国立国際医療研究センター_1

「大阪万博2025で見いだすべき世界I -SDGsの先のビジョンとは何か? -」

2025年に開催が決定した大阪万博にあたっては、私は大阪府の「大阪万博基本構想会議」のメンバーとして、参加させて頂きました。また先日も経産省で開催された万博関連の会議において、ヒアリングを受けましたので、ここで考えを共有させて頂きます。日本人が集まって話をすると、万博の話であっても、日本の産業振興、日本の将来といった、日本目線の話になりがちです。これももちろん重要ではあるのですが、日本目線だけで語っても、世界には通用しません。日本目線を踏まえて、世界に向けて何を打ち出していくのかという視点が重要になります。大阪万博2025年の基本構想会議が始まった当初、開催候補のライバルはパリでした。私からは、「例えばパリが、難民・移民で揺れる世界に対して、“いまこそ自由・平等・博愛を高めて世界をつなぐ!”と提案した場合に、日本はそのコンセプトに対抗できるでしょうか?」という問いを立てさせて頂きました。結局パリはマクロン政権の思惑で立候補せず、大阪・関西万博として開催権を獲得できましたが、今後はテーマを磨く必要があります。目下最大の比較対象は、直前に開催される2020年ドバイ万博です。ドバイ万博のテーマは「Connecting Minds, Creating Future(心をつなぎ、未来を拓く)」であり、予算規模としても恐らく2025年大阪の倍以上の額が積まれています。大阪では同じようなことを、繰り返すのではなく、その先の世界を示していくことが必要になります。ここでは大阪でテーマの中核に据えている、SDGsとSociety5.0に絞って、検討したいと思います。

ドバイにおいても、サブテーマとしてSustainabilityが掲げられています。SDGsは2016年から2030年の国際目標として掲げられているものです。2020年は良いとしても、2025年は達成期間の終盤にあたり、次なるビジョンが必要になります。ここでまず大阪万博の中核テーマであるいのち、健康に近いSDG3のHealth and Wellbeingについて見てみます。個別目標を見てみると、”3.1: 2030年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満に削減する”、”3.2: 2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する”、などもちろん素晴らしい目標です。一方で3.4を見ると、“2030 年までに、非感染性疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて 3 分の 1 減少させ、精神保健及び福祉を促進する”という目標設定があります。ここで注目すべきは“若年死亡率”と限定している点です。SDGsは途上国も含めた世界全体で掲げる目標であるため、「いのちを消さない」という優先順位としては、この点は正しいのと思います。ただ、これらの目標のみ考えた先に、超高齢化社会に突入する日本の未来がひらけるかというと、そうではありません。例えば日本社会では認知症の治療やサポートに公的私的な費用を合わせて、現時点でも年間14.5兆円を費しているという試算があります。高齢化の進行に伴う新たな社会課題の中で持続性を見いだすことは日本社会にとっては必須です。また世界で最初に大規模な超高齢化社会となる日本は、世界の Mirror of the Futureであるとも言われています。EUの多くの国々、中国をはじめとするアジア諸国も、今後数十年の中で超高齢化に確実に直面することになります。この時SDGs3については、高齢者やマイノリティの視点、疾患という単位だけでなく健康な時からのサポートという視点が必要になってきます。

万博のテーマになぞらえていうのであれば「いのち消さない」というだけでなく、「いのち輝く」という視点で、新たな目標を設定することが必要です。これは例えば“病気や社会的な格差があっても、それが人生の障害と意識することがない”ということや、“魅力的な生き方を追求する中で、自然と健康になることができる”、という視点かもしれません。ここではSDGsのその先として「Sustainable Shared Values(SSVs)」という言葉をあてて考えてみます。SSVsではHealth and Wellbeing などSDGsと同様のカテゴリ設定を行う方針で良いと思いますが、“妊産婦死亡率の軽減”という途上国を軸にしたminimalな目標に加え、“生きがいを支える健康“、”楽しさの先にある健康“というような、新しい豊かさの視点から目標を検討することも必須です。「いのち輝く」という視点から考えた時に、新たな豊かさとは何か、世界の国々と対話して考え、可能性を提示していくのが2025年大阪万博までの1つのミッションになるでしょう。また万博の期間の中で「いのち輝く」について、価値を共創し、提言を行うことができれば、SSVsというような形で次の平和と経済の行動規範の議論を日本がリードすることができるかもしれません。超高齢化社会到来後の社会像についても、日本が国全体で2025年までにモデルケースを作りながら、世界の未来の一端を見せる、あるいは各国と共創してそれぞれの地域の未来を見いだすことは世界にとっても意義があります。またこの過程で築いたネットワークやコミュニティは大阪・関西万博のレガシーになると思われます。


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