろいろ考えてくれた方が嬉しいな。もう十分楽しいし私も幸せだけど。」

と言ってくれた。
すごく救われる気分だった。

私はさらに続けた。

「正直、私は〇〇(彼女)を独占したい。けど、それは人権無視というか越権行為というか、なんとなくダメな気がする。どうしたらいいと思う?」

彼女はこう言った。

「私はあなたのものなので独占は越権行為ではないよ。そのかわりあなたは私のものなので私も独占します。」

かくして私と彼女は互いを独占する権利を得た。



─────────────────────


2019.10.2

と、ここまで読んできたが、いやはや未熟ですね。

noteの下書きになんかあるなと思って読んでみたらこんなに恥ずかしいとは。私は羞恥によるダメージを受けています。

とはいえ覚え書きは覚え書きとしての役割を果たしていて、実際いろいろ思い出しました。そのときの気持ちとか、感覚とか、距離感とか。忘れていた初心たちに再び会えました。

付き合いたての頃、私は彼女への愛情や恋情がそのまま不安や嫉妬に置き換わってしまうような、かなり厄介な男でした。そしてそんなモヤモヤを伝えるなんて考えもしないくらい、彼女とは距離がありました。

今はもうなんでも言い合えます。愚痴も、不平も、不満も、疑念も、怒りも、付き合う以前出会い系に傾倒していたことも、父親が横領で逮捕されたことがあることも、三井住友の口座の暗証番号も、なんでも。ここには書けませんが彼女のあんなことやこんなことも全部聞きました。

私と彼女は何度も話し合い、感覚を擦り合わせてきました。

お互いが元の感覚のままでいられる関係もたしかに素敵だと思いますが、我々(私)にはそれが難しかったのです。それに、こうやって感覚を擦り合わせても不快に感じないような関係も素敵だと思いますし。

とにかく、私たちはいま、非常に順調な交際をしていると言えますのでご安心を。過去の不安を肴に、充実した現在を謳歌しようと思います。



喃語ネイティヴ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?