2021年1月の緊急事態宣言に向けて共有したいこと

A.医療か?経済か?の分断から抜け出すために

現状の特措法の枠組みの中で、感染拡大を抑えるためには、出来る限り多くの人々が納得してブレーキを踏むことが重要です。新型コロナウイルスの流行の第1波以降、多くの場面で議論がこじれる元になっているのが、医療か、経済か、という2項対立です。ここで医療側に近い位置づけにいる私から改めて強調したいのは、経済の停滞によって失われる命も同時に新型コロナウイルスの感染症対策の一環として考える必要があるということです。

行動制限や自粛要請で発生する被害も、感染症の影響であり、そうした面に考慮した対策が打てなければ、多くの人達が納得してブレーキを踏むことが難しくなります。医療を守ることももちろん重要ですが、市場のバランスで調整できない業種や働き方へのサポートを行うことも国家や行政の重要な役割として捉えた対策が必要なのです。

B.今回の緊急事態宣言は2020年4月の時とは異なるバランスが求められる

第一波以降世界で科学的証拠を積み上げた結果、有効な対策が様々に同定されてきました。

図1のコピー

既に感染拡大フェーズに対して有効な手を打った北海道や大阪の対策も首都圏には参考になります。今回の緊急事態宣言は全ての活動を止める全面的なブレーキを必ずしも踏む必要はありません。一方でその代わりに飲食店や観光業には極めて不平等な対策になります。こうした偏った負担や痛みにどのように向き合うかを含めて緊急事態宣言のプランとする必要があります。

経済的な損失を被った事業者に対しては例えばGo Toの実績に応じたサポートを行うことで、一律給付よりも公正にサポートを行うことができるかもしれません。当然このアプローチだけで十分に配慮できるわけではなく、様々な打ち手が必要でしょう。また現状の枠組みで対応困難な部分については特措法の改正や財源の確保など、制度的な調整も含め、できるかぎり迅速な対応が必要だと思います。

C.その上で医療への負荷を適切にコントロールしなければならない

医療崩壊という言葉は時に情緒的に使われ定義も一貫しない部分があります。現実的には医療提供体制の逼迫には幾つかのプロセスがあり、これらが同時進行して危機が顕在化していきます。
例としては下記の3つです。

1.陽性者が医療に到達できなくなる
2. 重症者がECMOなどの高度医療に到達できなくなる
3. 医療側に感染が大きく拡がり、人々が全ての医療に到達できなくなる

日本で現状顕在化しつつあるのは1の部分ですが、ドイツはすでに2も含めたプロセスが深刻化し、11月以降死亡率が跳ね上がっています。

図2

一度崩壊すればそれで終わりではなく、どんどん厳しい状況に移行します。従って崩壊するかどうかということではなく、如何に手前で逼迫を抑え続けることができるかという、継続的な課題として捉える必要があります。

D. 第3波の対策に間に合わなくとも短期間で実現すべきこと

第1波の時に指摘したのですが、第2波がほとほどの対策で小康状態にはいったために、進捗がゆっくりになった、または塩漬けになっている対策があります。これらの中で今回の第3波の対策に間に合わなくとも短期間で実現した方が良い事項もあります。特措法の改正、検疫機能の強化、保健所への(特に人的側面での)サポートは多くの方々が指摘する通りです。また地域医療において、負担が一部に偏りすぎることのない機能連携も重要でしょう。また次の流行時に一律の休業要請を行わなくとも済むように、事業者の感染対策の実態把握や感染対策の取り組みのサポートなどもデータ化し、リアルタイムで対策を打てるような状況にする必要があります。

E. ワクチンの摂取が始まったとしても、感染拡大の抑止効果が出るのは数ヶ月以上先

現状12月にワクチン接種が始まったイギリスでは、感染拡大への抑止効果がでるのは数ヶ月以上先だと予測されています。イギリスでは高齢者の優先接種が一段落するのに数ヶ月かかるという目処が示されました。一般への摂取はその後、収束できるかどうかが判明するのはもっと先になるということです。こうした他国での状況を踏まえると、日本で2月末にワクチン摂取が始まったとしても、ワクチン摂取のみでは今回の第3波を収めることはできないと想定した方が良いでしょう。当面は感染予防政策を軸にコロナと向き合う必要があるのです。

F. 変異ウイルスが市中感染に入るシナリオも想定すべき

現在日本では、英国・南アフリカからの帰国者・入国者は出国前検査、入国時の検疫を受けます。2つとも陰性でも検疫所が用意した施設に3泊4日停留し、さらに検査を受けます。3回とも陰性で入国後14日の自宅等待機+公共交通機関不使用というプロセスに入るのが現状の対応ということです。このように日本の検疫は、現状で与えられた権限の中で最善を尽くしています。ただ強制力なども限定されており、また変異ウイルスの潜伏期もいまだ明確ではないため、検査をくぐり抜けて市中感染が発生する可能性はあります。

変異ウイルスを100%食い止め続けることは簡単ではありません。従って市中において変異ウイルスが確認されるシナリオも想定する必要があります。変異ウイルスが拡がった後の英国の感染者数の増加は警戒すべき上昇速度です。

図3

図4

一方でgoogleの行動データを見ると、ワクチンの承認とともに英国では予防行動も同時に低下しているので、どこまでが変異ウイルスの影響かは現時点で明確ではありません。

図5

しかしながら実効再生産数を0.4上げるという可能性には特に注意が必要です。こういったフェイズの変化に備える上でも、第3波を早い段階で収めることは重要だと考えています。

2021年の最初の試練が日本の未来にとって前向きなステップとなるよう、私自身も微力ながら取り組みたいと思います。引き続き宜しく御願いします。

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