慶應義塾大学病院_超打合部屋計画_6

「データルネッサンスIII -"生きる"を再発明する -」

個人を軸にしたデータ活用をひらくことにより、Sustainable Shared Valuesそのものも発展していくでしょう。例えばそれは、健康の価値観そのもの変容です。これまでは特に公的組織が“健康づくり”をかけ声に、いろいろな施策を実施してきましたが、残念なことに「健康になろう」とのと掛け声に集うのは全人口の一部です。介護予防教室を開くと、満員盛況なのですが、そこに来るのはすでに健康意識が高いシニアの方々です。改善が必要な不健康な行動を取っている人に届く対策は困難でした。多くの人々にとっては健康とは、人生を幸せに生きるための手段です。80歳になって、楽しく、若い人とおしゃべりしていたいのか、あるいは、趣味の山登りを続けたいのか、その2人に必要な健康は違います。前者は多様な情報にアンテナを張り、コミュニケーションできる能力であり、後者は強靭な足腰です。自分は何をしたいのか、人生をどう生きたいのかというところに寄り添っていくことで、一人ひとりの健康の意味が見つけることができるかもしれません。

楽しさの先に健康のスタイルを見いだす、先日紹介した「ポケモンGO」はその事例の1つです。ゲームを通して外に出る習慣を身につけるだけでなく、活動量の維持や社会的なつながりの獲得など、楽しさと健康のサポートを両立させるチャレンジが続いています。個人を軸に様々な環境データやユーザー間をつなぐことにより、今後は四季の自然を楽しむ、おいしいものを食べに行く、名所名跡をめぐるなど、人々が感じる多様な楽しさに合わせながら、自然に健康な行動を取っているようなソリューションも創出することができます。また身体面のフレイルを把握する上で最も重要な指標となるのは、通常歩行速度です。フレイルチェックなど様々な追加コストを払ってこういった情報を調査、把握していましたが、実はその情報は既に1人1人の携帯電話のログの中にあります。APPAという考え方の下で迅速かつ安価に、通常歩行速度という形でデータ値を抽出し、ヘルスケア専門家と共有することが可能です。歩行速度は秒速0.8m未満が健康リスクとなるようなラインと言われていますが、今後はもっと早いタイミングでサポートを受けることが可能となります。

疾患対策も個人を軸にしたデータ活用によって発展させることが可能です。例えばCOPD(慢性閉塞性肺疾患)については適切な診断・治療が行われているのは、本来必要な患者の1割未満であるといわれています。いままでは「人々はもっとCOPDを知るべきだ」、あるいは医師に対しては、「再教育の機会を通じて、新しい知見を得るべきだ」という論調で取り組みが行われ、ギャップはなかなか解決しませんでした。一方で検診の場面で個人を軸にしたデータ活用して問診をサポートすれば、医師と患者をつないで新しいサポートを提供することができます。この時両者にCOPDに対する十分な知識がなくても、精密検査の実施をナビゲートし、適切な治療の導入をサポートすることが可能となります。またCOPDは朝の咳が重要だと言われます。目覚まし時計代わりに使っているスマートスピーカーで、起床後の咳を録音しておけば、本人が自覚していない段階から徴候を発見し、早期にサポートすることができるかもしれません。症状を自覚し、その後に本人が医療機関にアクセスするようなケースでは、時に手遅れになってしまいます。APPAという考え方の基でデータを活用し、より早期に徴候を発見し、適切な治療に導くというような取り組みも有用になります。健康そのものを意識して、健康増進に向けて皆が同じように取り組む世界に加え、一人ひとりのライフスタイルに寄り添う形で、そっとサポートしていくような仕組みが今後は登場してくるでしょう。

今後はSSVsのHealth and Wellbeingという軸においては、エンターテインメントや仕事、趣味などいろいろなモジュールとつながりながら、新しい価値が創出されることになるでしょう。人々を中心にしたデータ活用やSSVsを通じたデータ共有で価値共創を共創することで、手段としての健康を手に入れ、「生きる」ということを再発明できるかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?