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「未来社会のデザインとは? -世界経済フォーラムのサマーダボスで感じたこと-」

2019年の7月1日-3日において開催された世界経済フォーラムの定期会合の1つである、Annual Meeting of the New Champions 2019(AMNC2019)に参加してきました。私は”Healthy Data”のセッションで、パネリストとして発表し、またいくつかのセッションに参加させて頂きました。第四次産業革命センター日本センターの皆様、大変お世話になりました。この場を借りて御礼を申し上げます。またチームで作成した事前資料については情報共有の用途して、先日このスペースに共有させて頂きました。AMNCは日本では通称サマーダボスと呼ばれ(Championsという猛々しい響きに日本人は気後れするのかもしれません。米国ではChampionはリーダー的な意味合いで使う語彙のようです)、これまでは中国の大連と天津で交互に開催されています。今年は大連で開催されたのですが、会場がこの会合のために作られ、中国の参加者が3分の1以上を占めるなど、開催地としての中国の力のいれ具合が明確でした。 

一方で昨年までは目立っていたAlibabaやTencentからの参加者がほとんどいなかったことも特徴的でした。これは本会合であるダボス会議と対比して、サマーダボスが成長企業や次世代リーダーに重きを置いているからというのも理由の1つかもしれません。中国の巨大新興勢力が抜け、米中貿易摩擦の緊張が持続する中で、会合は次の世界のあり方を探るような雰囲気であったと感じました。未来の社会像については、都市の発展に関わる話題提供が大多数を占めるなか、それ以外の可能性についても意見がありました。都市を発展させる中でデータを活用する重要性も多く挙げられますが、データの活用においては信頼が必要です。この信頼を担保する価値が1軸で良いのか、多元的ではないか?という議論もありました。本稿ではこの点について、検討したいと思います。

巨大都市に人々を吸収していく都市化モデルの先の可能性について、先日はテクノロジーを活用した地方の可能性について言及しました。本来はスマートシティだけでなく、スマートヴィレッジだったり、あるいはもう少し小さい単位としてのスマートコミュニティだったり、また単独のエリアとしての発展だけでなく、ネットワークとして相互の価値を高めるスマートネットワークというものも選択肢としてあっても良いと考えています。スマートコミュニティのチャレンジの1つとしては、ヤマト運輸が空洞化しつつある団地エリアで挑戦する事例をあげることができます。少子高齢化と人口減少が進行する日本において、限られた医療・介護の専門職だけで社会を支えていくことには限界があります。ヤマト運輸が日本郵政や佐川急便などのライバル企業と連携して、団地の高齢者への見守りを行う取り組みは、民間が支える社会システムとしても興味深い取り組みです。

こうした取り組みのマネタイズは簡単ではなく、まだ道は長いというのが実情です。しかしながら社会の未来を考えた時に、大きな意義があるものです。例えば今後、IoTを活用した処方薬の管理と連動するという事業を加えることでこのネットワークに新しい価値を組み込むことができるかもしれません。慢性疾患を持ち定期的な通院を行う患者さんが、医師とコミュニケーションができる時間は、月一回の問診の数分間など極めて限られたものです。その限られた時間で、必要な症状や徴候を効果的に伝えることができるかというと必ずしもそうではありません。直前に気になったことに気をとられる、忘れる、症状はあるが自分で十分に把握できていない、、、等の様々な理由で十分なコミュニケーションを行うことが困難です。この時例えば、日々自宅を訪ねる宅配スタッフがIoTと連動したシステムを用いることで、薬の服薬状況、副作用は出ていないか、症状は改善しているか、などの声がけ確認を行うことが可能になります。これにより限られた時間の医療者とのコミュニケーションの価値を高めるだけでなく、症状が悪化した時などより適切なタイミングで医療者につなぐことが可能になります。

実は世界では、新しい見守りの仕組みで成果を上げた事例が既にあります。がん患者は再発への恐れや様々な理由から再受診の機会を失い、そのためにがんが更に進行してしまうことがあります。それは決して患者本人のせいではありません。そこで、がんの再発徴候管理にICTを活用する方法を、米国のある病院が導入しました。定期的に送られてくる質問にWeb経由で答え、再発の兆候がみられたら、病院に来るよう指示するというシンプルな仕組みです。ただこの仕組みががんの生命予後の改善を実現しました。上記のヤマト運輸のチャレンジも、工夫1つで新しいエコシステムに転換できる可能性があります。このようなネットワークを構築することで、ものを届けるという既存の取り組みが、人々を支えるという新たな社会インフラが発展するかもしれません。既存の行政組織が、空洞化する団地だけをターゲットにして取り組みを行うことは簡単でありません。一方で民間企業であれば、全国にある同様の団地の間でネットワークを構築し、ビジネスモデルを構築することが可能です。ここでは都市化の先にある社会デザインではMulti-layered Communityの可能性を考えたいと思います。

また全世界に多くのユーザーが存在する『ポケモンGO』もMulti-layered Communityの新しい可能性を示すものです。初期に行われた研究結果から、アクティブユーザーはアプリ導入以前より2~3倍は歩いている事が分かりました。ただしばらく後にゲームに飽きてその効果は有意なものにはなりませんでした。しかし『ポケモンGO』は日々進化しています。当初は画面を開いている時しか歩数をカウント出来なかったのが、今ではアプリを閉じていても歩数はカウントされるようになりました。最近発表された実証研究では活動量の向上を示した研究も出始めています。行政が『ポケモンGO』ユーザーだけをターゲットにした施策を打つことは難しいですが、世界で8億5千万ダウンロードの実績があるユーザーを、楽しみながら健康にすることは、重要な社会貢献であるといえます。開発にあたるNiantic社の方針は「人々を動かしてビジネスモデルを創ること」というものです。人々への健康というような持続可能な価値への貢献を通じてデータを駆動させる取り組みは、信頼を通じたデータ活用であり、ポストGDPR時代を象徴するものです。もちろポケモンを通じて歩くことを楽しむのは生き方の選択肢の1つで、様々などアプローチが世界には必要です。四季を楽しむ、おいしいものを食べに行く、歴史探訪を楽しむ、人はいろいろな目的で街を歩きます。そういったそれぞれの嗜好に合わせたソリューションを提供することが、健康に寄与していくことになるだろうと考えています。またポケモンの世界も、”歩く”というだけでなく、”睡眠を娯楽にする”ポケモンSleepなど、実世界の様々な価値につながっていきます。Multi-layered communityという考え方でつながることにより、人々の生き方を多様な形で支えることができるでしょう。

このようにエリア単位の既存の行政モデルだけでなく、類似の特徴を持つコミュニティや、同様の価値観を持つ人々を多層型ネットワーク(Multi-layered Community)によってつなぎ、ライフスタイルをデザインしていくことは、社会システムにおける新しい可能性となるでしょう。ヤマト運輸やPokémon Goの取り組みに共通するSSVs(Sustainable Shared Values)は健康です。これらの取り組みの価値を高めるためには、健康診断や受診記録、介護保険の需給状況など、様々なデータを安全に活用する仕組みが必要になります。健康への貢献を示すことによって、人々は安心し納得しながら、こうした企業と連携を行うことが可能になります。またSSVsについても健康だけでなく、安全や教育、自由とプライバシー、労働待遇、環境への影響など様々な価値への貢献を検討することが重要です。今まではわかりやすさの観点から、都市の評価は、多くの場合最終的にランキングで評価されてきました( 例1,例2)。もちろん、ランキングトップの都市を目指すのは悪いことではないのですが、目指すべき社会の姿は都市やエリア、コミュニティによって考えが異なると思います。

ある都市では治安の維持を優先して、自由を制限するかもしれませんし、あるコミュニティでは失敗した時のフェイルセーフを手厚くする代わりに税率を上げるかもしれません。全てのパラメーターが高いコミュニティを目指すことも一案ですが、特徴のある“とがった”コミュニティを目指すこともまた、1つの考え方だと思います。この時、グローバルネットワークの中で目指すべき姿が近いコミュニティで連携をしていくことも一案です。物理的距離が近いコミュニティ同士が連携し、それぞれが異なる特徴をもつが、全体として”誰もとり残さない”インクルーシブなネットワークを構成するということもエリアとしては1つのアプローチだと思います。都市化の先の世界では、多様かつ多元的な価値の共創を行っていくことが重要になります。Multi-layered Communityによる社会デザインは、ボトムアップ型の民主主義システムの新たな可能性になると思います。

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