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外国語学習アプリ Duolingoはどうやってユニコーンに成長した?クラウドソーシングの醍醐味

2020年4月、コロナ禍という状況の中、外国語学習アプリ Duolingo が$10M(約10億円) の資金調達をした。Valuationは非公開だが、前回ラウンドの$1.5B(約1500億円)より高かったと言われている。

EdTech業界を見ると、マネタイズに苦労していたり、スケールに時間がかかったりする企業はとても多い。教育の結果が見えるまで時間を有するため、ユーザーには途中で飽きずに継続してもらう必要もある上、限られたリソースの中、教育の質もちゃんと担保しないといけない。EdTechを成功させるには多くの課題がある。

しかし、Duolingoはコロナ時代に入ってからさらにユーザーが急増し、すでに黒字化していると言う。一体どのようにしてこの成長を遂げたのだろう?

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(2020年3月からのDuolingoのユーザーの伸び。Duolingoのブログより

そのヒントには、クラウドソーシングにある。そして、それはあのセキュリティ認証機能のreCAPTCHAにも共通している。

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今回、学びの元となったのは、こちらの2つのポッドキャスト。ほぼ同時期に、両ポッドキャストよりDuolingo CEOのLuis von Ahn 氏とのインタビューが公開された。

1) How I Build This with Guy Raz より "reCAPTCHA and Duolingo: Luis von Ahn"

2) Masters of Scale より "A Masterclass in Crowdsourcing: Duolingo's Luis von Ahn"

Duolingo って?

まず簡単に、Duolingoのご紹介から。

Duolingoは、外国語学習サービスです。ユーザーは無料で、アカウントを登録すればすぐに学習を始められます。あらゆる外国語のコースが準備されており、気軽に使える、近年人気急上昇中の語学学習サービスです。

DuolingoはEdTechスタートアップの中でも伸びが著しく、前回ラウンドのバリュエーションで分かる通り、現在はユニコーンになっている。

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Duolingo を生んだ Luis von Ahn 氏

Luis von Ahn 氏はもともとグアテマラ出身。大学は米国の名門校 Duke University に進学し、数学を専攻。当時より、数学の研究者を志し、そのままCarnegie Mellon University で博士号を取得。(ちなみに、数学の研究者になりたかった理由が、「人とあまり接さなくて良いから」だそう。笑)

実は、18歳の大学受験時の経験が、Duolingo の原点でもある。

当時、彼は international student として、アメリカの大学受験時に英語力を証明する TOEFL を受験しないといけなかった。(これは今でもそう。)しかし、グアテマラではなかなかTOEFLの試験場が用意されていない。しかも1回受験するだけでも高額を払わないといけない(現在は$235/回)。自分の英語力を証明するだけのために、大変な準備と労力を要されたのだ。

言語学習アプリ Duolingoは、そんな当時の実体験から生まれている。外国語を習得できるだけでなく、どの程度流暢に話せるかを証明させてくれるサービスである。

Duolingo が2012年に生まれたとき、多くの投資家からこう言われた。

You wouldn't be able to beat Rosetta Stone.
「あなたはロゼッタストーンに勝てない。」

Rosetta Stone は、当時オンライン言語学習の大手であった。すでにこのプレイヤーが市場を陣取っている中、Duolingoは勝ち目がないと言われていたのだ。しかし、多くの投資家の予想とは裏腹に、 その後 Duolingo はみるみるうちに成長したのである。

Duolingo と CAPTCHAの意外なつながり

Duolingo はどのように成長したのか。実は、そのヒントは、Luis von Ahn のPhD時代の研究にあった。

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(Google のreCAPTCHA Helpページより)

これを見て、見覚えのある方は多いのではないでしょうか。そう、アカウントにログインする時に必ず「BOTではないこと」を証明するために要求された、厄介なCAPTCHAです。

実はこのCAPTCHA、Luis von Ahn 氏が研究で開発したものなのです!
※今あるreCAPTCHAは、CAPTCHAの次に開発されたもの。
(ちなみにCAPTCHAとは、"Completely Automated Public Turing test to tell Computers and Humans Apart" の頭文字を取ったものです。)

CAPTCHAの技術は、その名の通り、自動生成されたアカウントと、実際に人の手で作られたアカウントを見分ける仕組みであった。スパムなど無数のフェイクアカウントに困っていた当時のテック企業にとって、この技術は、喉から手がでるほど切実に欲しかった技術だった。そんな技術を、Luis von Ahn氏はYahoo!に無料に提供し、そこからCAPTCHAの技術は瞬く間に広まった。

しかし、さらに大きく伸びたのはその後、reCAPTCHAを開発してからである。そしてDuolingoはまさに、CAPTCHAの次に開発されたこの reCAPTCHAで得た学びを生かして、成長してきました。一体、どのようにreCAPTCHAからヒントを得たのでしょう?

reCAPTCHAからヒントを得た、スケールの秘訣

実はreCAPTCHAで使われている変な文字、これはすべて「古い本からスキャンして、OCRが読めなかった文字」である。つまり、reCAPTCHAを毎回解く度に、スキャンできなかった文字が人間の手によって識別され、データが蓄積されているのだ。そして、複数人が同じ画像を解読していくため、一人の誤った解読に影響されることなく、質の高い文字の識別が可能となった。私たちが毎回ログインで「自分が人間であること」を証明するために解いていたクイズこそ、クラウドソーシングだったのである。

※ちなみに今は、古書の文字ではなく、Google Street View で識別できなかった写真など、幅広いデータを扱うようになっている。

スパムを防げるだけでなく、ログインごとに新たなデータを生み出し、各ユーザーによりチェック機能も果たされる ー その仕組みは、クラウドソーシングの力をうまく生かしており、大成功だと言えるだろう。このおかげで、解読したデータの提供を通じてマネタイズも可能になった。とっくに有名人になったLuis von Ahn は、ついにマイクロソフトの Bill Gates からも直接スカウトの電話をもらっただとか!

クラウドソーシングで成長した Duolingo 

Duolingo では、各言語においてボランティアが学習コンテンツを作り、外国語学習者は無料で学ぶことができる。そして、reCAPTCHAの経験を生かし、Duolingoでは、外国語を学習中のユーザーが自分の力試しも兼ねて「外国語の翻訳」を担っているのである。実際、Duolingo はメディアのBuzzfeed やCNN と契約を結び、翻訳を提供していた。

ユーザーは、外国語を学びながら、世に必要とされている翻訳業務に貢献できるということで、「学びながら社会貢献」という一石二鳥な感覚を与えられた。また、複数ユーザーが同じ文章を翻訳していくので、質が偏ることなく、担保できるようになっていた。これこそreCAPTCHAと同様の、クラウドソーシングの強みである。

しかし、翻訳の業務委託を通じたマネタイズも、徐々に限界が見えてきた。そこで、Duolingo は方針を変え、VCからの資金調達にフォーカスするようになった。そして、大切にしていた「外国語学習者は無料で学べる」という軸はブレずに、マネタイズにアクセルを踏まず、調達した資金で良い人材を採用したり、とにかく投資に注力していた。

これまでDuolingo は7つものラウンドを経て、累計$148.4M(約150億円) 調達している。Crunchbaseより

現在 Duolingo は、Spotifyのように広告をなくせるサブスクリプションモデルも取り入れており、4000万人ものMAUのうち3%が課金している。

ゲーミフィケーションでユーザーに楽しく継続してもらう

さて、冒頭にも言及した通り、EdTechサービスは結果が出るまで時間がかかるため、その間ユーザーをいかに継続させ、結果にコミットさせるかが課題となる。Duolingoはこの継続率を上げるために、積極的にゲーミフィケーションを取り入れてきた。

彼らがいろんなユーザーを見てきてわかったのは、次の2つ。
1)もともとモチベーションが高い子は、やり抜く力があり、自然とコースが終わるまで残る。
2)一方、あまりモチベーションが高くない、もしくはあまり自学自習が得意でない生徒は、楽しくないとすぐに脱退してしまう。

もちろん、(1)の生徒だけを集めれば、とても良い結果は出るであろう。しかし、Duolingo が本当に支えたいのは、実際(2)の生徒たちだった。本来、言語学習に苦労している生徒たちに取って、もう少し気楽に、楽しく、外国語を習得できるサービスを提供したかったのだ。

よって、Duolingo を楽しく使ってもらうよう、あるレベルに達するたびに「アワード(賞状)」をもらえたり、すぐに成績が見えるようにしたり、とにかく自分の努力がすぐに報われる、そして成長していることが可視化されるように、工夫した。

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Duolingo のウェブサイトより)

2つのポッドキャストを聞いたあとの感想

Masters of Scale のポッドキャストで、Reid Hoffman はクラウドソーシングについて、こう話していた。

I believe crowdsourcing can scale your business in unexpected ways — as long as you perfectly align your mission with your crowd’s motivation.
「クラウドソーシングは、ビジネスを予想外にスケールさせる力があると信じている。しかし、大前提として、その "crowd" - すなわちユーザーたちのモチベーションが、あなたのミッションとしっかり足並みを揃えていることが重要である。

Duolingo では、外国語を学びたいというユーザーのニーズをうまく捉えられており、それを「無料」という形で手軽さを手に入れ、さらに「クラウドソーシング」により、ユーザーは学習しながら翻訳作業を手伝うことができた。その上、ボランティアの協力により、コンテンツ開発にかけるコストをかけずにサービスを展開できている。特にこの最後の点に関しては、「カリキュラム開発」が教育事業において大きな強みになる一方、膨大なコストと手間がかかる中、Duolingoはよくできたビジネスモデルだと感じる。

当時、他にもRosetta Stoneなど多くの語学サービスはあった。しかし、どれも受講料がかかるため、金銭的に余力のない人には届かないサービスだった。Luis von Ahn は、実体験より、「英語を学びたいがお金がないから学べない」という人がどれほどたくさんいるのか知っていた。Duolingoは、この市場のペインをうまくつかみ、これまで学習コンテンツにお金を支払わなければいけなかったという従来の語学のあり方を大きく変えたのだ。

学びたいというユーザーが集まる理由は理解できるが、一方、よく「学習コンテンツを提供するボランティア」を集められたなぁ、と感心する。Duolingoのカリキュラムは、Duolingo Incubatorというサイトで、ボランティアによって次々と開発されている。

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これは実際、TEDの動画に字幕をつける翻訳ボランティア(TED Translators)の取り組みと似ていて、純粋に「貢献したい」という気持ちを持つボランティアが集まり、そして貢献することによって「貢献度」をシステムで可視化され、自分の実績になるよう設計されているのだろう。しかしこのような仕組みを成功させるには、強固たるコミュニティが必要となる。Duolingoでは、外国語を学びたいというユーザーが集まり、活発なコミュニティを築き上げられたからこそ、ユーザー同士で活発なコミュニケーションが可能になったのだろうか。

Duolingoも設立された2011年より9年も経っているように、EdTechなど教育事業は、成熟するまでかなりの年月がかかる。さらに、事業をスケールさせる「量」と、提供する教育の「質」、双方のバランスが難しい。マネタイズもかなり課題となる。しかし、工夫されたビジネスモデル次第で、Duolingoのような成長は実現可能だと、今回とくに感じました。

Luis von Ahn氏のTED Talkも興味深いので、ぜひご覧ください。

最後まで読んでくださりありがとうございます!
まだnoteはじめたばかりですが、これからもVCとして日々学んだことを、記事として記録していきます。
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