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生成AIとスタートアップ

セコイアキャピタルの生成AI領域の動向に関するレポートでは、幾つかの示唆に富む論点が提示されていました。今回は生成AIスタートアップがMoat構築、つまり差別化の点でどの領域で発展可能性が大きいかという点を考察できればと思います。

まず一つ目はサービスや製品に関してです。ChatGPTやGoogle Bardを試してみると、非常に多くの新規事業や業務効率化に関するアイデアが湧いてくると思います。実際、ソフトバンクは社内ビジネスコンテストを毎月実施し、3000万円との大金を賞金に、次々とアイデアの実現を前に進めています。しかし、まさにこうした大手の動向こそが気を付けるべきポイントと言われ、サービスがバッティングした際に、どのように差別化するか、そしてどのように大手に負けない強み(Moat)を築けるかが重要となります。

例えば、Eコマース領域では文章や画像生成機能を活用してグローバルで様々なスタートアップが、プラットフォームへの出展者をサポートするサービスを展開し始めています。

(a16zレポートより)

同時にGoogle、Shopify、Amazonなども、同様のサービスを自社での展開を進めています。Googleは広告主向けに文章、画像、動画生成技術を組み合わせ、シームレスなコンテンツ制作サービスの提供を発表しました(Google Product Studio)。同じく、Shopifyは商品説明文の自動生成機能、Amazonはレビューの分類化と要約などの機能を発表しています。またGoogle Bard, Microsoft Copilot, Salesforce Einsteinなど、ユーザー支援機能の実装も次々と進んでおり、同領域での展開を検討する際には、こうした大手のサービスとの差別化をいかに実現していくかが重要となります。

(Google Product Studioの説明動画)

次に技術面です。こちらは現状の業界構造に強く関連している部分です。セコイアのレポートでは、アプリケーションのレイヤーとAIモデルのレイヤーの分離が進んでいない、との言及があります。こちらも差別化と関連しており、アプリケーションの部分だけでは差別化、優位性のキープが難しく、模倣される可能性も大きく、AIモデルのレイヤーまで保有することでようやく持続性のある優位性の確保可能という、技術優位性の部分に繋がっています。イメージとしては、インターフェースだけでなく、AIモデル部分まで自社で有することで、モデル学習を通したきめ細かい機能修正や、最適化されたサービス提供に繋がるということでしょうか。

(9/26日経記事より)

この点ではMicrosoftによるOpen AIへの出資、GoogleやAmazonによるアンソロピックやハギングフェイスへの出資など、AIモデルのスタートアップに大手各社が巨額な出資を進めており、この部分を抑えることが今後の事業優位性の確保にとって重要との発想が伺えます。重要なのはその規模です。各社出資額が数千億円から数兆円規模と、非常に大規模で、これは歴史的に鉄道、電気や通信などのインフラ企業が巨額設備投資で参入障壁を築いてきたように、今後独占が加速化する可能性もあります。ここ10-20年、ネットサービスを独占してきたGAFAが、そう簡単には覇権を譲るまいとの気迫すら感じられます。

こうした現状を、データとアプリケーションという二つの軸でセコイアは分析し、これまで大手プラットフォーマーが恩恵を享受してきたデータよりも、実はアプリケーション部分の方が重要ではないか、と指摘しています。これはおそらく、AI学習の高度化により、ある程度データがあればそれ以上は学習によりキャッチアップ可能との背景があると思われます。またアプリケーションの部分では、ユーザー数の増加による学習機会の向上で、他社に真似できない優れたUIUXの実現が可能との背景と考えます。

セコイアのレポートのMoatに関する記述

こうした現状や分析を考慮すると、大手と競合せずに勝負可能な領域はどこなのか。B2C領域ではなく、SaaSでいうと業界に深く入り込んだバーティカルSaaSのような部分で可能性があるのではと言われています。データという点では例えばヘルスケアや産業領域ような希少性の高い領域、アプリケーションという点では複雑で細分化された業界独特の業務フローやプロセスを有する領域のイメージです。SaaSでもそうであったように、業界に詳しくないと参入が容易ではないこうしたバーティカルの領域、かつ、市場が大きくスケーラビリティのある領域に可能性があるのでは言われています。

日々業界が発展を続けている中で、各社ビジネスモデルもまだまだ固まっていない状況ですが、今後、どのような収益モデルが定着し、スタートアップにとって勝ち筋のある領域はどこなのか、引き続き要注視と考えます。


出典
Generative AI’s Act Two
https://www.sequoiacap.com/article/generative-ai-act-two/

Generative AI: The Next Consumer Platform
https://a16z.com/generative-ai-the-next-consumer-platform/

New tools to help small businesses connect with online shoppers
https://blog.google/products/shopping/google-product-studio-generative-ai-product-photos/

米テック、生成AI主戦場に Amazonが新興に巨額投資
生成AI
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN25BZB0V20C23A9000000/

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