会計知識なしの素人でも財務諸表からビジネス脳を鍛える手順を公開__Amazon編

会計知識なしの素人でも財務諸表からビジネス脳を鍛える手順を公開(Amazon編)

投資観点だけではなく、ビジネスの様々な場面で活用できる財務諸表。財務諸表というと、会計知識がないと読めない!と敬遠する傾向が強く、宝の山なのに実際に見ている人が少なく本当に勿体無いと感じます。私自身が体験したことととして、

というような膨大なメリットを感じてます。どう活用しているかと言えば、例えば

というように営業の訪問準備、つまり提案内容で大活用しています。

またマネジメントとして経営など様々なヒントを得ています。これまでの経験上、特に経営的に世界の最先端だったり、失敗した企業を単年では無く、「複数年」調べるのはとてもインサイトがあるもの。

今回は実例を取り上げながら、私自身がやっている方法通りの順番で、非会計的にどんなことを得ているか、これなら誰でもできるじゃん!と思ってもらえるように、下記の目次のように纏めてみました。

対象は私自身投資もしていて、ビジネス的にもたくさんヒントを得ている、(ベタですが)Amazonの財務諸表を見ながら、解説してみようと思います。

1)今更Amazonを取り上げた理由

AMAZONの2018年の売上はなんと25兆円を越えています。驚くべきはこの規模の会社が30%以上の成長を続けていること。毎年7000-8000億円の売上が一つの会社で増えるって衝撃ですよね。

各部門ごとの成長に分解して、5年前と比較しても、下記のツイートのように想像を大きく越える伸びですね。

そんなAmazonに興味を持ったきっかけは、

①再度業界をぶち壊した新規事業、Amazon Web Service(以下AWS)の出現
②Amazonの総本山シアトルで聞いた生の話
③「others(その他事業)」の成長率

です。

①再度業界をぶち壊した新規事業、AWSの出現
まだ東京にAWSの施設がなかった時代に、アメリカの最新情報として、パブリッククラウドという概念でAWSというサービスをAmazonがやっているという話を初めて聞いたとき、パブリック?雲?何のこっちゃわからなかった記憶があります。

前職のシリコンバレーに住んでいたCTOに詳細にパブリッククラウドが革新的だという話を聞いて度肝を抜かれた感情は今も忘れません(もう数年前の記憶なので間違っているかもしれません)。

<パブリッククラウドは革新的>  ・最新鋭で高性能なサーバ(システムを処理したり、データを蓄積する機会)でなくとも、安価なサーバを並列に繋げることによって、スーパーコンピュータ並みの能力が得られる・使いたい時に、使用量に合わせて料金を払うことで、安価にサーバを利用することが可能になる(サブスクリプションモデルのはしり)・AmazonやGoogleなどメガIT企業1社で、日本企業の1年のサーバー投資総台数を上回り、つまりサーバ1台あたりのGAFAの購買力は圧倒的に他企業に比べて強い・サーバ1台は一般の企業であれば、故障リスクがあり、大抵部品の供給が5年で終わり、修理が不可能になるため、5年の減価償却が終わると、最新に買い換えるのが通常のサイクル。パブリッククラウドはサーバが故障するまで使い、故障したら直さず放り投げ、安価にバンバン変えていく・サーバは中国企業からの仕入れから、需要の高まりで、中国企業からのOEM生産に切り替わっている。サーバ1台あたりの単価はもの凄い勢いの投資によって毎年下がるが、そのうち自社でサーバを作るようになると言われて、そうなると更にもう一段下がるだろう

この話を聞いた時に、あ、これで既存のサーバ産業はもう勝てない、業界が大きな変革を遂げるだろうな、と直感的に感じた訳です。と同時に、Amazonは単なるECの会社ではないという認識を持ちました。

②Amazonの総本山シアトルで聞いた生の話
前職で日本の大企業の社長・役員を海外に招待するセミナーの責任者をやっていたのもあり、AWS(Amazon)の総本山であるシアトルに2014年に行き、直接AWSやAmazonのカルチャーを聞けたことも大きく影響しています。

AWSという途轍もない新規事業を生み出したAmazonの強さとして、写真の図のような”Virtuous Circle(またはFlywheelとも言う)”という事業の根幹の考え(参照:https://bit.ly/2Yboo4d)や、新規事業を生み出す源泉となっている”Two Pizza Party”の仕組みを聞いて、唸りました。

写真は撮らせてもらえませんでしたが、当時物流の次世代を考える研究としてdroneの実物を見せてもらったことも、Amazonという会社の深さについて知らされたきっかけとなりました。

それから数年、AWSの快進撃は止まらず、既に日本円にすると2.8兆円を超える売上をあげ、Amazon全体の利益の半分以上を稼ぐドル箱になっています。これを目の当たりにしたら、誰でも単なるEコマースの会社だとは思いませんよね。

③「others(その他事業)」の成長率
冒頭のツイートでも紹介しましたが、othersは2014年から2018年の決算期でなんと

664%成長

とどのセグメントよりも成長している訳です。気持ち悪いですよね?このothersの大部分を占めるのは、Amazonが新たに始めた広告事業です。こうした新しい事業の芽が絶えないのが、Amazonの恐ろしいところ。これを見て、Amazonのことを改めて、色々調べるようになりました。

それでは次の章で実際どのように調べているのか、の方法に触れていきたいと思います。

2)会計知識なく財務諸表をチェックする方法

そもそも買い物でAmazonのサイトを見ることは多いと思いますが、財務諸表を見に行く人は特に日本人では少ないかもしれません。手順を下記に簡単に紹介します。

③のようにAmazonにおいては投資家向けのページが独立してあります。そのURLを教えて直接訪れてもらうこともできますが、読んでいただいた方々には、ぜひ自分で実践していただきたいので、自分でやってみてください。

他の企業も同様のサイト構成になっていることが多いので、自分でアクセスしてみて、違う言語であっても財務諸表の置き場を探る感覚を養っていきましょう。

この中にある「annual report(年次報告書)」や「Quarterly results」の「10-Q」を主に見ます。この中で「segment」というキーワードで検索すると必ず数十は候補が上がってくるので、下記のような「SEGMENT INFORMATION」というページに辿り着いてください。

そうすると部門別の結果や部門別のビジネス状況などが記載されています。だいたい2, 3ページなので、英語が苦手な方でもGoogle Translateなどを使えば何となく理解はできると思います。いくつか英語の財務諸表を見ていると使われる単語は似ているので、そのうち読めるようになると思います。

大切なのは、これを最低でも5年分見て、下記のようにExcelやGoogle Spreadsheetにまとめることが一番理解を深めると思います。これだけでどの事業がどれくらいのボリュームで何%成長して、それが何年続いているのか、ということを理解するだけでも大きく異なります。

慣れてきた方は、ぜひ「Quarterly results」の他の「Presentation」や「Earnings Release」もチェックしてください。Amazonの場合は、後者の「Highlights」部分に新規事業の芽がたくさん書かれていますので、チェックして見てください。例えば、最新の2019年の1Qをチェックすると

・Fire TVのユーザは3000万人以上のアクティブユーザがいる・Alexaは90000以上のスキルが外部の開発者によって提供されている・YoutubeアプリをFire TVで、Prime VideoアプリをChromechastで、GoogleとAmazonが近々発表する・WholeFoodsで3度目の値下げを実施する・Amazon KeyというサービスがPrime Memberに提供されている・AWSが新規獲得したユーザは「Lyft」などがある

ということもわかったりします。

基本的には私もこの流れの中で、疑問があることをGoogle検索で他の様々な記事に飛んで数字の裏に何が潜んでいるか、を理解して、例えば今回のようにAmazonという会社の強さを自分で理解しようとしているにすぎません。慣れの問題なので、ぜひ皆さんも少しでもトライして見てください。

それでは次の章以降で、この方法でAmazonのどんな姿が見えてきたのか、を説明していきたいと思います。

3)Amazonから生み出される新規事業の数々

財務諸表をたどっていくと、これまでの成功の歴史を垣間見ることができます。Amazonのこれまでの新規事業で成功しているものを挙げて行くと、皆さんも馴染みの深い下記のようなサービス・デバイスが生み出されています。

1999年9月 マーケットプレイス
2002年7月 AWS
2005年2月 Amazon Prime
2007年11月 Kindle
2014年10月 Amazon Echo

これ以外にも新規事業という観点では、海外展開も実施しており、アメリカ以外の地域でも、2018年の業績で行くと

約2.0兆円 ドイツ   
約1.5兆円 イギリス 
約1.5兆円 日本   
約3.0兆円 その他海外地域

という売上を創っています。

これからも、既に急速に伸びているAmazon Advertisement(Amazonの広告事業)や注目度の高いAmazon Go(無人店舗)やAmazon Shipping(自前の物流サービスの提供。物流のAWS版)など、様々な新規事業が待っています。

Amazon Advertisementは既に大きく成長しており、Amazonのsegmentにあるothersの売上の多くを占める事業となっており、近い将来には新たなsegmentになるのは間違いないと言えるでしょう。

Amazon Goは既に大きく日本でも報道され、話題になってますよね。最近だとキャッシュレスは人種差別になるとの判決があり、現金の受け入れをどういう形かで検討するという報道(https://engt.co/2Q8BCw1)もあり、今後が注目されています。

私個人的な1番の注目度で言えば、Amazon Shipping。先日下記のツイートのように報道されていて、既に一部の地域では開始されているようです。

この物流事業が第二のAWSのようなインパクトのある新規事業になるのではないか、と勝手に予想しています。

このような数々の新規事業が生まれ、25兆円を超える売上規模の会社が年率30%を超える成長を可能にしているのは、華やかな新規事業が生まれる裏側でAmazonが数多くの失敗をしているからです。これは5年間の財務諸表をチェックする中でも見てとれます。

4)成功の裏側にある数多くの素早い失敗

Amazonの代表的な失敗で行くと「Fire Phone」。2014年に約200億円の特損を計上しましたが、「実験しなくなること、つまり失敗を許容しなくなる会社は結果的に絶望的な状況になる」とBezos自身も失敗の重要性を強調しています。

2018年のAnnual Reportの冒頭にも添付してありますが、Annual Reportのところをチェックすると、株主への手紙(Letter to Shareholders、毎年ある)の中に

Failure needs to scale too(スケールのために失敗も必要)

という章があり、Fire Phoneについての失敗も書かれています。

実際にAmazonがどれだけの失敗したかを調べるてみると、これまでのイノベーションのうち、下記のようになんと実に1/4あまりのサービスが終了しています(参照:https://www.dhbr.net/articles/-/4957)。

直近2018年に事業を中断したものも調査してみると、

・Amazon Storywriter・Pop-up Stores(Amazon EchoやFire TVのガジェットを売るストア)・Dashボタン・Amazon Tap(Amazon Echoのモバイルバージョン)・Instant Pickup・Whole Foods 365・Amazon Restaurants UK(Uber Eatsみたいなサービス)・Amazon Fresh's Local Market Seller(Business Insiderの記事 https://bit.ly/2E4JB8bを参照)

ここでも8つの事業が中断の決断が成されています。特に「Dashボタン」は日本でも話題になりましたが、3年間であっという間の撤退です。この素早い撤退は、撤退を判断する準備が成されているからこそ

ここからは私の予想ですが、世の中に製品やサービスがリリースされてからの撤退基準がKPIとして決まっているのではないでしょうか。それは成毛さんの著書「amazon 世界最先端、最高の戦略」にも記述されている信じられないくらい厳しいAmazonのKPI管理からも想像に難くありません。

「アマゾンのKPIはもっと極端に細分化して管理している」「システムの稼働状況はもちろん、顧客からのアクセス数、コンバージョンレート、新規顧客率、マーケットプレイス比率、不良資産率、在庫欠品率、配送ミスや不良品率、1単位の出荷にかかった時間などに細分化される」「KPIの数値をもとにアマゾンでは毎週地域単位、グローバル単位で会議が開かれる。その会議では具体的な向上策のみを話す」「各KPIには責任者がいて人事考課にも大きく影響する」「KPIの目標管理を0.01%単位(通常は0.1%単位)でしている」

こうした失敗を許容し、ただ簡単に失敗をさせない厳しさを持って、長年新規事業を生み出すチャレンジを継続できるのは、私がAmazonで一番大好きな思想「Day 1」に宿ると思っています。

・毎日が「Day 1」でなくてはならない・「Day 2」は衰退。とんでもないスローモーションで起こる。・「Day 1」を維持する鍵は、顧客志向・プロセス化への抵抗・トレンドへのアンテナ・迅速な意思決定。

自分のデスクのある建物には「Day 1」と名付けるくらいのこだわり様。大企業病を排除するために、日々戦っているリーダーBezosの想いがこれだけ多くの新規事業を生み出し、Amazonの成長を持続させるとも言えるでしょう。

5)Amazonの財務諸表はこれからも最強の教材

これまで調べてわかったことをベースにAmazonの強さをまとめると、下記に集約されると考えています。

①最小単位でチーム化し、意思決定を迅速化、大企業の弊害を取り除くこと
②失敗の許容を経営者自らが体現し、新しい事業を生み出す投資が継続的に実行されていること
③KPIで徹底管理され、私情を挟まず、事業撤退が迅速にジャッジできること

こういうことを書くと、Amazonだからできるとか、私の所属している企業とは比べ物にならない云々いう方がいらっしゃいますが、そんなことを言ってては何からも学ぶことはできません。

財務諸表からだけでも、たくさんのインサイトがあるはずです。そこから実行可能なものを抽出して、どう自分の会社、自分のチーム、自分の仕事に注入していけるか、は自分の心構え次第で大きく変わってきます。

忘れないでください、Bezosのオフィスもここから始まっている訳です。

あなたは生きた教材からどれだけ何を学びますか?


参考文献(もっとAmazonを知りたい人向け)



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