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「GAFA後の世界を展望する-データ駆動型社会の新しいスタンダードとは?-」 “NHKクローズアップ現代(5月22日放送)で、伝えきれなかったこと”

5月22日放送のクローズアップ現代「追跡!ネット広告の闇 水増しインフルエンサー」というテーマに、出演させて頂きました。ここでは放送時間の都合上、十分にお話できなかったことを補完させて頂きます。

まずはこのトピックの背景にあるGAFAについて簡単に共有させて頂きます。20世紀の世界の経済を動かしてきたものは石油でした。時価総額でも石油メジャーと呼ばれる企業群がトップを走ってきたのですが、この石油メジャー4社の売り上げが2012年にデータメジャーと言われるGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)4社に抜かれました。それからわずか数年で、GAFAはさらに数倍の大きさになっています。例えば多くの日本の人々が知るよりもAmazonの成長速度はずっと早いです。現時点で高い利益率を挙げているのはEコマースではなくAWS(Amazon Web Service)で知られるクラウドビジネスで、そのシェアIaaS(Internet as a Service)の分野で50%以上を占めています。ただ彼らによると、2000年初頭には日本企業にこそチャンスはあったといいます。ただ、既存のサービスとのカニバリゼーションの心配などで躊躇しているうちにチャンスを逃がしてしまったのです。また、日本では優れたコンピュータというと、速いコンピュータを指していました。もちろん速さも重要ですが、クラウド時代には電力効率の良さが重要な要素です。AmazonやMicrosoftはこの点を踏まえた投資を行い、日本の企業が追従することが困難な差を作り上げました。2位じゃだめなのですか?という議論がありました。もちろん1位を目指すべきです。しかしながら転換期においては既存のゲームだけでなく、新しいゲームで1位を目指すことが重要なのです。

GAFAのうち、GoogleとFacebookは現時点で広告収入を主たる収入源にしています。今回の放送でとりあげたのはその中でFacebookの傘下にあるInstagramの課題でした。インフルエンサーあるいは、これからインフルエンサーになろうとしている人達の一部が行う、“フォロワーを買うという行為がどのような影響をもたらしているのか?”その影響を地球の裏側まで追いかけて検証するという内容でした。その結果、立場の弱い人達に寄生するだけでなく、反社会的な組織の活動に手を貸すという実態も見えてきました。ICTは様々なものをつなぐことが可能ですが、これは悪意においても同様です。無関心、無自覚という“小さな悪”が、世界の裏側で“大きな悪”に変わる、という事例でした。

ソーシャルメディアを活用した広告は、世界の広告ビジネスモデルを激変させましたが、これらが急拡大したのは、ここ最近で、未だ様々な課題を抱えています。特にデータやAIを活用して収益を上げることを優先するあまり、フェイクニュースやプライバシーの対応が十分でない、という指摘は多くのサービスにおいて指摘されています。差別を助長するという理由で、既にアメリカでは一部の方法が規制されています。意図的にフェイクニュースを拡散して人々の怒りを引き出し、政治利用する、というケースも知られた悪用です。2019年4月にFacebookのCEOマーク・ザッカーバーグはプライバシー重視の事業戦略を発表しましたが、収益とプライバシー悪用のいたちごっこは、まだまだ続くと考えらます。人々は無料で「つながり」や「楽しさ」、「便利さ」を得ている一方で、個人情報をこれらの企業に提供しています。個人情報の流出というだけでなく、気づかぬうちに差別や悪意の運び手になっていないかも注意する必要があります。

世界がデータ駆動型社会へと移行する中で、今、大きなパラダイムシフトが起きつつあります。これは昨年の5月にEUで施行された一般データ保護規則、通称GDPRが起点となるものです。これまでデータは企業・国などの管理主体のもので、ユーザー側は限られた利用権を持つのみでした。いくつかの企業のデータ利用規約を読んでもらえれば分かると思いますが、データを所有するのは企業、知財も企業、明日データが消えても責任はない、アクセスは一部認めるが保障はしない、それでも良ければどうぞという方針です。これがGDPRによりデータのアクセスや、他の場所への移転などが権利として規定されました。また同様の権利は同時期に、中国全土やアメリカの一部の州でも認められています。これらの権利はいずれ、データ共有権というようなものとして、21世紀の基本的人権になると考えられます。

この原則が社会に浸透することにより、個人の知らぬところでお金が回っていたデータビジネスが、本人への貢献を通じた信頼を得られないと成立しなくなるケースが増えてくるでしょう。これまでのデータ駆動型社会では、巨大プラットフォーマーによるデータ覇権主義に陥りがちでした。ユーザー側は弱い立場ですので、例えばアルコール中毒の患者にアルコールを見せる、重度の糖尿病患者に食事制限がかかった食べ物の広告を見せる、ということが起こっています。既にこれらを制御する技術はあるのですが、現状はお金が回ればビジネスとして成立します。ただ社会の中での信頼がデータ流通の重要な条件となる中では、特に公共的な側面を有するヘルスケア分野においては、どのようにバランスをとるのかは重要となるでしょう。例えばアルコール依存の方に、症状が悪化するような広告は見せないということだけでなく、就寝前数時間は食欲を喚起するような広告は見ない、一定時間以上のウォーキングの後に必要となる水分や栄養補給と関連した広告が表示されるなど、ポジティブな面から牽引することも一考の余地があります。

また技術的には健康以外にも様々な評価軸が設定可能であり、地球環境への配慮を一定程度行っている企業、雇用環境においてdiversityが確保されている企業、という観点から広告やビジネスを持続可能な価値に照らして選ぶことも1つの考え方です。このように世界が変化する中で、Appleも大きな変革を打ち出しました。2019年1月にCEOのティムクックが語ったビジョンの中で語ったことは「未来の人達がappleを思い出した時に、appleの世界への貢献は“健康”となる」と打ち出しました。これまでのスティーブ・ジョブズ時代のアップルの大きな功績の1つは、例としてプログラムコードを書くことができるような一部のマニアの世界だったテクノロジーを、知識や技術がなくとも直感で1歳のこどもから100歳のシニアまで使えるものにした、という点であり、この世界は実現したといえます。Technology for Everyoneの世界がHealth and Wellbeing for Everyoneとして成功するかどうかはまだまだこれからの話ですが、GAFAの一角が転換を計っていることは注目に値することです。健康や安全・安心、自由や生きがいなど持続可能な価値に貢献する中で、人々の信頼を得ることがこれからのデータ駆動型ビジネスにおいても重要となるでしょう。


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