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生成AIがもたらす産業革新

今回は引き続き生成AIに関して、なぜ産業全体を大きく変えるかもしれないとこれほど言われているのか、米VCのアンドリーセン・ホロウィッツの議論より説明したいと思います。

アンドリーセン・ホロウィッツのゼネラルパートナー、マーティン・カサド氏によると、技術の発展のカギとなるポイントの一つに、マージナルコスト(限界費用)という概念があります。これは一般的な経済学の概念で、一つのサービスを追加提供する際にかかるコストのことです。例えばインターネットやソフトウェアのサービスでは、一旦ソフトさえ作ってしまえば、追加で一つ多くのアカウントの提供に関わるコストはほとんどゼロに近く(電気代やサーバー代くらいはあるかもしれない)、より多くの人にサービスを提供するほど、サービス単位あたりのコストが非常に小さくなるという特徴を持ちます。

マイクロチップが計算コストの極小化に貢献(a16z動画より)

マーティン氏によると、歴史的にこうしたマージナルコストを極限まで下げてきたサービスが産業の革新を進めてきたと言います。一つ目の事例はマイクロチップとコンピューターです。これまで計算が必要な場面では人の手で多大な労力で行われていたのが、マイクロチップの普及により電卓、PC、産業用コンピューターなどが発展し、計算業務が自動化され、一つのアウトプットあたりのコストが最小化されました。

次に、インターネットです。今の若い世代の人達にはもう理解されないかもですが、10-15年ほど前までは音楽、映画などの視聴は、カセット、CDなどが使われており、コンテンツを入手するには、TSUTAYAなどのお店で買ったり借りたりする必要がありました。そこでは、カセットやCDのプラスチックなどの素材だけでなく、その配送や販売店舗など、様々な過程を経て消費者に提供されていました。いまネットフリックスやYoutubeなどで映画や音楽はボタン一つで視聴できます。上記の流通過程は不要となり、どれだけ配信しようとボタン一つで提供可能で、一つのコンテンツの追加提供コストは最小化されています。

インターネットが流通コストを極小化(a16z動画より)

生成AIでも同様と言います。例えば、デザイナーにピクサー風のアイコンの作成を依頼すると、納期1時間で、100ドルかかります。このタスクを生成AIで行うと、1秒以下、1ドル以下で実施できます。これはどれだけ作ろうが、どんなデザインにしようが、一瞬でほとんどゼロコストで作られることには変わりません。クリエイティブ領域のマージナルコストがゼロに近づいている一例です。

イラスト作成コストの最小化(a16z動画より)

同じく文書作成の領域でも、法務相談の事例でも、質問と文書作成のコストは最小化されています(もちろん、その後のレビューは発生しますが、実際の弁護士事務所でも作成とレビューの過程があると想定)。生成AIは、こうした様々な知的創造活動において、マージナルコストの最小化を実現しています。そのため、ユーザーにおける経済的な便益が非常にわかりやすく大きなインパクトを産業界にもたらすのではないかとマーティン氏は言います。

法務相談コストの最小化(a16z動画より)

そしてこうした動きが最も早く進んでいるのがゲーム制作の業界です。正確性よりも創造性が重視される領域なため(もちろん著作権などの問題はあるものの)、生成AIの創造活動との親和性が高く、時間や費用の低減が明白であるため、急速にサービスの活用が実際に進んでいると言われます。

ゲーム産業での生成AI活用によるコスト最小化の例(a16z動画より)

最後に、これまで人間の仕事の領域であった知的創造活動をAIに奪われるという観点では、雇用の消失などの懸念が想像されます。しかし、過去のコンピューターやインターネットの事例を振り返っても、技術発展が起きたときには、一時的に直接その業務に従事していた人の配置転換などは発生するものの、産業全体、世の中全体においては、コストの最小化によりサービスが普及し、結果的には産業のパイが大きくなり、雇用も増えるのではと言われます。

技術革新がもたらす需要の増加(a16z動画より)

様々な場面で生成AIは凄いと言われていますが、こうして経済的にも産業的にもなぜ注目が大きいのかという議論がいよいよ普及してきています。脅威も懸念もあるものの、いかに産業、日々の生活に役立てていくかという観点で、米VCの多くが主張するように、技術発展を人類の希望として前向きに捉えることが大切と思われます。


出典
The Economic Case for Generative AI with a16z's Martin Casado
https://youtu.be/5yC4w4x5DSQ?si=ZkCoupwA89S113oH

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