予防医学校舎教授室_8

「何を食べ、何を着て、どう過ごすのか? -世界の未来とリンクして、生き方をデザインする時代-」 “NHKクローズアップ現代(6月12日放送)で、伝えきれなかったこと”

6 月12日放送のクローズアップ現代「ノープラ生活やってみた(プラスチックゴミ削減への挑戦)」というテーマに、出演させて頂きました。ここでは放送時間の都合上、十分にお話できなかったことを補完させて頂きます。

この回は、「食品ロス(4月3日放送)」に続く、“やってみたシリーズ”です。プラスチックを減らすだけでなく、“ほぼ使用しない”という極端な状況で生活を行うことにより、どこまでの削減が日常生活の中で実現可能なのかを探りつつ、またプラスチックの価値を再確認するというものです。シチュエーションコメディならぬ、シチュエーションジャーナリズムと、一部のスタッフは呼んでいます。

脱プラスチックにおいて重要な視点の1つが、目の前の便利さのツケが途上国に回り、積もり積もって世界に影響を及ぼし始めている、というものです。番組でも少しお話したのはファッションの領域で途上国への搾取が、先進国の人々の目を覚ました事件です。2013年にバングラデシュで発生したラナ・プラザ崩落事故では、警察が退去命令を出した倒壊の恐れがある建物であるにも関わらず、縫製工場が稼働を続け、結果建物が倒壊し1127人が亡くなりました。この異常な状況を生んだのは、低価格生産を実現するための、グローバル企業からのプレッシャーでした。生産効率が落ちることを恐れた経営者はリスクを知りながら稼働を強行し、出社しなければ解雇する、という脅しを従業員にかけて発生した事故は、先進国の欲望が生んだ人災といえます。この事件の後ファッション業界の考えは大きく変わりつつあります。立場の弱い人達にリスクを押しつけて成立するようなスタイルはかっこ悪いだろう、目の間にある商品が、どのような過程で自分にたどり着いているかを考えた上で、何を選ぶかが、エシカルかどうかは重要な基準になっています。

ファッションの話題になったので、宮田についてよく聞かれる質問にお答えします(ご関心のない方はこのセクションは読み飛ばして下さい)。それは「どうしてあんな奇抜な格好で、NHKに出ているのか?」というものです。理由はいくつかありますが、1つは、“価値創造社会”に向けての志です。昨年に公表された経団連のSociety5.0ビジョン作成にあたっては、宮田もディスカッションさせて頂きました。テーマは「ともに創造する未来」であり、Society5.0は人間中心の“価値創造社会”と提示しています。これを受けて、「多様な価値、新しい価値を創るのに、皆同じ格好では少し変ではないか?」「シリコンバレーの人達がTシャツを着るのには楽だからという理由もあるが、肩書きをとって自由に発想するという部分もある。皆がスーツを着ると社会的ステータスが生地や仕立てに直結し、若者は格好の時点で萎縮し、シニアはたいしたことを言っていなくとももてはやされる。これがTシャツだとそうはいかず、中身で勝負しなければならない」などのディスカッションもありました。もちろん営業職のように組織を背負って相手側の価値観に寄りそう仕事のドレスコードが厳しいのは仕方ありません。ただ多様な価値の中で、新しい社会を見いだすためには、それ以外の選択肢も必要でしょう、ということで多様性を意図的に表現するスタンスをとりました。もう1つは番組制作者側からの指定です。「宮田さんは、宮田さんらしい格好でおいで下さい。特にスーツはアナウンサーで十分ですので、それ以外の方が良いです。」このような指定の中で、宮田が自らの縛りとして入れたのが、テーマを選定したスタッフと視聴者へのリスペクトを込めて、テーマに合わせたスタイルを選ぶというものです。(このスタイルについて、別ページをご参照下さい。

持続可能な社会という世界の課題から考えると今回取り上げた脱プラスチックの中にも様々な課題があります。途上国に対する搾取、生態系の保全、人々の健康と働きがいなど、便利さや価格の裏側には、世界との様々なつながりがあり、それらを意識して行動しようというのがSDGsとして知られるsustainable development goalsです。私たちが意識していなくとも、何を食べて、何を着て、どう過ごすかは世界に影響を与えています。1人で全ての目標を意識して行動するのは、とても難しいですが、これらの1つでも意識して、何か行動してみることが重要です。

SDGsなどの社会目標においては、ほとんどの場合「1人1人が意識をもって行動しよう」というお決まりの言葉で締めますが、やはりこれは重要です。他のアプローチとしては「個人が意識しなくとも問題が解決するシステムの構築」という視点もあり、これが実現できれば非常に強力ですが、そう簡単には組み込むことができません。脱プラの場合には「環境に優しいプラスチックで、全てのプラスチックを置き換える」というような方法が、このアプローチの代表例です。しかしながら現時点で、バイオプラスチックの多くは現実の自然環境で十分に分解しないという品質の問題があり、生産効率の低さから、短期に問題を解決することは困難です。また先日「カナダが2021年までにストローやレジ袋などの使い捨てプラスチックを禁止する」という政策を発表しましたが、便利さを引き換えにするこのような政策を実現する上でも、人々の支持が必要です。意識しなくとも取り組めるシステムアプローチとともに、個々人が選択して方向性を決めていくというアプローチも大きな意味を持ちます。持続可能性のない社会につながる製品やサービスを選ばない、という消費行動は企業に大きなインパクトを与え、ある段階から業界全体の意識を変えることにもつながるのです。

ただやりがいや実感を感じなければ個人の努力を続けることは困難です。今回の放送のようにSNSで互いに呼びかけることも一案でしょう。番組では、グルメサイトの発展系の可能性についてお話しました。これからの技術でいえば、電子決済などのデータを活用するという方法も可能になります。日本も遅まきながら、レジ袋無償配布に制限をかける法令を準備しています。これらデータを活用すれば、“個人が買い物に対してどの程度、プラスチックのレジ袋を使わなかったのか?”という数値や割合を算出することができます。環境貢献の割合に応じてポイントを設定する、通常の金銭では購入できないようなサービスや製品を提供する、貢献分を寄付として特定の社会活動に用いる、など様々な形で活動をデザインすることが可能になります。中国では既に低炭素行動に応じて、ヴァーチャルで「木が育ち、一定ポイントを超えると現実世界の砂漠に植樹される、というアプローチで行動改善に取り組む例もあります。日本の電子決済はユーザーの囲い込みという企業の思惑で争いが加熱していますが、プラットフォームを用いてどのような社会を実現するかのビジョンも本来は必要です。

すでに様々な取り組みの可能性を挙げさせて頂いたように、脱プラスチックに向けた取り組みも、1つだけではありません。国や行政に任せるだけでなく、ネットワークやデータを活用することによって趣味やライフスタイルが近い人達で工夫したり、業種ごとにアイデアを出したりと、地域や国を越えて、様々な取り組みをデザインすることが重要ですし、これが新しい民主主義の1つのスタイルとなっていくのではと感じています。


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