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「データルネッサンスI -G20大阪トラックの先に続く道-」 “NHKクローズアップ現代(2月26日放送)で提示したビジョンは実現できるのか?”

データガバナンスにおける第3の道については2019年2月26日放送のクローズアップ現代「トランプの圧力を逆手に取れ! 中国の“構造転換”」の中でもお話させて頂きました。その時の発言を下記にそのまま引用します。「まさに今、ダボス会議で知られる世界経済フォーラムでは、日本が示す第三の道に注目が集まっています。米中対立の背景には、新しい石油だといわれる、データの覇権を巡るという対立があります。GAFAが石油メジャーの売り上げを抜いて、これは2013年ですが、そこから3倍、4倍になったと。中国は今、国家単位でデータというものを作り、握りにいっていると。これに対して日本は、データを共有する中で新しい価値が生めるのではないかと提案しています。」私自身も様々なチームワークの中でData Free Flow with Trustというビジョンの共有と具体化に向けて、微力ながら検討を進めています。その一環の1つとして、2019年6月に開催されたG20関連会合に出席し、お話させて頂きました。1つは財務大臣関連会合のInsurance forum 2019
です、もう一つはヘルスケア関連会合であるHealth 20 Annual Summitです。

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Health 20の会場は、机がしょぼいと話題になった本会合よりも立派でした。右側前列3人目が宮田です。ビジネスアタイアのドレスコードがあるので流石に宮田もスーツです。

日本側の貢献についてCall to Actionや、参加メディアのレポートなどにポジティブにまとめられています。またG20の宣言については既に様々な報道でご存じかと思います。データガバナンスに関連しては事前の予告通りData Free Flow with Trustの方針が採択され、データガバナンスについて大阪トラックとして検討されていきます。ここでは会合の特徴に配慮して、“国や参加者の誰々が何を言っていた”“ということではなく、”我々(第四次産業革命センター日本支部、慶應義塾大学サイバー文明研究センター)がチームとして何を考えているのか“をお話したいと思います。

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これまでのコラムで述べさせて頂いたようにGAFAも中国もEUも、それぞれインパクトのあるデータ駆動型社会像を打ち出している一方で、それぞれの視点に課題があります。GAFAに代表されるような企業主導モデルは、市場価値の創出については優位性があります。一方で巨大プラットフォーマーによるデータ覇権主義に陥りがちなモデルが公共的な側面を有するヘルスケア分野において、どのようにバランスをとるのかは簡単ではありません。アルコール依存症の方に、アルコールを勧めるようなアドテクノロジーの今後を考える必要があります。中国では企業と国家が一体となった取り組みにより、「信用中国」など新たな価値を生んでいますが、国家側に寄った過重なバランスは、監視社会への進行とともに価値の多様性を失うリスクを有しています。このような中で2018年にEUで施行された一般データ保護規則(General Data Protection Regulation, 以下GDPR)は、非常に重要な一石を投じました。従来は政府や巨大企業が保有していたデータが、個人を軸に流通するようになるというパラダイムシフトです。この中核となる“データポータビリティ”や“データアクセス権”は、いずれ“データ共有権”というような概念として、21世紀の基本的人権になりうる重要な要素です。しかしながらGDPRにも課題があり、それはデータをどう流通させるかという具体的なルールやシステムの運用についてです。

例えば石油であれば、これは私の油田で、あなたの油田は別のところにあるものですという、いわゆる排他的所有を軸にすればよかったのです。しかし、データは排他的な所有物という観点から考えるだけでは不十分です。1人の患者データから何かを考えるよりも、1000人のデータを集めて考える方が、より良いサービスを提供できるのです。このようにデータは共有財とか公共財に近い価値を持っており、そのためのルールが必要なのですが、EUのGDPRではまだ有効な運用は実現していません。むしろ、GDPRの今の概念は、市場によるデータ活用を足止めするような形になっていて、ポジティブにデータを活用するようにはなっていないのです。そこで“Data Free Flow with Trust”はこのような文脈において、重要な考え方になります。

日本が提示するデータガバナンスにおける新たな道「大阪トラック」は、個人の尊重(EU型)、市場価値の創出(GAFA型)、社会における価値の実現(中国型)の長所をバランス良く導入することが良いと思います。日本のヘルスケア分野でも、「保健医療2035」という厚生労働省と有識者が一緒に作成したビジョンがあります(宮田もメンバーを務めています)。これまでの厳しい社会契約モデルだと、本人と国家の契約という考え方の中で、健康についても自己責任論に向かってしまいます。しかしながら個人と国家というレベルの間には実際には、職場や家庭、趣味の集まり、地域社会など、さまざまなレイヤーがあります。このようなさまざまなレイヤーで個人を支えていこうとする、“主体的な選択を社会で支える”という理念が「保健医療2035」にも掲げられています。つまり個人の尊重、市場価値の創出、社会における価値の実現の長所をバランス良く導入することで、ボトムアップで多様かつ多元的な価値を共に創る基盤を構築することができます。これによりデータを、あらゆる立場の人々がだれも取り残されることなく、その人らしく生きる社会に向けて活用することができます。

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そして、「社会を変革しなければ、日本はもはや先のない国である」という事実は、逆説的に日本の強みでもあります。世界が転換点を迎えている中で、現状の延長線上で発展を考えることが可能な諸外国と異なり、日本は社会全体の構造を変えないと先がありません。超高齢化、少子化、低い経済成長、人口減少など、全てがネガティブな方向に向かっている国は世界でもわずかです。例えば高齢化問題であれば、北欧をモデルにすればいいのではないかという意見がありますが、実際に日本の現状は北欧より深刻です。例として共同研究を行っているスウェーデンの研究者達からは「日本って大変ですね。我々は少子化といっても出生率はそれほど低くなく、人口は移民もあって増えています。高齢化といっても日本ほどではありません。頑張ってくださいね。」、というコメントを頂きました。日本の未来は、どこかの地域を手本に後に続くというアプローチではなく、独自に切り開かなければならないのです。一方で日本の直面している課題は、Mirror of the Futureと言われており、今後世界が直面する課題です。世界の人々は、今は他人事としつつも、明日は我が身として、日本の挑戦に非常に注目しています。このような観点から、個人の価値、市場の価値、社会の価値という“三方に加えて、未来もよし”という視点が日本に必要になります。持続可能な社会といった未来への軸も入れて社会を共創していかなければなりません。Society5.0に掲げられている“ともに創造する未来”という視点も、このような現状認識につながるものです。

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